第十七節 ―――――
ぐーーー。
なんとも間の抜けた音が暗い部屋にこだました。
少女は前日無駄にしてしまった新作のデニッシュに思いを馳せた。
――王都に戻ったら、まずはあのデニッシュを買いに行こう。
そんなことを思っていた少女に少年が声をかけた。
「これ、いる?」
そう言って食べかけのパンを少女に差し出そうとしている。
「気持ちは嬉しいが、自分で食べるべきだ。」
「でも、僕はお腹すいてないよ?」
こてんと首を傾けて少年は言う。
「どちらにせよ、届かないしな。」
お互い枷のせいで身じろぎするくらいしか動けない。
「そっかぁ。」
「そうだ。」
「それより、」
少女は言葉を続けた。
「ハロッズで開催されたチャリティーに参加しなかったか?数日前だ。」
少年はきょとんとした顔をした後、にっこり笑って答えた。
「行ったことあるよ。おばあ様と。」
「そこで、何か食べなかったか?」
「食べてないよ。すぐ帰ったから。でも、僕、おばあ様とお菓子を配ったんだ。」
「お菓子?」
「そう。キャラメルだよ。僕がね、キッチンで働いてる人たちと一緒に作ったんだよ。ちょっとだけ、特別な味付けした『当たり』も作ったんだ。」
少年は嬉しそうに言った。
「そうか。」
短く応じた後、少女は続けた。
「おじい様やお父様とは一緒ではなかったのか?」
少年は少し考えるように目線を上に向けて答えた。
「一緒じゃないよ。もともと、おじい様も行く予定だったけど、お仕事で行けなくなっちゃったって。」
「そこで倒れている男に見覚えは?」
少年は少女の差した方に目線を移した。
「ないと思う…。その人、死んじゃったの?」
「そうだろうな。」
――ハロッズの事件と妙な符号が気になるが、考えすぎか?
ぎぃーーー。
暗闇に鈍い音が響いた。




