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第二十七節 真相


今度という今度は、もぉ―――怒っている。

俺は、怒っている!


何にって?


お嬢様がまた俺を置いて行ったんだよ!


アフタヌーンティーの準備をして、お嬢様の部屋に行ったら、いない!

書斎にもいない!


執事のスティーブさんに聞いたら、街に出たって?

なんで置いてくの?


まったく…


仁王立ちで玄関に立ち、お嬢様の帰りを待つこと2時間。


馬車の音が聞こえてきた。

帰ってきたー。


「お嬢様! なんでまた置いて行くんですか!!」


お嬢様はとんでもなく嫌そうな顔を向けた。


「別にいいだろう。私がいつ、どこに行こうと。」


ぐぅ。それを言われると、そうなんだけれども。

「置いてかれるの、寂しいじゃないですか!」


お嬢様はあきれた様子で「はいはい」と言って、さっさと行こうとする。


むーー。


「お茶の準備はできてるんだろうな?」


こちらを振り返らずにお嬢様が尋ねた。


むーーー。


「できてまぁす。」

「じゃあ、書斎に用意しろ。」


そして、書斎。


お嬢様は何か読みながら、お茶とお菓子を楽しんでいる。


「で、どこに行ってんです?」

「犯人に会ってきた。」


え?


「えーーーーーーー。」

「うるさい。」


お嬢様は耳をふさいで顔をしかめた。


「いや、だって。それならなんで、俺のこと置いて行ったんです?」

「特に理由はない。」


何それ?


「犯人って…誰なんです?」

「錠前師のセシル・ウィンチェスターだ。」


「えーーーーーー。」

「最終的には、お前とサム・グリーンとの話で確信した。サムが犯人でないなら、部屋に出入りできた残りの人物は錠前師だけだ。」


確かにそうだけど…


「錠前師が犯人って…密室の謎も何もないじゃないですかぁ。」


なんとなく納得できない。


「だから最初から言っている。密室は謎ではない。ただの事象の結論に過ぎない。」


確かに…言ってたけれども…


「でも、なんでです? 彼、被害者と接点って?」

「前王妃が作らせた例の南京錠。制作の際に具体的にやり取りしていたのが被害者だった。」

「それ、なんでわかったんですか? 本人に聞いたんです?」

「打ち合わせに毎度王妃が顔を出すわけもない。ある程度、信用のあるものに任せているだろうと思っただけだ。そうなると、前王妃にはロドリゲス嬢しかいない。錠前師とまったく接点がなかったわけではないと、思っただけだ。」


そう言って、お嬢様はお茶を一口含んだ後、続けた。


「私は、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロの様にはなれんな。全てを解明とはいかん。」


本に視線を向けたまま、お嬢様はぽつりとつぶやいた。


「でも、犯人がわかったじゃないですか。」


ほんとは動機が気になるけど、お嬢様はちょっと落ち込んでいるように見えるのでなんか聞きづらい。


「犯人の、セシル・ウィンチェスターは被害者に好意を抱いていたようだ。南京錠の納品の後、接点が薄れたことで、感情がかえって高まっていたそうだ。だが、街で別の男と一緒にいるところを目撃した。」


「それで、彼女を…? 好きだってことですよね? それなのに?」

「愛と憎しみは表裏一体だ。彼女に好かれていると思っていたセシル・ウィンチェスターは彼女と二人で話す機会をうかがっていた。それが、事件当日、あの部屋で叶った。彼女に拒絶されて、激高したんだ。」

「それって、一方的じゃないですか。被害者がかわいそうですよ。そんな理由…」

「どんな理由であれ、人は死んだらかわいそうなんだ。残されたものからすればな。それに、セシル・ウィンチェスターの好意を一方的と言うのは簡単だがな。人は自分が認識し、そうだと信じたものを真実だと思うものだ。セシル・ウィンチェスターにとっては、彼女に思われていたことこそが真実なんだ。」


確かにそうかもしれないけど、でも彼女を思うと納得はできないな。

なんでお嬢様はこんなに達観してるんだろう。


「まぁ、理解する必要はない。」

「でも、悲鳴は結局なんだったんですか? それに、あの部屋のことだって…」

「悲鳴は、侍女だろう。あのアンとかいう王妃付きの。」

「えーーーーー。」

「じゃあ、あいつ何でそのこと言わなかったんですかね?」

「さぁな。」


サム・リドルとの会話を思い出す。


「あいつ、首にならないんですかね?」

「どうだろうな。やつの話が明るみになれば、王妃が男と密室で二人きりだったことが判明してしまうからな。」

「あーーー。」

「内々に処理されるだろう。」


なんと、まぁ。


「悲鳴はじゃあいいとして。あの前王妃様の部屋は?」

「調度品についても、鍵についても解明してあるだろう。」

「いや、あの隠し部屋と、前王妃様の肖像画ですよ。」


俺の言葉に、お嬢様はやれやれと言った顔でこっちを向いた。


「お前、肖像画についてサム・グリーンに聞かなかったのか?」


え? 彼知ってるの?


首を振ると、お嬢様ははぁーと盛大にため息をついた。


「被害者が、保管庫から勝手に持って来て飾ったんだろう。隠し部屋は、前王妃が使っていたんだろうな。おそらく、ロドリゲス嬢は部屋のからくりを知らなかった。だから、あの肖像画を使った。前王妃の弔いのために。」

「なんで、そんなことがわかるんですか?」

「ここに書いてある。」


そう言って、お嬢様は読んでいる本を閉じてこちらに見せた。

よく見ると、それはロドリゲス嬢の部屋で見つけた日記だった。


「なんで?」

「なんで? とは?」


だって、日記は…


「渡したのは古代語のものだ。特に指定されていなかったからな。エスパーニャ語で書かれたものは残しておいた。」

「じゃあ、エスパーニャ語の方はなんの暗号もない状態で書いてあったんですか?」

「いや?」 


いや? って何?


「古代語で書かれた日記の方がいかにも怪しい。が、エスパーニャ語で書かれた日記の方が暗号で書かれている、本当の彼女の日記だ。古代語の方はフェイクだろう。」

「え? じゃあ、渡した方の日記は…」

「頑張って読んだところで意味はない。まぁ、あのごろつきどもの雇い主は、フェイクに気づいているだろうがな。」


ってことは、


「また、この日記、狙われるんじゃないですか?」

「そうだな。だから、返しておこうと思ってな。」


そう言うと、お嬢様は引き出しからインク瓶とペンを取り出して、日記に何やら書き出した。

なんだか、人間のシルエットのような模様を書いている。


「なんです? それ。」

「『踊る人形』だ。コナン・ドイルがシャーロック・ホームズの同名の小説で発表した、象形の暗号だ。初めて見た時は、心躍ったものだ。」


何それ?


「なんて書いてるんです?」


「『日記は返します。』」


それだけにしては、ずいぶんいっぱい人間みたいな模様が並んでいるんだけど。


「一応、元の暗号でも書いておこう。あちらが『踊る人形』を解明できない可能性もあるからな。」


こちらに目線を向けたお嬢様は、いたずらっぽく笑って言った。


どういう優しさなんだよ。

ていうか、やっぱり暗号解いてるってことかー。

お嬢様、すごいなー。


「…。読むなって言ってたのに、自分は読んだんですね?」

「暗号が気になってな。符号が解けたので、解読しただけだ。読んでみろ。」


渡された日記を読んでみると、日記というよりは業務記録のような内容だった。

すごいつまんない。

彼女がどう思ったとか、そう言うのも一切ない。


「読んでも、どうということはない内容になっている。だが、実際そこに記されていたのは彼女の愛だ。前王妃への、王子への、故郷への、そして、サム・グリーンへのな。」

「前王妃様ですか?」

「あぁ。母国で異端扱いされた彼女は半ば生贄のようにアルビオンへ送り出されたらしい。彼女の調度品類には細工がされていたようで、それを知って、前王妃はそれらをあの旧棟の部屋に持ち込んだようだ。」

「なるほど…。だから、ロドリゲス嬢は前王妃様の死後、その調度品を処分したかったってことですか…」

「監視対象だったはずの前王妃が、社会や弱いもののために尽力していた姿に、被害者は随分感銘をうけたらしい。日記では絶賛している。」


使用人の人たちの証言を思い出す。


「そうなんですか。なんで、そんな方が使用人からの評判が悪かったんでしょう?」

「単純な話だ。今の王妃はアクセサリーやらドレスやらを、公費を使って購入し、使用人に渡したりしているようだ。でも、前王妃はその金を削減しようと努めた。お前なら、自分では買えない高価なものをくれる主人と、くれない上に無駄遣いを是正してくる主人、どっちがいい?」


それは、高価な物をくれる方が良いかもしれないけど…


「主人としては、尊敬できる方がいいです。俺は。」


俺の答えをお嬢様は鼻で笑った。

バカにされてる?


「被害者も、同じだったんだろう。ままならないものだ。」

「結局、前王妃様の死って…」

「事故だな。」


お嬢様はそう断言した。


翌日、セシル・ウィンチェスターが警備兵団に出頭したことをグレイ殿が伝えに来てくれた。


こうして、この事件は幕を閉じた。


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