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第二十九節 ――――――――――――――――


女が寝静まったのを確認すると、男はおもむろに動き出した。


部屋はほのかに月明かりが差し込むだけで、静寂が辺りを包んでいた。

男は一切の音をたてず、静寂に沈むように動いた。


整えられた小さなベッドの横にある、何も置かれていないキャビネットの引き出しを開ける。

引き出しの底を動かして、二重底を開けると、ノートが一冊入っていた。


中を確認する。

エスパーニャ語で書かれたノートの内容を確認し、男はにんまりと片方の口角だけを上げた。


――監視対象者に感情移入するとは…。これだから、表の連中は使い物にならない。


ノートに書かれている内容は、男にとっては大して価値のないものであった。

秘匿する必要性も感じない。

が、念のためだ。


ノートをパラパラめくり、最後のページに目を留める。

そこには、10個の異なる人間のシルエットが書かれていた。

その下には、エスパーニャ語が書かれている。

読んだ限り、何と言うことはない内容だ。


――まさかな。


そう思ったが、念のため。


古代の経典を用いた暗号式は、使用する人間の仮の名前のイニシャルをキーに符号を設定している。

ローザ・ロドリゲスの場合、『R.R』。

ポビュリオスの正方形を用いて、これを数値化すると、42.42。

対応する経典の42節42行にある頭の文字を符号として、エスパーニャ語の単語に対応する言葉を経典から抽出し、符号の文字数だけ入れ変えて読む。


『こちらは』『返す』『暗号は』『簡単なよう』『だ』『変革する』『のが』『いい』『他が』『ために』『祈るのか』


男はとっさに口元を強く抑えた。


思わず声を出して笑いそうになるのを抑える。


手で隠された口元はいびつに歪んでいた。


――あの頓珍漢な公爵令嬢ではないだろう。と、すると…


男は口元を抑える手に力を込めた。


――面白い。


「我が唯一の主のために。」


低いつぶやきの後、男の姿は闇に消えた。














その後、サム・リドルの姿を見た者は一人もいない。


第一部 完です。

ありがとうございました。

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