第十五節 ――――――――
何かが腐ったような異臭がする。
川にはいくつもの死体がぷかぷか浮いていた。
死体の腐敗臭か、自身から発せられる匂いか、判別はできない。
焼けるような痛み、燃えるよう…
苦しい…
はっと少女は目を覚ました。
ひどく汗をかいていた。
現実と夢の狭間でぼんやりとする。
――まるで胡蝶の夢だな。
少女はゆっくり深呼吸をし、自身の周囲を確認した。
異臭の原因は…夢のせいではない。
男があおむけに倒れている。彼の口元には泡がついており、表情は苦しそうに歪んでいた。
彼が亡くなって、しばらく経った。
悲しいかな、目の前で人が死んでも、生きるためには眠らなければならない。
同様に、生きるために食べなければならないのだが…
うずくまって座っている少年を確認する。
彼の肩は少し揺れている。
――今我々が生きているということは、毒は男の口にした物にしか入っていなかったということか。
遅効性ということも考えられるが、いずれにせよ、彼が苦しみ出した時間を考えれば、自分たちの口にしたものには毒は入っていないと言えるだろう。
少女はそう結論付けた。
――さて。
これからどうするか。男の話では自分たちは2日後には解放されるはずだった。
だが、その男は死んだ。
――食事をどうするかだな。こんなことなら、全て食べるんじゃなかったな。
飢えとは、辛いものである。
少女は一度目を瞑った。
再び目を開けると、男を観察した。
――この匂い、ヒ素中毒だろうか。
暗くて男の顔色はよくわからなかったが、苦しみ始める前までは、少なくとも吐き気を催している様子は見られなかった。
苦しみ出した後、彼は嘔吐を繰り返し、のたうち回るようにしばらく苦しんで、死んだのだ。
――ここでも、ヒ素か。
少女は昨日、知人の警部が持ち込んだ事件のことを思い出した。
――参加者には確か…
「んー…」
少年が顔を上げた。
ぼんやりしており、まだ目覚めきっていないようだ。
周りをゆっくり見回したあと、彼は男の方で視線をとめた。
「あっ」
と小さくつぶやくと、少年は少女の方へ顔を向けた。
「おはよう?」
少し恥ずかしそうにそう言った少年に少女も
「おはよう。」
と無表情で返した。




