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第八節 捜査一日目 ④変な公爵令嬢の予言的忠告


「お兄様は、この事件をきっかけにヤンデレ公爵子息になってしまうんです。」


「はぁ。」


公爵夫妻との話を終え、王子殿下と共にアッシュフォード伯爵一家毒殺事件を調べることになった俺は、公爵家から退出しようとした。だが、その時、公爵夫人に呼び止められた。

ご令嬢が一緒にお茶をご所望だとかで…


それでまた、ケンウッド公爵令嬢とお茶をご一緒しているわけなんだけど。


相変わらず、言ってることがよくわからない。

やんでれ公爵子息って何?


「その、どういうことか、お伺いしても?」


「もちろんです。」


俺の問いに令嬢は身を乗り出してそう言うと、話を続けた。


「この世界は、『ラビリンス・オブ・ハート 〜囚われの愛と背徳の鍵〜』っていう名前の乙女ゲームの世界なんです。それで、攻略対象者たちは過去の事件で心が壊れてしまっていて、主人公はその事件を解決しながら、彼らの心を癒していくっていうストーリーなんです。私はそのゲームの全ルートを攻略してるんで、これから起こる事件とその犯人を知ってるんです。」


何を言ってるのか、まったくわからん。

ここまで変な子だったとは。

表情を取り繕うのが大変だ。


なんて言っていいかわからないので、黙っていると、彼女はさらに続ける。

「お兄様は攻略対象者なんです。それで、お兄様のトラウマになる事件が今回の誘拐事件なんです!」


えーっと…


「その、攻略対象者?の一人がケンウッド公爵子息であると、それで、あなたは犯人を知っている、と言うことですか?」


俺がとりあえずそう言うと、彼女はグリーンの瞳を輝かせて


「そうです!」


と言った。


「私の話、お父様もお母様も信じてくれてるんですけど、他の人は変な顔してだいたい信じてくれないんです…。信じてもらえて、嬉しい!」


そう言って公爵令嬢は両手を頬に当てた。


いや、信じているわけではないんですよ。

表情は職業柄ってだけだし。


「あの、事件に巻き込まれて心を病んでしまうというのは、どういうことなんでしょうか?」


「それは、攻略対象者によるんですけど、お兄様の場合は事件をきっかけに自分の出生の秘密を知ってしまうんです。誘拐されたショックと更なるショックが重なって、誰も信じられない人になってしまって。それで、相手の気持ちを試すような面倒な言動をとるヤンデレになってしまうんです。」


うーん。

よくわかんないけど、


「ということは、公爵子息は無事に解放されるんですか?」


「もちろんです。」


なるほど。

さっきのご令嬢の話だと、両親にこのヘンテコ話をしているみたいだし、しかもそれを信じているって話だし、それで公爵夫妻はあんなに落ち着いてたのか? な?


「あの、前に王宮であった事件、ローザ・ロドリゲス嬢の事件ですが、あの時にサム・リドルを犯人だと仰っていたかと思うんですが、それもその…『げーむ』と関係あるんですか?」


気になることを聞いてみる。

『げーむ』がなんなのかわからないけど、このご令嬢はどこかで見たか聞いたかした話が本当に起こるって信じてってことだろう。


「そうです。あの事件はウィリアム王子のトラウマ事件だったんです。」


「どうして、サム・リドルを犯人だって名指ししたんですか? 実際、犯人は別の人物でしたけど…」


俺がそう尋ねると、彼女は怒ったように言った。

「ゲームで犯人は、サム・リドルだったんです。たぶん、あのモブ令嬢が出しゃばったせいで結果が変わっちゃったんだと思うんです。だから、今回もちょっと心配で…」


うーん。

それはその『げーむ』っていうのが間違えてたんじゃないの?

そうなると、犯人を知ってるっていうのは当てにならないけど、でも『サム』がロドリゲス嬢の恋人だったってとこはあってたんだよなー。

うーん。


「それでは、今回の事件の犯人は誰なんですか?」


「エリオット・フィンチです。9年前のアッシュフォード伯爵一家毒殺事件の犯人だった医師の息子です。」


アッシュフォード伯爵一家毒殺事件の犯人の息子か…

あの手紙との関連性はあるな。


「その話は、公爵ご夫妻にもお話していらっしゃるんですか?」


「もちろんです! お兄様が攫われたって聞いて、お父様とお母様に話しました。」


「でも、ブラックモア侯爵令嬢も誘拐されるっていうのは、ゲームではない展開なんです。だから、また犯人が変わっちゃうかも…」


ケンウッド公爵令嬢は眉を寄せて申し訳なさそうな顔をした。

悪い子じゃ、ないんだよなぁ。

変なだけで。


「貴重なお話ありがとうございました。他に、何か私に御用でしょうか?」


さっさと戻って、アッシュフォード伯爵一家毒殺事件について調べないと。

警部なら、何か知ってるかもしれない。


「あの、あの…」


俺の言葉にご令嬢はもじもじしながら視線を下にして、言葉を切った。

と、思ったらばっとこちらに顔を向けて


「私、今がんばってエドモンド様を引き抜けるようにお父様にお願いしてますから! もう少し、待っててくださいね。」


とかわいらしい笑顔で言った。


いや、頼んでないんですけど…


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