第十二節 捜査二日目 ③別の依頼
突然やってきた大聖堂にいた男の子を落ち着かせて、何とかベンチに座らせる。
「どういうことだ?」
珍しく、お嬢様が俺みたいな質問を彼に投げかけた。
俺は彼の背中をさすってあげる。
少し震えているようだった。
「あの、…実は、さっき話していた…」
「その前に、自己紹介していただきたいものだな」
いや、自分がどういうことだって聞いたんじゃん。
お嬢様の方をじとーっと見ると、お嬢様もなんか文句あるかといった具合に見返してきた。
「あ、す、すみません。僕はリュカ。リュカ・モンフェランです。」
「モンフェランって…、司祭様のご親戚?」
俺が尋ねると、彼は
「息子です。」
と答えた。
司祭に息子?
司祭って、一応独身じゃなきゃダメなんじゃ?
「預かり子だろう。義理の息子ということだ。自分の後継を残すために、神職者は孤児などを息子にすることが少なくない。」
お嬢様の補足に、リュカと名乗った男の子はこくんと頷いた。
なるほどー。
というか、俺声に出してないよね?
「それで、司祭殿の息子が、我々に一体なんの助けを求めているんだ?」
彼は俯きがちに答えた。
「実は、ニュースになっている絵…盗んだのはお父様なんです。」
「それで?」
いや、今のすごい一世一代の告白だったと思うよ。
せめてびっくりしてあげよう。
「えーーーーー。そうなんですかーーーー。」
大げさに言う俺に、お嬢様は白い眼を向けた。
リュカ君は、お嬢様をぽかんと見つめている。
「貴殿の父君が絵画盗難の犯人で、何を我々に求めているんだ?」
「え?」
「捕まえないでほしい、ということならお門違いだ。我々には逮捕権はない。ヤードなりにわかっていることを教えることはするが、逮捕するかどうか決めるのはヤードだし、犯罪者として起訴するのを決めるのは判事だ。理解できるか?」
リュカ君はぽかんとしている。
見た目は同い年くらいに見えるけど、お嬢様の中身が異次元なせいで…
わかるよ、リュカ君。俺もお嬢様の言っていることは、よくわかんないことが多いから。
「あの、お父様を、捕まえに来たんじゃ…」
「そんな権限はない。が、悪いことをしたのであれば、正さなければならない。違うか?」
リュカ君は一瞬、寂しそうな、泣きそうな何とも言えない顔をして、ぽつりと言った。
「神様はいつもあなたのそばに。」
「その、盗むのは良くないことですよね。だから、ちゃんと返さないといけないし…」
「そもそも、どうして父上が犯人だと?」
俺の言葉を遮って、お嬢様がリュカ君に質問した。
「あ、あの。僕絵を描くのが好きで…大聖堂にある絵を真似したりしてて。それで、倉庫にある絵を描いたりしてるんですけど、倉庫に、新聞に載ってた絵があって…」
「それで、お父さんが盗んだんじゃないかって?」
俺が聞くと、リュカ君は泣きそうに首を縦に振った。
「そっか。」
どうしたもんかなぁ。
メルドさんにも頼まれてるし、今の話をヤードにしないわけにもいかないし…
うーん。
「説得できるか?」
唐突に、お嬢様が言った。
「え?」「え?」
俺とリュカ君は二人とも頭に?が浮かんでいるだろう。
「説得できるかと聞いたんだ。父親に、絵画を美術館に戻すことを。まぁ、本来は自首すること、と言いたいところだが、今絵画を戻せば、被害らしい被害は出ていないからな。」
「え…それって、絵を戻せばって、ことですか?」
お嬢様は俺の質問に答えずに、残っていたサンドイッチを口にほうばった。
お嬢様なら、自首しろって言うかと思った。
まだ、俺はお嬢様のことを理解しきれてないんだなー。
…いや、よく考えたら理解できるはずなかった。
リュカ君はじーっと一点を見つめて、考えているようだった。
そして、
「僕、お父様にお願いしてみます。」
と言った。小さい声だった。
義理の親子って、どういう関係性なんだろう。
実の親子だって分かり合えないこと多いのに、こんな小さい子が、親の、しかも育ての親のしたことを正して、大丈夫なのかな…。
存外、お嬢様は酷なことを言っているのかもしれない。
「三日後の12時。エドモンドがまたここに来る。その時に、状況を報告するんだ。」
お嬢様はそう言うと、ベンチから立ち上がった。




