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第一節 プロローグ
コツ、コツ、コツ
天窓から温かい陽射しが、赤いベルベット調の壁を照らしている。
男が、誰もいない回廊をゆっくりと歩いていた。
コツ、コツ、コツ、コツ
陶器のように白い顔の人々が、男を見送った。
彼らは一様に首の周りに蛇腹状の飾り襟をつけ、一点を見つめたまま額縁に収まっていた。
男は、彼らと視線を合わせることなく歩いていく。
コツ、コツ、コツ
回廊の先、行き止まりとなる場所にはドーム状の天井があり、天井を一周する窓から、交差するように光が差し込んでいる。
一番奥に、彼女はいた。
男は、彼女の前で立ち止まった。
正面から見据えても、彼女は目を合わせてくれない。
――ああ……。
男はゆっくりと彼女に近づき、彼女に手をかけた。
――我が唯一の、主人のために――。




