第十三節 捜査二日目 ③アッシュフォード伯爵の屋敷(1)
グレイ殿と例のアッシュフォード伯爵の屋敷にやって来た。
王都から馬車だと5、6時間はかかる、ということで馬に乗って、森を突っ切り3時間ほどで到着することができた。
と言っても、お昼過ぎになってしまったけど。
馬に乗ることなんてないだろうと思ってたけど、ただの従者に乗馬を習わせてくれてありがとうございます、スティーブさん、旦那様。
俺とグレイ殿は馬を近くの森の中に繋ぎ、壊れたレンガの塀から屋敷の敷地内に入った。
廃墟になっているという話の通り、屋敷の外壁はところどころツタが張っており、主人がいたころは美しく整理されていたであろう庭も、雑草なのかミントなのか区別がつかないほど草が生えっぱなしになっている。
屋敷の裏手にあたるだろう、使用人用の出入り口のように見えるドアが確認できた。
グレイ殿と顔を見合わせる。
ドアにそっと近づく。木製のドアは老朽化で腐りかけており、蝶番も錆びてしまっていた。9年でこんなに傷んでしまうんだな…家って。
ドアを押してみる。ここから屋敷内部に入れそうだ。
「入る前に中の様子を確認すべきだ。」
グレイ殿が小声で言った。
「でも、外から中の様子なんてわかりませんよ。」
貴族の家ってそういうものだ。それに、この時間では中に明かりがついているかの判別もできないし。
グレイ殿は俺の言葉に一瞬考えて、
「仕方ない。」
と言って、先導するように屋敷に入ってくれた。
入ると、そこは厨房だった。埃っぽいし、アルコールの瓶なんかが床に散乱していた。
ざっと見て進もうとするグレイ殿に声をかけた。
「厨房のあちらの扉の先は、たぶん給仕のためにメインの廊下に繋がっていると思います。」
グレイ殿は頷くと、俺が差した扉の先に進んだ。
後に続く。
読みどおり、メイン回廊にでた。
すると、ゴンッという音が左手から聞こえた。
見ると、大きな扉があった。
たぶん、あの部屋はメインの食堂じゃないかな。
グレイ殿と頷きあって、その扉に近づき、耳を扉にくっつけて中の様子を伺う。
「ガハハハハ」
という下品な笑い声が聞こえた。
ここがごろつきのたまり場になっているのは間違いなさそうだ。
お嬢様…
俺が扉を開けそうとすると、グレイ殿が俺の腕を掴んだ。
彼を見ると、首を横に振っている。
彼に引っ張られる形で、厨房まで戻ってくると
「何人いるかわからない。応援を待つべきだ。」
と言った。
「応援なんて…待ってられないですよ。王都から馬で来たって3時間もかかるのに。」
「落ち着け。王子殿下が、ブラックモア侯爵家に連絡してくれている。ブラックモア侯爵は私兵を送ってくれるだろうと仰っていた。俺が王子殿下に出発の報告をした時には、すでに連絡してくださっていたようだから、そう待たずに来るはずだ。」
えーーーーーー!
ウィリアム王子殿下…優秀じゃない?
「あの、普通に道中で連携して欲しかったです。そういう情報は。」
俺の言葉にグレイ殿はばつが悪そうに
「すまない。」と言った。
というか、うちの執事のスティーブさんも知ってたはずじゃない?
あの人も何にも言ってなかったんだけど、何でなの。
その時。
ドンッ!
という大きな音が聞こえた。
廊下の方から、「なんだ」「どうした!」という声が聞こえる。
俺とトマス殿は顔を見合わせた。
え?何事?
「シェヘラザーーーードーーーーーーー!どこだーーーーーー!」」
雄たけびが聞こえた。
これは…
「旦那様?」
突撃したの?俺たち隠密行動よろしく行動してたのに。
廊下の様子を伺うと、黒を基調とした金字の模様が入った鎧を身にまとった兵士たちが、いかにもごろつき、といった男たちを取り押さえていた。ブラックモア侯爵家の私兵だ。
「あの、旦那様は?」
近くにいた兵士に声をかけると、
「あぁ、エドモンドか。旦那様なら…」
「シェヘラザーーーードーーーーーー!」
食堂だな。
グレイ殿は兵士達と会話をしているので、一人で食堂へ向かう。
「旦那様ー。」
「む? エドモンドか。」
そう言って、私兵と同じように黒を基調にしてるけど派手派手な金の装飾、金色の飾り毛がなびく兜をかぶった旦那様がいらっしゃった。
食堂には瓶やらごみやらが散乱していた。
お嬢様の姿は…ない。
「お嬢様は…」
「この部屋にはいないようだ。屋敷を隅まで探すぞ。」
旦那様の言葉に頷き、俺も屋敷の捜索を始めた。




