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第二十八節 エピローグ


「まさか、錠前師が犯人だったとはな。」


美しいバラが咲きほこる庭園には、温かい陽射しが降り注いでいた。

丁寧に整理された広大な庭園にポツンと建てられた大理石の東屋で、お嬢様は一人の男性とお茶を楽しんでいた。


お嬢様は無表情で楽しんでいるって顔ではないけど。


「それで、私との約束はどうなっておりますか?」

「犯人は自首してきたんだ。君が事件を解決してくれたとは言えないだろう。」

「約束通り、事件捜査に助力し、事件が解決していますが? 私自身が犯人を逮捕するということは、条件には含まれていなかったはずです。」


お嬢様がカップに向けていた視線を男性に向けてそう言うと、彼はお嬢様を見て微笑んだ。


「そんなに、ウィリアムの婚約者になるのが嫌か?」

「ウィリアム殿下に対して特段思うことはございません。が、その位に就くことについては、できるだけ拒否させていただきたいというだけです。身に余りますので。」

「君ほどの適任もいないだろう。感謝しているよ。王室の醜聞を明るみにしないでくれて。」


王室の醜聞って、王妃様がウェストウッド殿と二人っきりになっちゃってたってやつかな。


「エリザベスはしばらく北方の城で休養させることにした。悪いことをしたとは思うが、致し方ない。」

「ほとぼりが冷めたら切り捨てられるおつもりで?」


お嬢様がそう言うと、男性は澄んだ青い瞳を細めて眩しそうにお嬢様を見て、微笑んだ。

その表情がすごく絵になる。

日に当たる金色の髪が煌めいている。


「役割を果たせない者を、置いておく必要がないというだけだ。」

「それは…」


男性の答えにお嬢様は一度言葉を切って、視線を手元にカップに移してから呟くように続けた。


「その通りではあります。」


カップに口をつけてからお嬢様を、表情を変えずに見ている男性がお嬢様に尋ねた。


「どの程度把握しているか、報告してくれるか?」


お嬢様はその問いに、一度コクリと喉を鳴らしてお茶を飲みこんでから視線をゆっくりと上げて答えた。

瞳が光に当たって緑色に煌めいている。


「確信をもっていることはほとんどありません。恐らく、の範疇を超えない仮定の話しかできませんが?」


男性は行儀悪く机に肘をついて、微笑みながらコクリと頷いた。

静かに息を吐いて、お嬢様は続けた。


「前王妃、イザベラ様の死は事故でしょう。が、その事故には今回の事件の被害者、ローザ・ロドリゲスが関与していた。故意ではないでしょうが、彼女はそのことをひどく気に病んでいた。そして、陛下はそれをご存じだった。さらに言えば、陛下は南京錠の件もご存じだったはずです。だから、南京錠の鍵をご自分で保管していたし、前王妃の事故の際に捜査をさせなかった。また、前王妃の部屋のからくりについてもご存じだった。おそらく、そのからくりを陛下から聞いて知っていたからこそ、前王妃はあの部屋を選んだんでしょう。さらに、陛下は現王妃とウェストウッド殿の蜜月を知っていながら、泳がせていた。彼女の実家の不正について、証拠がそろわなかった時の保険のために。」

「ははっ。」


お嬢様の言葉に、男性、アルビオン国王アルフレッド三世は愉快そうに声を上げて笑った。

何がおかしいのか全然わかんない。

お嬢様が言ってることがほんとなら…


「エリザベスの件は泳がせざるを得なかったと言わせて欲しいな。彼女はウェストウッドの商会を通じて、王家の資金を実家に横流ししていたんだから。これは表ざたにはしない話だが。」


え?

そうなの?

っていうか、お嬢様の言い方だと、王妃様とウェストウッド殿ってそういう関係だったの?

たまたま密室にいたってだけじゃないの?


「残念だが、君より適任がいないんだ。ウィリアムも君なら問題ないだろう。」

「ケンウッド公爵令嬢が第一候補だったはずでは? 彼女も殿下も、その気なのではないですか?」

「それはないな。ケンウッド公爵家は確かに有力家だが、所詮は貴族院内の話だ。だからこそ、私が選ぶはずがないことを君は理解しているはずだ。ウィリアムは自分の地盤が盤石でないことを理解している。だから、力のある家との関係が必要だと判断しているだけで、ジュリアナ嬢をどうこう思っているわけではないよ。」


お嬢様は緑色に揺らめく瞳を細めて、国王陛下を見た。

睨んでいるようにも見える。

大丈夫かな。

相手、この国の最高権力者だよ?


「よろしく頼むよ。近いうちに議会でも承認されるだろう。」


そう言うと、国王陛下は微笑を崩さないまま席を立った。

彼は東屋をでると、ふと立ち止まってこちらを振り向き


「大丈夫だ。あの子は私に似ている。私は存外、一途なタイプなんでね。」


と言うと、くるりと向きを変えて去って行った。


お嬢様は、渋い顔で行儀悪くお茶をすすって呟いた。


「ままならんものだ。」


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