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第十八節 捜査三日目 ②学芸員の正体


さて、ケンウッド公爵と公爵令嬢がお帰りになった後、お昼前にお嬢様は戻ってきた。

大量のお菓子を抱えて。


な、なんかあったのかな?

ものっすごい、不機嫌なんだけども。

そして、俺にも甘いものを分けて欲しい…

俺だって、俺だって…

ストレス感じてるんじゃい!


「お嬢様、お昼前にそんなにお菓子食べたら、お昼が食べられなくなりますよ?」


無視。


「聞いてます?そんなにいっぱいあったって、食べきれないんですから、せめて俺にも分けてくださいよ。」


無視。


なんだかなー。

はぁーとため息をつくと、お嬢様はぽつりと

「お茶を入れてくれないか。濃い目に。」

と言った。


「俺にも、お菓子くれます?」


お嬢様は、視線をそらしながら一度だけ首を縦にした。


「ちゃんとお昼、食べるんですよ。シェフに怒られますからね。」


これにも、一度だけ首を縦にする。

こういうとこは、年相応の子供なんだよなー。


ということで、お嬢様に濃い目のお茶を提供し、俺もお菓子をいただく。

こんなにいっぱい、何軒回ったんだって量だ。

同行した護衛に同情。


「そう言えば、ケンウッド公爵が来たそうだな。」

「そうですね。誰かさんが、俺のこと置いていくんで、散々目にあいましたよ。」


お嬢様はうっ、とちょっと気まずそうに言葉を詰まらせた。


「ケンウッド公爵令嬢が、お前を引き抜きに来たと、スティーブが言っていたが。あのご令嬢はお前の何をそんなに気に入っているんだろうな。口うるさい上に、面倒ごとを持ち込んでくるというのに。」


むぅ。そんな言い方ないでしょーが。

そもそも、面倒ごとはお嬢様がお菓子につられてホイホイ引き受けるのが悪いんだし?


「まぁ、わかる人にはわかるんですよ。俺の優秀さが。でも?ケンウッド公爵令嬢は誰かさんと違って偉そうじゃないし?何言ってるかわかんないけど、偉そうじゃないし?俺のこと置いていったりしなそうだし?」

「好きにしたらいい。お前の人生だ。好きな場所で、好きなことを。選択できるということは、自由であるということだ。」


お嬢様は、遠くをぼんやり眺めながら言った。

そんなことを言わせたかったわけじゃないんだけど…

お嬢様は、輪郭を失ったような、消えてしまいそうな、そんな風に見えた。

えー。どうしよう。泣きそー。


「な、なんだお前…なんで泣いて…」

「だって、お嬢様が悪いんですよ。寂しいこというから…」


腕で目をぐしぐしこすってお嬢様の方をみると。

今まで見たことないすごい顔してる。

どういう顔なんだ。


お嬢様は、変な顔のままお茶をご行儀よく飲むと、

「悪かった。」

とものすっごい小さい声で言った。

たぶん、何が悪いかはわかってないと思うけど。


「いいですよ。俺も思ってもないこと言いましたし。ケンウッド公爵令嬢には、きっぱり断りました。旦那様にも距離を取った方が良いって言われたし。」

「まぁ、あの家は…問題が多すぎるからな。」


「でも、オスカー公爵子息とは、連絡とってるんですよね?」

「近況報告で少しやり取りしているくらいだがな。」


ふーん。


「それ、王子殿下は知ってるんです?」

「なぜ?」


なぜって…


「婚約者が、他の男と手紙のやり取りしてるのって、どうなのかなって思いますよ。普通。」


お嬢様は馬鹿にするように笑った。


いや、男心がわかってないよ。

俺が王子殿下とのお茶会に出禁になってるのも、絶対ジェラシー的なのが理由だもん。


「昨日、ずいぶん戻りに時間がかかったようだが、何してたんだ?」


急に話題変えるじゃん。


「リュカ君と、美術館に行ったんですよ。すごい混んでて、入るまでに時間がかかって。それで、メルドさんからのメモをその時預かったんです。」


お嬢様はあからさまに嫌な顔をした。


「なんです?その顔。」


そっぽを向いて応えない。


「メルドさんには、とりあえず三日待ってほしいって言いましたけど、あの人全然話聞いてくれなくて…」

「問題ない。あいつは、今日にはもう美術館から消えているだろう。」

「へ?」


間の抜けた俺の返しに、お嬢様は言葉を続けた。


「あいつは、どこぞの諜報員だ。今回は、アーディス・メルドと名乗っていたが。お前も面識があるだろう。サム・リドルとして王宮にも入り込んでいた。」


サム・リドル? 


「誰です?それ。」

「お前、記憶力が鶏なのか? 王宮に勤めていたフットマンで、お前は面識があるだろうが。」


んーー。


あっ、あの二股クズやろうか。

印象的な青い瞳を思い出す。

顔面に俺モテますとでも書いてあるような美形だ。


で?


「メルドさんとは顔も何もかも、全然別人ですよ!」

「変装が、得意なんだろ。」


そんな簡単に。ほんとに別人だけど、マスクでも被ってんのかなー。

うーん。


「でも、なんでわかったんです?お嬢様、サム・リドルに会ったことないですよね?」

「名前だ。アーディス・メルドを並び替えると、サム・リドルになる。 他にも、向こうから連絡がきたからな。わざわざこちらが使った暗号を使って。」

「暗号って?」

「あのカードだ。『踊る人形』という、以前ロドリゲス嬢の日記を返す時に使った暗号で書かれていた。」


あー、通りで見たことあったわけだ。

で、名前?

Ardis Meldを並び替えると

Sam Riddle…

ほんとだ!


「えー、あいつ。えーー。」


衝撃的すぎる。


「諜報員って、何が目的なんですかね?」


俺の問いにお嬢様は渋い顔で

「知らん。」

と短く答えた。


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