第七節 捜査一日目 ④公爵令嬢と神の思し召し
さて、メルドさんはお仕事があるとかで、今日は解散になった。
お嬢様の確認メモを見ると、もう一度『微笑む女』の展示場所を確認するように書いてあったので、俺は正面に戻って入館することに。
しかし…混んでるなぁ。
なんでこんなに人がいっぱいいるんだろ。お嬢様と前に来たときはガラガラだったのに、今日は入館するのにすごい列が並んでいて、かなり時間がかかりそうだ。
「エドモンド!」
何か、聞き覚えのあるような、ないような声が聞こえた。
「キャー、こんなところで会えるなんて、嬉しい!」
前からかわいらしいピンクのひらひらの服を着た、少し変わったブロンズ髪の美少女が手を振ってこっちにやってくるのが見える。
あれは、ケンウッド公爵令嬢だぁ。
なんで、こんなとこに。
そして、なんで、声をかけてくる。
「ケンウッド公爵夫人、公爵令嬢、ご機嫌麗しく…」
とりあえず礼を取って挨拶する。
公爵令嬢は上機嫌だけど、一緒にいるお母様である公爵夫人は、それはそれは、ごみでも見るかのような顔でこっちを見ている。
ハロッズ事件でいろいろあったので、夫人は明らかに俺のことをよく思ってない。
たぶん、あの生意気な変人令嬢の手下、くらいの認識だと思う。
俺だって、関わりたくないのだー。
「エドモンドも、『モナ・リザ』を見に来たんですか?」
そんな、俺の心情を全く察してくれない公爵令嬢は、天使の微笑で俺に聞いてきた。
はて? 『モナ・リザ』?
どっかで聞いたな…
「いえ、少し用事がありまして…」
「そうなんですか。良かったら、一緒にお昼でもどうですか?私たちこれから、ステーキの美味しいレストランに行くんです。お母様、いいですよね?」
いや、俺まだ答えてないし、あなたのお母様は良さそうではないんですよ。
「えぇ、もちろんよ…。ジュリアナ。」
娘に甘すぎん?
断ってくださいよ。俺のために。
そんなわけで、胃が痛くなるランチを取ることに。
結局、断れないしで美術館に行くことはできなかった。
「ここのステーキ美味しいですよね!」
「そうですね。」
ケンウッド公爵令嬢はニコニコだ。
俺は、味が、正直わからないけど。
「ところで、先ほどの『モナ・リザ』とは何でしょうか?」
「あ、知らないですか?新聞に載ってた、盗まれちゃった絵なんですけど。」
「それは…『微笑む女』のことですか?」
「え?ここでは、そう言う名前なんですか?新聞の写真だと、まんま『モナ・リザ』ですけど。」
何言ってんのかよくわかんないけど。
お嬢様が、盗まれて戻ってきた絵があるって話してた時に、『モナ・リザ』って言ってたな。確か。
どういう事なんだろ。
俺が考えに気を取られている間も、公爵令嬢は言葉を続けた。
「こっちでの名前はわかんないですけど、話題になってるので見に行ったんですよ。ほんとになくなってるみたいで、びっくりしました。戻ってきたら見に行きたいんですよね!本物の『モナ・リザ』って前世でも見たことないし。」
でた。公爵令嬢のよくわかんない話。
「ゲームのシナリオとは関係ないと思うんですけど、なんかちょっと気になるんですねぇ。リュカの過去の話と似てるって言うか。」
彼女のこの手の話には、相槌は不要だってことは学習済みだ。
おとなしく、話を聞いてれば勝手に話を続けてくれる。
ところで、リュカって誰よ。
「でも、リュカはヴァロワ市民共和国の人だし、こっちにいるわけないしなぁって。主人公のアデリアと小さいころから知り合いって設定だから…」
『アデリア』?
はて? どこかで?
「あの、アデリアと言うのは…」
思わず公爵令嬢の話に口をはさんでしまった。
すると、彼女は
「えっ! な、なんでアデリアに反応するんですか?」
と、かなり驚いたように聞いてきた。
「いえ、どこかで聞いたことのある名前だと思いまして、申し訳ございません。話の邪魔をしてしまいました。」
夫人が鬼の形相でこっちを見ている。
さっきまで機嫌よさそうに公爵令嬢を眺めてたのに。
親ばかなんだな。
「いえ、いえ…そのぉ。アデリアは、ゲームの主人公のデフォルトネームなんですよ。だから、こっちでの名前はアデリアだと思うんですけど…。あの、どこかで会ったこととかあるんですか?」
うーん。記憶を遡る。
「いえ、そう言うお名前の方とお会いしたことは…」
あっ!
「えっ、やっぱり、もう会って…」
「いえ、今日伺ったサンティアゴ大聖堂で『聖アデリア碑』というのを拝見したんです。それだけでございます。」
俺の言葉に、公爵令嬢はほっとしたようだったけど、何なの?
主人公って。
「そっかぁ。ならよかったです。てっきりフラグがもう立っちゃってるのかと思いました。」
公爵令嬢は安心したようだけど…
『モナ・リザ』に『アデリア』…
どっちも自分じゃなくて、お嬢様経由で聞いたり目にしたりした言葉だ。
前世とかげーむとか、ケンウッド公爵令嬢は言うけど…
まさかね?




