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第十三節 捜査二日目 ④再び美術館へ


お嬢様は、例のごとくさっさと屋敷に戻ってしまった。

俺は、なんとなくリュカ君を一人で帰す気になれなかったので、お嬢様と別行動で、リュカ君とサンティアゴ大聖堂までの道を歩いている。


道中には、例の王立美術館がある。

今日もすごい行列だ。

結局、犯人わかっちゃったし、展示の現場を見に行く必要なくなったなぁ。


そういえば…

「絵を描くのが好きって言ってたけど、見るのも好きなの?」

俺の質問に、リュカ君は頷いた。

それなら、時間もあるし美術館に行くのもいいかもしれない。

彼には気分転換も必要な気がするし。


「美術館、行ってみない?実はお嬢様から、美術館を確認するように言われててさ。」


俺がそう言うと、リュカ君はこっちを見上げて固まってしまった。


「あ、時間とか、大丈夫だったらだけど。」


急に変なこと言っちゃったかなぁ。


リュカ君は何を考えているかわからんけど、こぼれそうな瞳をじーっとこっちに向けて

「いいんですか?」

と言った。


「いいよ…いいよ!付き合ってくれると、助かるよ。一人で行くのはなーって思ってたから。」

俺の言葉に、リュカ君はにっこり笑った。

て、天使の微笑だ。

お嬢様もビジュアルは美少女だし、ウィリアム王子殿下もすごい美形だけど、中身知ってるせいか、天使って感じじゃないんだよな。ケンウッド公爵令嬢も。


ということ、俺はリュカ君と美術館に入るべく、列に並ぶことにした。

並んでいる間、少し心を開いてくれたのか、いろいろと話をしてくれた。


ヴァロワの孤児院で育ったこと。

そこで、近くの教会で司祭をしていたモンフェラン司祭の養子になることになったこと。

孤児院には仲の良かった『アデリア』というかわいい女の子が…


はて?どこかで聞いた話だな?

うーん…

最近このケースが多くて、なんだっけな。


あっ!

ケンウッド公爵令嬢の話だ。

確か、リュカの事件がどうとか、主人公の名前がとかそんな話してたはず。


ほんと、あのご令嬢の話って、合ってるようで合ってないような話だな。

気にするだけ疲れる気がするので、考えるのをやめて、リュカ君との話に集中しよう。


彼の話によると、司祭はものすごーくヴァロワに帰りたがっているらしい。

「リュカ君も帰りたい?」

「うーん…」


あら、考えこんじゃった。


「友達と会えないのは悲しいけど…こっちの方が安全だしご飯もあるから。みんながこっちに来てくれたらなって思う。」

「そっかぁ。」

「うん。でも、ヴァロワの方がご飯はずっと美味しいけど。」

リュカ君はそう言って笑った。


故郷かぁ。

俺の故郷はどうなってるんだろう。

気にしたこともなかったし、ろくなことにもなってないだろうけど。

こうしてヴァロワの話を普通にできる、それだけでだいぶ自分にとっては故郷ってどうでもいいものになってるんだろうなって感じる。


「お兄さんは、アルビオンの人なの?」

「俺?俺は、出身は違うよ。ヴァロワの東側にあった国。もうなくなっちゃったけどね。」

「国がないの?」

「そう。滅んじゃったんだよ。俺が小さい時だけど。」


あ、やばい。重い話になっちゃった。

リュカ君も暗い顔に…


「気にしないで。俺は、今はほら!幸せにやってるから。」


俺が元気にそういうと、リュカ君はほっとしたようだった。

良かった。


そんなこんなで、やっと美術館に入館。

入り口には昨日話を聞いた憲兵のアダムさんがいたので挨拶をしたら、メルドさんがすごい愚痴ってたって話を聞いた。

忘れてたわけじゃないけど、メルドさん…

後で、挨拶しておこう。ついでに進捗も、ぼやかしながら伝えておくか。


リュカ君は興味深そうに美術館の展示品を眺めていた。

特に、自分でも言っていたように絵が好きみたいで、宝石やらの歴代国王・王妃の装飾品の展示エリアはスタスタ行っちゃうのに対して、絵の前では長く足を止めていた。


肖像画がたくさん飾られている回廊には、人がこれでもかってくらいひしめき合っていた。


「すごいな…」

「ここ、何があるんですか?」


リュカ君の質問に、答えづらいような気もするけど、隠すことでもないし。


「この奥に、例の絵画がもともと展示されてたんだよ。」


俺がそういうと、リュカ君は目を少し見開いて、そのあとしゅんとしてしまった。

あらら。

ものすごく混んでるし、ここはいいか。


戻ろうか、そうリュカ君に言おうとした時――


「あ~~~~~~~~、エドモンドさん!」


誰かが、ものすごい大声で俺の名前を呼んだ。

この声は…


人ごみの中に赤茶色のもじゃもじゃが見える。


メルドさんだぁ。


人ごみをぬってもじゃもじゃがやってきた。


「今日、ブラックモア侯爵のお宅にお伺いしちゃいましたよ~。」

「すみません、ちょっとお嬢様と用事がありまして…」

「あれ?今日はそのお嬢様は?」


メルドさんは俺と一緒にいる、俺たちより頭一つも二つも小さい少年に目を向けた。


「ちょっと、ここでは話しづらいと思いますので、場所を移しませんか?」


小声でそう言うと、メルドさんは前に通してくれた事務室へ俺とリュカ君を通してくれた。

リュカ君は、途中の修繕室に興味津々だったけど。


「それで、今どんな感じですか?」

来た!


「えっと、お嬢様が絵画の在処の検討はつけてくれまして…」

「ほんとですか!」

「なんですが、まだちょっと時間がかかるかなーという感じで。三日ほどお時間いただきたいなーと。」

「え?三日後に絵が戻るんですか?すごいな~。さすが、ブラックモア侯爵令嬢様ですね~」


いや、そうとは言ってない。


「いえ、まだ断定はできないんですけど…」

「よかったですよ~。館長ってば、今回の事件で美術館に人がいっぱい来るようになったからって、絵は戻んなくていいなんて言い出しちゃって…。僕の首は繋がりそうなんですけど、やっぱりないままってわけには、いかないじゃないですか。いや~、よかったよかった。」

「いえ、だから、まだ確実では…」

「そういえば、なんか変なメモを見つけたんですよ。『微笑む女』の説明板に。」


俺の言葉を遮りまくって、メルドさんは話を続ける。

リュカ君をちらっと見ると、不安そうだ。

そうだよねぇ。


「これなんですけど…」

そう言って、全然話を聞いてくれないメルドさんは、カードのようなものを渡してきた。


見ると、そこには人間のような、影絵みたいなものが描かれていた。人間の影みたいな絵は、いろんなポーズをしている。


なんか、見たことあるな?


「何かの役に立つかな~と思ったんで、ご令嬢に渡しておいていただけますか?」


メルドさんはにこにこ笑ってそう言った。


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