第二十一節 捜査三日目 ③家宅捜査
「ここが、エリオット・フィンチの家だ。」
俺は警部と一緒に、誘拐犯にしてアッシュフォード伯爵一家毒殺事件の被疑者の息子の家に来ていた。
警部がブラックモア侯爵家から帰って、そんなに経ってないのに…
「こんなに早く、見つかるんですね。」
「身元がわかったのがでかいな。それに、偽名も使われてなかったから、助かったぜ。」
なるほど。
あの後、チャリティーの参加者リストを確認していたお嬢様の元に、王子殿下の従者が訪ねてきた。
無事に戻ったお嬢様に会いに来たいというお伺いだったんだけど。
普段嫌そうな顔をするので、理由をつけて断るかと思ってたら、なんと!
「自分が王宮に伺います。」とか言って、今王子に会いに行っているのだ。
結果、俺はお留守番。解せぬ。
暇をしていたところに警部から連絡があって、今に至る。
エリオット・フィンチは王都の小さなフラットの一室に住んでいたようだ。
「お邪魔しまーす。」
自由に確認していいと言われているので、早速捜査を開始しよう。
と、言っても部屋は一つしかない。整頓されたベッドの横に小さなサイドテーブル、執務用の小さな机くらいしかなかった。
執務机の上に、写真が貼ってあった。
写真には中年くらいの男性と、俺よりちょっと上かな?っていう年齢の青年が笑顔で映っていた。二人とも、上品な服装をしている。
個人で写真を撮れるなんて、かなり裕福な生活をしていたんだろうな。
父親は貴族のお抱え医師だったわけだし。それが――
父親だろう中年の男性は、恰幅がよくて優しそうな感じだ。青年の方はエリオット・フィンチだろうな。父親に似ているけど、こちらはスラッとしてる。
「いい親父だったんだろうよ…ファミリーネームも変えずに生活してんだ。」
俺の後ろから写真を覗き込んだ警部がぽつりとつぶやいた。
父親のこと、ほんとに信じてたんだろうな。
大切に飾られた写真をみると、なんだかなーという気持ちになる。
引き出しの中を確認すると、手紙やノートが入っていた。
手紙の宛名は「ヴィクトリア・ウィルモット夫人」…
どっかで聞いたな……誰だっけ?
えーっと、最近聞いた名前のはずで……
あっ!
「ハロッズ事件の被害者の人ですよ!」
「なんだ?」
サイドテーブルを確認していた警部が俺をいぶかし気に見た。
「確か子爵夫人で反ジェントリだとかって人、いたじゃないですか!この手紙、その人からです!」
「なんだって!」
警部は俺から手紙を奪うと、宛名を確認して
「まじかよ…」と呟いた。
えーーーーー?なんで?
俺は他の手紙の宛名も確認する。数通あった手紙は全てウィルモット子爵夫人からのものだった。
「お嬢様が警部にエリオット・フィンチに関係のあるチャリティーの参加者を探せって言ってましたけど、このウィルモット子爵夫人じゃないですか?」
警部の方を見て尋ねると、警部はガシガシと頭を掻いて呟いた。
「なんでこう、誰もかれも重要そうなやつが死んじまってんだ!」
確かに…話も聞けないしな。
警部は俺が持っていた手紙を奪って、外にいた制服警官に渡してしまった。
読むのかな? 読むか。あとで内容を教えてもらおうかな。
俺が読んだらお嬢様になんか言われそうだし。
「で、他に見つけたもんは?」
えーっと、
「ノートです。」
警部に見つけたノートを渡すと、ペラペラと確認し始めた。
「ずいぶん、ケンウッド判事のことを調べてたみてぇだな。見てみろ。」
返されたノートを確認する。そこには新聞のスクラップがたくさん貼られていて、メモが書かれていた。
スクラップは確かに、全部マクシミリアン・ケンウッド前公爵に関する内容だ。判事として担当した事件や私的なゴシップなんかだ。
ペラペラめくると、スクラップがないページに
「本当は誰の子なのか?」
と乱雑に書かれているのを見つけた。
――お兄様は自分の出生の秘密を…
ケンウッド公爵令嬢の言葉が頭をよぎった。




