第十六節 捜査二日目 ①公爵令嬢と推理ショー
「犯人は、この中にいます。」
王宮の一室に、少女のかわいらしい声が響いた。
今日の朝、王宮から急な使者が来たかと思うと、
「犯人がわかったそうなので、至急来て欲しい」という話だった。
意味が分からん。
お嬢様に報告しようと思ったら、朝から大好きな店のクロワッサンを買いに行ったとかでいないし。
普通、従者に一言あるよね? 一緒に行くよね?
お嬢様は基本的に家大好きっ子だけど、食べ物のためなら自ら行動できるのだ。
そんなわけで、お嬢様への言伝をお願いして、仕方なく俺は一人で王宮に来たわけなんだけど…
案内された部屋に入ると、中央のソファに王殿下と一人の少女が座っていて、王子殿下の後ろに団長とグレイ殿が控えている。そして、王子殿下たちと向かい合うように昨日話を聞いた、クレイトンさんは、スタッフォード夫人、ウィルソン嬢、そしてアンっていう侍女の4人が立っていて、壁際には使用人が数人控えていた。その中には、ロドリゲス嬢と同室の、フォーチュナー嬢もいる。
俺が部屋に入ると、その少女は驚いたように両手をかわいらしく口に当てて
「え? エドモンド? なんで…」
と呟いた。
いや、初対面ですけど。
「ジュリアナはエドモンドと知り合いなのか?」
驚いた様子の少女に王子殿下がそう尋ねると、ジュリアナと呼ばれた少女は
「あっ、いえ…そう言うわけでは…ありません。」
とはにかみながら答えた。
実際、知らない人なので。
王子殿下に挨拶すると、王子殿下はお嬢様が一緒じゃないのを少し残念がってるようだった。
その後、部屋のみんなに向かって、
「今日集まってもらったのは、こちらのケンウッド公爵令嬢が、事件の犯人を知っているというので、事件に関係している君たちに来てもらったんだ。ウェストウッド殿は、外せない用があるらしくて来れないそうだ。」
と言った。
その時点で?だったんだけど、とりあえず自分は使用人たちと一緒に壁際でおとなしくすることにした。
王子殿下の隣に座っている少女は、ジュアリアナ・ケンウッド公爵令嬢ならしい。
ケンウッド公爵と言えば、名門中の名門の非王族公爵家だ。ケンウッド公爵令嬢は、王子殿下の婚約者候補ナンバー1と言われている。
色柔らかく波打つ髪をリボンでまとめていて、その髪は金色と赤銅色が混ざり合うように輝く美しいブロンズ色をしている。深いエメラルドグリーンの瞳は、まるで宝石のように澄んで落ち着いた印象を与える。それが、彼女を年齢より大人びた印象にしていた。小さい鼻は形良く整っていて、唇は薄く、淡い桜色をしている。
うちのお嬢様と比べれば、歳相応って感じの美少女だ。
それで、冒頭に戻るわけなんだけど。
みんな、すごくびっくりしてるな。
俺だってびっくりだけど。
続けて、ケンウッド公爵令嬢は、ビシッと音がしそうな動きで一人を指さした。
それは…
俺?
「サム・リドル!あなたです!!」
ではなく、俺の隣にいた使用人のようだった。
その使用人は目を真ん丸にして、「え? 俺?」と言っている。
他の人もその使用人、サム・リドルと公爵令嬢を交互にみて、唖然としていた。
トマス殿なんか、すんごい間抜け面になってる。
「間違いありません。私、すべて知っていますから!」
そう言った公爵令嬢はすごい自信満々の様子だった。
ちょっと圧倒されていた王子殿下が、公爵令嬢に向かって
「えっと…ジュリアナ? 説明してくれるかい?」
というと、彼女は力強くうなずいて、話し始めた。
「まず、密室の謎ですが、実は事件のあったあの部屋は密室ではなかったのです!」
みんな公爵令嬢の言葉にぽかんとした顔で集中していた。
「無くなったと思われていた鍵は、ローザが持っていたんです。ローザはその鍵を使って、あの部屋に出入りしていたんです。」
それは、昨日お嬢様も言ってたな…
「実は、前王妃様が亡くなった時には、亡くなった鍵の方しかかかっていなかったんです。だから、鍵は一つで十分だったんです。心理的密室ということです!」
いや…
外から南京錠が二つついてたけど?
公爵令嬢の言葉にクレイトンさんの表情が少しこわばった気がしたけど、すぐに完璧な執事の顔に戻った。
「ローザは、そこのリドルと付き合っていたんです。それで、あの部屋で会っていた。」
「「なんですって!!」」
公爵令嬢の言葉に、2か所から声が上がった。
きれいにハモってたな。
声の主は、アンと、フォーチュナー嬢だった。
「どういうこと?」「説明して」
二人ともすごい剣幕でサムを問い詰めいている。フォーチュナー嬢は、サムの襟をつかんでブンブン振っている。それを見たアンは、
「ちょっと、何してんのー!」と言って、こちらに近づいて来ようとした。
のを、メイド頭のカロライン・スタッフォード夫人の凛とした声が制した。
「二人とも!王子殿下の御前ですよ!」
その言葉にメイドの2人は渋々、姿勢を正したけど、すんごい顔してる。
解放されたサムは、襟元を正して、助かったという風に、ふーっと息を吐いた。
王子殿下はそんな2人の様子にめちゃくちゃ引いていた。
原因の発言をした公爵令嬢も、どうしたらいいのかわからないようにおろおろしていた。
「サムに説明を許可させてもよろしいでしょうか?」
クレイトンさんが挙手して、王子殿下にそう聞くと、王子殿下はそれを許可した。
みんなの注目を集めたサムは、居心地が悪そうだ。
「えー。自分ははローザとはそういう関係では、ないです。はい。タイプじゃないので。」
頭を搔きながらサムはそう言った。
「そんなはずありません。犯人は、ローザの恋人のサムです。交際のことで口論になり、カッとなって彼女を殺してしまったあなたは、部屋から出た後にローザの持っていた鍵を使って鍵を閉めたんです!」
「あ、絶対ありません。自分、来るもの拒まず、去る者追わずなんで。」
小さく挙手してそう言ったサムを、2人のメイドが鬼の形相でにらんだ。
「あとで説明してもらうから。」
そんなささやき声が聞こえたと思うと、サムは背筋をピンと伸ばしてコクコク頷いた。
こいつ…遊び人なんだな。ウェッジウッド殿もチャラそうだったけど、こいつは実際にチャラいんだろう。
スラリとした長身で、青みがかった黒髪を無造作に整えているのがおしゃれな感じだし、濃い青い瞳は端正な顔立ちを引き立てている。
「絶対、あなたです。昨日、旧棟であなたを見たっていう証言もあるって聞きましたよ!白状してください!」
たしかに、それもウィルソン嬢が証言してたな。クレイトンさんを呼び行ったのも彼だって話だったし。
あれ? ほんとに怪しい?
「それは…そのー。ちょっと野暮用といいますかぁ…」
サムは視線をあっちこっちに動かしながら、しどろもどろに答えた。
怪しいな。
そんなサムをブライトン嬢は親の仇でも見るように見ていた。
怖いな。
サムも彼女の視線を感じたのか、俺の方に顔を向けてきた。
「サム。」
クレイトンさんが視線を前に向けたまま厳しい声で彼の名前を呼んだ。
サムは俯きながら、頭をまた掻いて
「いえ…。その、用があって旧棟に行ったのは事実です。けど、ローザとは会ってませんし、自分は関係ありませんよ。」
と言った後、顔を上げて言葉を続けた。
「そもそも、自分が犯人だとして、証拠はあるんですか?」
「それは、あなたの部屋を調べればわかることです!ウィリアム様、さぁ、彼を捕まえてください!」
公爵令嬢は強気だけど、王子殿下には戸惑いが見える。判断しかねているようだったが、やがて一つ頷いて言った。
「ジェラルド、彼の身柄を預かってくれ。あくまで、被疑者として。」
名前を呼ばれた兵団の団長は、はっと言ってトマス殿に合図をすると、トマス殿はこっちに移動して、サムの両手を後ろ手にして拘束した。
サムは動揺しているようで、
「ちょっと…待ってくださいよ!」と言っていたが、そのまま彼はトマス殿に連れられて行った。
その様子を、彼をすんごい形相で見ていた2人は、心配そうに見ていた。
「これで、事件は解決です!みなさん、本日はありがとうございました。」
そう笑顔で言った公爵令嬢は、一度ソファから立ち上がり、きれいな動作でカーテシーした。
クレイトンさんは少し硬い表情で、その様子を見ていた。




