第十節 捜査二日目 ①9年前の事件
昨日の夜はほとんど眠れなかった。
公爵様も帰ってこなかったようで、夜通し捜索が行われたようだ。
お嬢様、大丈夫かな。
気分は重いけど、とにかく何かしないと…。とりあえず、レストレード警部に連絡して9年前の事件について聞いてみよう。
と思ったら、レストラード警部の方から訪ねて来てくれた。
「おう。マシュー・レインズフォードの身元を確認した婦人に話聞いてきたぞ。」
マシュー・レインズフォードって…誰だっけ?
はて?と俺が首をかしげたのを見て警部はいらいらしたように顔を顰めて言った。
「なんだよ? そのご婦人、王都に住んでたんで居場所を確認した時に、話も聞いてきてやったんだぞ? 手間が省けただろうが。」
あーーー、はいはい。従業員で唯一被害にあって死亡した人の身元保証した婦人ね。
そう言えば、居場所確認するって話して警部と別れたんだった。
「あの…。実は、今俺それどころじゃないっていうか…。お嬢様もハロッズ事件の捜査に協力できないっていうか…。」
「はぁぁぁ? どういうことだ。」
警部は鬼の形相である。
と、いうか警察にはお嬢様とケンウッド公爵子息の件、話が行ってないのかな。ケンウッド公爵は王宮警備兵団に捜査を頼んだって言ってたけど、うちの侯爵様はどうしたんだろ。
警部にかくかくしかじかで、今の状況を説明すると、ますます警部の眉間のしわが深くなった。
「聞いてねぇぞ。貴族の、しかも影響力が高い家の子息が2人も行方不明で誘拐されたかもなんて話。どうなってやがる。」
と言うことは、ブラックモア侯爵様も警察には連絡してないんだな。なんか、警部に申し訳ないなぁ。
「あのー、と言うわけなんで今はお嬢様の捜索を優先したいんです。」
申し訳なさそうにそう言うと、警部は眉間のしわはそのままに頷いてくれた。
「そりゃ当然だ。ハロッズの事件のせいでばたついてるけどよ。お嬢の捜査はうちでもやるぜ。」
「ありがとうございます。あの、それで警部、9年前に起こったアッシュフォード伯爵一家毒殺事件って知ってますか?」
「あぁ…。その事件なら覚えてる。うちの管轄だったからな。でも、何でだ?」
「公爵家に届いた犯人からの手紙にその事件の真相を公表しろって書いてあったんです。」
警部は腕を組んでうーんと言いながら記憶を探っているように考え始めた。
「たしか、捕まった被疑者は拘留中に亡くなったとかで、被疑者死亡で不起訴になったんだったか。」
警部は思い出すように上を見てそう言った後、さらに言葉を続けた。
「真相を明らかにしろっていうのが犯人の要望なんだろ? ホシが割れてる事件の真相ってどういうことだよ。」
確かに、そうだよなぁ。
「まぁ、事件の調書を持って来てやるよ。」
と言った。
めちゃくちゃ助かる。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
「おう。任せとけ。」
その後。
警部はやはり忙しいようで、代わりに制服警官が書類を届けてくれた。お礼を言って、お嬢様の書斎で調書を確認する。
主が不在のその部屋は、静まりかえっていた。
お嬢様が気に入っているお茶を入れる。お嬢様は東の国から入ってくる濃い目の紅茶を愛飲していて、それにミルクを入れるのがお気に入りだ。俺は苦くてあまり好きじゃないんだけど。
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アッシュフォード伯爵一家毒殺事件(The Ashford Family Poisoning Case)
発生時期:1853年
事件概要
アッシュフォード伯爵一家(当主、夫人、長男)の計3名が毒殺された事件。
犠牲者
•ヴィクター・アッシュフォード伯爵 30歳
•オリヴィア・アッシュフォード伯爵夫人 28歳
•長男アーサー 8歳
死因:夕食に混入された青酸系毒物による急性中毒死。
現場:アッシュフォード伯爵邸のダイニングルーム。
犯行手口
•夕食に毒物(青酸系とみられる)が投入され、全員が摂取後30分以内に急性中毒で死亡。
•争った形跡はなく、家族全員が不意を突かれたと推測される。
事件関係者
•被疑者:トーマス・フィンチ(当時、伯爵家に住み込みで働いていた医師で、使用人たちの健康管理を担当していた)。毒物を調達したとの疑いがかけられ、逮捕される。
判決および事件の結末
•被害者の診察を行ったトーマス・フィンチが逮捕された後、拘留中に死亡(自殺の疑い)。
•フィンチの死亡により、「被疑者死亡につき不起訴」として捜査が終了。
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なるほど……。
アッシュフォード家の事件で逮捕されたのは住み込みの医師だったんだ。
まぁ、医者なら毒物は手に入りそうだし、扱えるしってことなのかなぁ。でも、犯人と断定された理由があまり書かれてないし、動機が不明だ。
捜査は終了しているものの、本当に解決したとは言い難い。
うーん、ケンウッド公爵令嬢が言うように被疑者の息子が誘拐犯なのかなー。




