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第十六節 ――――――――――――――――――――――――


高台には心地よい秋の風が吹いていた。

男は、高台の塀に立ち、一望できる人の営みを見下ろしていた。


「まさか、解読されるとはな?」


鈴のような声がした方に、男は視線だけを向けた。


「俺の身にもなって欲しいよ。必死に解読して、まさか『返します』だけなんて。」


赤茶色の巻毛の男は、わざとらしく両肩をすくめた。指先まで力を抜いた、どこか芝居がかった仕草だった。


「あれ、なんていう暗号なの? 自作かい?」


男の問いに少女は無表情に答えた。


「『踊る人形』という。私の自作ではないが、面白い暗号だろう。」


男はくつくつと笑うと、体の向きを少女へと向けるため、反転させた。


「お前、どうやっているんだ?」


男を正面から見て少女は問うた。

その問いに、男はすぐには答えない。

わずかに視線を伏せ、唇の端を引きつらせる。


「その目……書類では、お前の瞳は青だったはずだ。」


男はかけている丸眼鏡に指をかけ、鼻梁の上で位置を直した。金属がかすかに鳴る。


「最初は、その眼鏡が光を屈折させているのかと思ったが……横から見ても、お前の目は茶色に見える。」


男はふっと息を吸い、片手で口元を強く覆った。

肩が、わずかに震える。


「……ハァ……ハッ……ハッハッハ」

抑えきれなくなったように、低い笑いがこぼれ出す。

それまでよりも一段低い、まるで別人のような声だった。

男は顔を上げ、前髪をかき上げるようにして眼鏡を外した。

レンズの陰から現れた瞳は、濁ったような暗い茶色をしている。


少女は男の瞳をじっと見つめていた。


「けっこう、痛いんだなぁ。これが……」


男はそう言うと、右手の人差し指と親指をすっと立て、ゆっくりと自分の右目へ近づけた。

指先がまぶたを押し広げ、眼球の表面に触れる。


少女はその様子を、一切表情を変えずに見つめている。


男は、指で何か薄いものをつまみ上げるように動かし、ずるりと、透明な膜のようなものを目から取り出した。

オレンジ色にかすかに光る、薄いガラスのような板。


「……っと」


男はそれを少女に見せるように目の前に掲げると、親指と人差し指で挟み――


パリッ


乾いた音とともに、割った。


灰色に曇った空の下で、男の右目は――濃い青色をしていた。


「サム・リドル。」


少女は男を無表情で見つめたまま、呟いた。


「やっぱ、バレるか。」


いたずらが見破られた子供のような顔で、男は口の端をつり上げる。


「目の色は、ガラスを入れてんだよ。直でな。で、顔の方は……」

そう言うと、男は両手で自分の頬を掴んだ。


柔らかそうな皮膚に指が食い込み、ぐい、と引き伸ばされる。

指が動くたびに、鼻筋が歪み、頬がずれ、口元が妙な形に引きつる。


一度、両手で顔をすっかり覆い隠し――


「ばぁ」


次の瞬間、ぱっと開いた。


そこには、先ほどまでとは明らかに違う、整った目鼻立ちの顔があった。


「なるほど。マスクではないのか」

「ははっ。これを見てそう言う感想を言ったの、あんたが初めてだよ、レディ」


男は、軽く片足を引き、芝居がかった所作で頭を下げる。


「改めて、初めましてと言わせてもらおうか、レディ・ブラックモア。

会いたかったよ。メッセージの通りに。」


少女は、不愉快そうに片眉を上げた。


「それが本当のお前の顔か?」

「まぁ、一応ね。サム・リドルはほとんどオリジナルでやってたからさ。今回は、髪から何から、いじらなきゃならなかったわけよ。」


男は、くるくると自分の巻毛を指に絡めながら言った。


「ふん。気づいてほしくて仕方がなかった者の言葉とは思えんな。」


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