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第二十二節 捜査四日目 ②絵画の秘密


俺はメルドさんや館長に簡単に挨拶をして、真っ青な顔のリュカ君を外に連れ出した。

とりあえず、リュカ君の手を引いて広場の方に向かう。


広場に出ていた屋台で、フルーツジュースを買ってリュカ君と適当に座る。

リュカ君はまだ顔が真っ青だ。


「大丈夫?」


俺の問いに、リュカ君はこくんと頷いた。


「話せる?」


リュカ君はまたこくんと頷き、少しして話し始めた。


「あれ、僕が書いたやつです。」

「あれって…美術館にあった『微笑む女』のこと?」


こくりと頷いて、リュカ君は言葉を続けた。


「僕、絵を真似して書くのが好きで…あの絵も描いたんです。」


ぽつり、ぽつりと彼はゆっくり言葉を続ける。


「本当の絵、『微笑む女』には右目になんか、傷みたいのが入ってるんです。なんだかわからないんですけど、すごく不思議で。」

「うん。」

「あの絵には、それがなかったし、それに…」

「うん。」

「本物ほど、うまくないです。」


いや…

十分うまかったけど?

美術館の人も、気づいてなかったみたいだし?

俺としては、リュカ君が書いたって方が、現実味ないんだけど。

でも、リュカ君が嘘つく理由もないしなぁ。


なんて言ったらいいかわからず、黙っていると

「お父様…どうして…」

リュカ君はそう言って大きな目からポロポロと涙をあふれさせた。


うーーーー。


俺はリュカ君をそっと抱きしめる。

あの司祭がどうやって絵を返したかなんて、どうでもいい。

どうでもいいけど…

一発ぶっ飛ばしてやりたい。


――――――――――――――――――――――――――


はぁ。

あの後、リュカ君を何とかなだめて、帰ると言った彼を大聖堂まで送って、ブラックモア侯爵家に戻ってきた。

大丈夫かなぁ。

司祭と一緒で…。


うーん。


「ずいぶんと、ひどい顔をしているな。」


玄関広場をとぼとぼ歩いていると、らせん階段の上から、お嬢様の声がした。


「ひどい顔ですか?」

「あぁ。絵が戻ったんだろう?」

「はぁーーーー。」


お嬢様は、方眉をピクリと動かすと、

「とりあえず、庭でランチにする。今日は、割と暖かいからな。」

と言った。


庭のシートを敷いて、お嬢様と座って本日のランチをいただく。

ピクニックスタイルで軽食なんかをシェフがバスケットに詰めてくれてる。

まぁ、敷地内の庭なんですけどね。


「それで、どうしたんだ?」

「どうって、何から話せば…」


俺は、リュカ君と美術館に行ったこと、リュカ君が絵が偽物だと言ったことをお嬢様に説明した。


「メルドがいたのか?」

「いました。普通に。」


お嬢様は少し考えてから、

「絵が本物ではないというのは、事実だろう。」

と言った。


「俺も、リュカ君が嘘ついてるとは思わないですけど、でも、美術館の人も気づかないなんて…」

「少なくとも、サミュエル…メルドの奴は気づいていただろう。が、あえて気づいていないふりをして、お前とリュカに絵を見せたんだろうな。気づかせるために。」

「なんで、そんなこと?」

「あいつは、本物の絵が飾られることを望んでいる。場所はどこでもいいだろうし、形式もなんだっていいんだろうが、なるべく多くの人の目に触れさせる。その方が、奴の目的、というにはあれだが、とにかく理に適うからな。」

「目的って、何なんですか?」

「ケイオス、だと。」


お嬢様はわざとらしくいやそうな顔をして言った。


「なんです?それ?」

「知らん。」


出たよ、知らん。

まぁいいや。


「でも、他の学芸員さんは?」

「本物か偽物か、どうやって判断するんだ?」


どうやってって…


「見れば、わかるんじゃ?」

「精巧にまねたものの真偽を判断するのは、極めて困難だ。例えば、経年などが科学的に証明できるようになれば、製作年の矛盾などから判断できるかもしれない。が、現状、現実的に、その判断を下す方法がない。まして、絵はヴァロワから届いて日が浅く、スタッフたちも特別展の方に集中していて、大して重要視していなかっただろう絵だ。唯一判断できそうな担当学芸員は、何を考えてるかわからん諜報員。真偽を判断するのは、大勢が、これが本物だ、と思うその認識に依存することになる。」

「つまり、本物かどうかはわかんないってことですか?」


お嬢様はバスケットからごそごそと、ショコラケーキを取り出して、応えた。


「幸いに、今回の絵には明確に真偽を見分けることができる箇所がある。」


え?今、真偽がわかんないって話してたのでは?


「リュカの言う通り、本物の『微笑む女』には、右目に暗号が刻まれている。それを知っていて、ないと言ってるんだ。リュカの言う通り、美術館にはリュカの書いた模倣品を戻したんだろう。あの司祭殿は。」


確かに、リュカ君も目に傷とか言ってたけど。

「暗号って、何ですか?」

「暗号は、暗号だ。作者の画家は奇才と呼ばれた天才だ。かなり凝った暗号が隠されていた。」


というか、

「なんで、そんなこと知ってるんですか?」


常識なの?


「サンティアゴ大聖堂で、本物を確認したからな。リュカにあの暗号を作るのは、無理だろう。」

「いつの間に?」


俺の問いに答えずに、お嬢様はショコラケーキをモグモグ食べている。

なんだよー。もう。

というと、メルドさんが諜報員だとして、絵に暗号があるとして、そうすると…


「諜報員は暗号を狙ってるってことですか?」


そうすると。


「え?本物が戻んない方がいいとか?」


俺の独り言にお嬢様はきっぱりと答えた。


「本物は、本物である方が良いに決まっている。」

「でも、暗号が…」

「そう簡単に解けるものでも、気づけるものでもない。解かれたらそれまで、解いた人間が、どうするかの選択肢を得る。それだけだ。」

「でも、お嬢様は解いたんですよね?」

「だから、言っている。本物は、本物であるべきだ、とな。」


うーん。


「でも、今はリュカ君が描いた絵が本物として認識されちゃってるわけですよね?」

「そうだな。」

「どうするんです?」

「本物を、本物だと認識してもらうしかないだろうな。」


だから、どうやって?


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