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第十一節 捜査二日目 ②消えた絵画の行方


モンフェラン司祭と話をして外に出ると、雨はやんでいた。


お嬢様が、お腹がすいたと言ってうるさいので、俺たちはパンでも買って食べることにした。

せっかく雨もやんだし、外に来ているので、王都を見渡せる旧城壁跡地の高台でまったりすることにした。

石でできたベンチは少し湿っていたので、ハンカチを敷いてお嬢様と座る。


「さっきのモンフェラン司祭との話ですけど、なんで出身地なんて聞いたんですか?」

「少し気になっただけだ。」


ふーん。


「でも、盗まれた絵もヴァロワからきて、あの司祭もヴァロワからきてって、なんかあるんじゃないかって思っちゃますよねぇ。急に怒ったりして、怪しかったし。」

「何も不思議なことはない。ヴァロワは50年前の革命から、未だ政権は安定していない。数年前にやっと共和制を採用して今の体制に落ち着いたばかりだ。財政に問題も抱えているのは明らかだし、旧体制の遺物である美術品を売って足しにするのに抵抗もないだろう。売り払ったものに、どれほどの価値があるかなど、理解もせずにな。それに、革命時に旧教教会の上層部を散々ギロチンにかけたせいで、旧教との関係も悪い。エスパーニャとの関係が悪化しているのは、何もうちだけではないし、ヴァロワの方がむしろ司祭にとっては居心地が悪いだろう。」

「そんなもんですかねぇ。」

「そんなもんだ。」

お嬢様は小さい口で、サンドイッチにかぶりついた。

根っからのお嬢様のくせに、こういうことには抵抗ないんだよなー。


「でも、なんであんなに動揺したんですかね?」

「絵を盗んだ犯人だからじゃないか?」

「やっぱそう……え?」


驚いてお嬢様の方を見ると、お嬢様は口をモグモグさせていた。

ほっぺがいっぱい膨らんで、リスみたい。


「どういうことですか?」

「犯人なんだろう。ベルナール・モンフェランが。」

「えーーーーー!なんでです?」

「機会と、手段と、動機がそろっている人物だからな。まぁ、確定ではないが、最有力被疑者だ。大聖堂を隅まで探せば、絵が見つかる可能性は高いだろう。」


どういうことよ。ほんとに…


「説明おねがいしまぁす。」


お嬢様はこくんと咀嚼していたものを飲み込んで、言葉を続けた。


「資料を確認した通り、モンフェラン司祭は絵がなくなったと考えられる日曜に、美術館を出入りしていた。休館日には、内部の警備配置は普段より少ないだろう。彼にとっては、特別展の貸し出し品の搬入という正当な理由で内部に入り、人手の少ない休館日にこっそり美術館内をうろつくことは容易だったはずだ。そして、搬入のために使っていた鞄か何かに絵画を隠し、特に確認もされずに堂々と立ち去ることができただろう。特別展の貸し出し品を持ってきた司祭が、まさか絵画を盗むとは誰も思うまい。」


まぁ、確かに?司祭が絵を盗むなんて、考えられないですもんね。


「じゃあ、動機は何なんですか?」

「それはさっきお前が言っただろう。」


俺、何言ったっけ?


「ヴァロワだ。」

「ヴァロワって、ヴァロワ市民共和国ですか?」


お嬢様はまたサンドイッチをはむっと口に含んで、モグモグしだした。

ほっぺをまたいっぱいにして、咀嚼しながらお嬢様が応える。


「そうだ。あの『微笑む女』は、ヴァロワを代表する画家の作品なんだ。その画家は、名誉にも旧教総本山の壁絵を描いたことで知られている。つまり、ヴァロワ出身の旧教関係者としては、非常に思い入れのある画家の作品なわけだ。」

「なるほど?そんな作品が、新教の国に渡っちゃったのが、許せない的な…そんな理由あります?」

「犯罪の動機なぞ、他人には理解できないものだ。いつも言っているだろう。動機が最も難解な謎だと。だが、今回の件はお前の言ったくだらない事情が動機になりえる、というだけだ。特に、かなり安く買い叩かれたようだし、展示場所もあんなに奥ではな。」


メルドさんに案内された展示場所を思い出す。

絵はなかったわけだけど、確かに、美術館の中心からは結構歩いたもんな。


「はえー。それじゃ、司祭様が犯人だとして、ヴァロワに持って帰りたいってことなんですかねぇ。」


ちょっと義賊っぽいのを期待してたけど、このケースだと自己満足というか、セルフィッシュよりな感じするな。


「持って帰ったところで、盗品では日の目を浴びることはないだろうがな。」

「本末転倒ですよねー。」


二人でサンドイッチをモグモグしていると


「す、すみません。」


かわいらしい声が聞こえた。


声がした方を見ると、大聖堂で司祭と一緒にいた男の子が、手を胸の前でぎゅっと握って、不安そうに立っていた。

結局、男の子なんだよね?


「何か?」


俺が話す前にお嬢様が声に反応した。

口をモグモグさせながら、くぐもった声で。


「あ、あの…」

男の子は俯いてしまった。


「大丈夫ですよ。よかったら、こちら一緒にどうですか?」

そう言って、俺たちが座っているベンチに座るように促す。


彼は俺の提案に答えず、スーハーと大きく呼吸を繰り返した後

「助けてください。」

と、顔を上げて言った。


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