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第二十八節 真相


ケンウッド公爵家で、お嬢様がとんでもないハッタリをかました次の日。

二度と敷居は跨げないと思っていた公爵家に来てます。


あんなに公爵を怒らせたのに…

なぜかマクシミリアン・ケンウッド前公爵のご夫人から、お嬢様に会いたいという連絡がきたのだ!

なーんか、女同士で話したいとかで、俺は遠慮するように言われてしまい、それで今――


「ほんとによかったですよね! このままいけば、私の断罪もどうにかできそうです!」


ジュリアナ・ケンウッド公爵令嬢と何度目かになる対面中。


この子、なんで俺とお茶したがるんだろ…

こちとらただの使用人だよ。

身分考えてよ。


そんで、断罪って何なんよ…


「そうですか。それは、良かったです。」


にっこり笑って返す。

どれだけ、当たり障りなく返せるか。これは、そういう、練習だ。


「お兄様も、何か静養もかねて外国の学校に行くらしいんです。そうしたら、私にいじめられてたーとか、使用人にいじめられてたーとか、両親に愛されなかったーとか、そういうのなくなるじゃないですか? お兄様に恨まれるフラグは折れたかなって思うんです。」


何て返答するのが、正解なんでしょうか?


公爵令嬢は俺にかまわずにニコニコしながら自分の話を続ける。


「それに、自分の出生の秘密も知らないままみたいですし、ヤンデレにならないかもです。」


でた、出生の秘密。


「その、不躾ですが、オスカー・ケンウッド公爵子息の出生の秘密というのは…」


「あっ、それは――」

「それは?」

「うちの両親の本当の子じゃないってことです。」


それだけーーーーー?


もっと、具体的に、何かないの?


「そ、そうですか。」

「そうなんです。」


そう応じた公爵令嬢は、内緒話でもするかのように口元を手で隠して、俺に近づき

「実は…」

と続けた。


「ほんとは、お父様のお姉さんの子なんです。それで、お兄様の本当のお母様は、お兄様を出産した後、産後鬱になっちゃって…家族の食事に毒を混ぜて無理心中しちゃったんです。お兄様は運よく生き残ったんですけど、ゲームでは、誘拐犯のエリオット・フィンチからこの話を聞いてしまうんです。」


ということは?


オスカー・ケンウッド公爵子息はアッシュフォード伯爵家の子ってことだよね。


えっ!お嬢様ではなく、俺の推理があってたってことじゃない?

えぇーーー、お嬢様に教えてあげなくちゃー!


お嬢様でも、間違えることはあるんだなぁ。

前公爵の子であることは間違いないーとか言ってたけど。


にやけそうなのを抑えて努めて平静に、平静に。

そもそも不謹慎だしな…


「そうですか。あまり、そのようなお話は…」

「あっ、そうですよね。内緒です。」


彼女はかわいらしく人差し指を口元にあてて「しーー」と言った。


「お兄様はかわいそうかもですけど、これで一家没落も防げそうで、ほんとによかったです。あのモブ令嬢が出しゃばって、どうなることかと思ったんですけど、結果オーライですね!」


……この子の言う事って、正しいんだっけ?


お嬢様にドヤ顔で伝えて、大丈夫かな…


「ちなみに、ハロッズで起こった事件のことは、何かご存じですか?」

「ハロッズですか?うーん…」


公爵令嬢を少し考えてから応えた。


「そう言えば、誘拐事件があった頃に毒入りビーフシチュー事件があったって設定ありましたね。本編とはあんまり関係ないんで、なんか設定凝ってるなーと思ったんですけど。確か、犯人はどっかの思想家みたいな話でした。」


――――――――――――――――――――――――――


「って言ってたんですよねー。どう思います?」


ケンウッド公爵家からの帰りの馬車の中、俺はお嬢様に公爵令嬢の話を伝えた。


お嬢様は、少しうわの空で、

「そうか。」

とだけ応えた。


なーんか…さっきからこんな感じなんだよなー。


「アッシュフォード伯爵家の事件は、夫人の無理心中だったんですかね?それに、お嬢様は、公爵令息は、前公爵の息子だって言ってましたけど――」


「ジュリアナ嬢の話は真実だろう。」


俺の言葉を遮ってお嬢様が言う。


「でも――」


「間違いなく、彼女の話が真実だ。」


こちらをまっすぐ見たお嬢様の瞳は、ランプの光のように見えた。


「誘拐犯についても、彼女は正しいことを言っているんだ。今回は、彼女が正しかった。私は、間違っていたんだ――それだけだ。」


ランプの光源が絞られるように、お嬢様の瞳の光がキューッと絞られているように見えた。

こんなお嬢様は珍しい。


それ以上何も言えないでいると、お嬢様は窓から外の明るさを確認してぽつりと言った。


「まだ、あの店はやっているだろう。食べ損ねた、デニッシュでも買いに行くか。」



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