第十一節 ―――――――
――さて、どうしたものか…
少女は隣でうずくまりながら、パンをちまちま食べている少年を横目に見た。
次に、少年と少女に対面するように座る男を見る。
男は瓶を直接口につけて傾けた。ワインだろう。あの後、男は一度どこかに出かけ、あの瓶を持って帰って来た。
彼は少年を忌々しそうに見た。
――ケンウッド公爵家に思うところがあるのは、間違いなさそうだ。
「そう言えば、自己紹介をしていませんでした。私はシェヘラザード。ブラックモア侯爵家のものです。」
少女はにっこり微笑んで、少年に声をかけた。
男は何も言わず、様子を眺めている。
少年は驚いたのか、顔を上げて男と少女を交互に見た後、
「あ…、オスカーです。オスカー・ケンウッド。」
と言った。
「あの、オスカー様はあの方と面識はありますか?私、さっき聞いたんですけど、教えてもらえなくてぇ。」
上目遣いに語尾を上げて少女が言うと、少年は声を潜めて答えた。
「僕も知らないです。というか…しゃべっていんですか?」
「大丈夫ですよ。あの方、あんまりおしゃべりしてくれませんけど、ご飯もくださるいい方です! ですよね?」
男の方に確認するように、少女が目を細めて顔を向けた。
男は眉を一度動かしたが、すぐに元の無表情に戻った。
返事はない。
「ね?」
今度はにっこり笑って、少年の方を見た。
「はぁ。」
「ところで、ケンウッド公爵家のお迎えはいつ来るんですか?」
「え? お迎えですか? 来るんですか?」
「え? 来ないんですか? じゃあ私たち、どうやって帰るんでしょう?」
少女はかわいらしく首を傾けた。
少年は少女の言葉に困惑しているようだ。
――演技には見えんな。
男も無表情を崩して、不思議なものを見るような目で少女を見ていた。
「あの…私たちの家に、お迎えの連絡をしていただけますか…?」
懇願するように少女が男を見つめた。目はうるみ、声は震えていた。
男は眉を寄せ、少し目を伏せた。
――もう一押しか。
「私たち、お家に帰れますよね?お父様には私しかいないんです。お母様も亡くなって…」
「帰れますよ。2日後には。」
男は苛立ちながらも少女の問いに答えた。
――まぁ、この男に子どもを殺す意図はないだろう。目的はそこにはない。
それならおとなしく、解放されるのを待つのが得策だな。
この状況で脱出など、現実的ではないしな。
少女は自嘲した。
――やはり、私は名探偵にはなれないな。
「うっ…」
男が突然にうめき声を上げた。
喉元を両手で抑え、先ほどまで食べていたものを吐き出した。
――なぜ…
「おい!大丈夫か。」
――近づこうにも、この枷では……
「おい!」
少女は再び男に声をかけた。
少年は口もとを両手で覆い、眉をひそめていた。
やがて、男は動かなくなった。




