第二十四節 捜査四日目 ②ケンウッド公爵家の人々
「ご無沙汰しております。アルバート・ケンウッド公爵。1日ぶりでしょうか?」
何言ってんのこの人…
お嬢様は出迎えてくれたケンウッド公爵家の人々を見回すと、蠱惑的な笑顔で公爵に向かってそう言った。
公爵も顔を引きつらせてるよ。
「何のことか…こうして会うのは初めてだと…」
「こうして会うのは確かに初めてですね。私はあの時拘束されておりましたし、あなたはマスクを着用されていた。」
「何を!」
え?ほんとにお嬢様何言ってんの?
「あぁ、失礼。謝意を申し上げねば。あの時はかたいパンをいただき、拘束を解く手助けをしていただいて、大変ありがとうございました。」
そう言ってお嬢様は美しいカーテシーをしてみせた。
「内密に、話をさせていただくべきだと思うのですが、いかがか?」
顔を上げたお嬢様の言葉を、公爵夫妻は不気味なものを見る目で見ていた。
俺たちは公爵の書斎に通された。
使用人も下がらせて、公爵とお嬢様、そして俺しかいない。
夫人は気分が悪いということで、下がってしまった。
公爵は俺にも同席させたくなさそうだったけど、お嬢様が圧で通してくれた。
「何か誤解があるようだ。」
公爵が口を開いた。彼はさっきから顔面蒼白で、肩で息をしているのがわかる。
「誤解などない。それに、その件は別段どうでもいい。」
お嬢様の言葉に公爵はピクリと片眉を動かした。
「それより、あの子息。オスカー・ケンウッドについて伺いたい。」
かろうじて平静を装っていた公爵の表情が崩れた。
本当に、出生の秘密なんてあるのかな…。
公爵がわなわなしている。
「父親はわかっている。母親は誰だ?」
「父親は私だ!……私が、娼婦に産ませたんだ。」
あれ、案外あっさり白状したぞ?
あんなにわなわなして、こぶしを握り締めてるのに…
というか、お嬢様、父親はわかってるってどういうこと?
うーん、聞きたい。
「違うな。」
「そうだ!」
びっくり…した。公爵はお嬢様の否定に怒鳴った。
「貴殿の子であるはずがない。新大陸で現地の子に産ませた子を、わざわざ連れて帰ってきたのでもない限り。」
「そうだ…。向こうで、産ませた子を連れてきたんだ…。男の子だったから…。」
ど、どういうことですか?
ついて行けなーい。
「現実的ではない。そんなことは、貴殿が一番わかっているはずだ。」
公爵はお嬢様を睨んでいる。けど、公爵は何も応えない。
俺は、どういうことか、全然わからない。
「わからんな。公爵家がここまでして隠す、合理的な理由が全く理解できない。そもそも、問題の種になるオスカーを、わざわざ自分の子として育てているのはなぜだ?」
公爵は沈黙したままだ。お嬢様は言葉を続ける。
「父親の、公爵家の私生児なんて、大したことのない秘密のために、危険を冒してまで私とオスカーを解放しに来たのか? 貴殿と夫人にとって、オスカーが帰らない方が都合がよかったはずだ。それなのに、解放しにきた。その理由はなんだ?」
「お前のような小娘に……何がわかる。」
絞り出したような公爵の言葉をあざ笑うかのように、お嬢様はオレンジ色に怪しく光る瞳孔を細めた。
は、話が全く分からない…
父親の私生児って…
え?
ケンウッド公爵子息は、前公爵の息子で?
今の公爵の…弟ってことなの?
あーーー。公爵がいっぱいでややこしいー。
「わかりたくもないな。私なら、親を切り捨てる。」
目を細めて公爵を見つめるお嬢様を、ぐっとこらえるように公爵は見つめていた。
しばらくの沈黙の後。
ふーっと深く息を吐いたお嬢様は
「それほどまでに…か。」
とつぶやいた。




