第十二節 捜査一日目 ⑧またまた侍女の話
スタッフォード夫人の執務室を再び訪れると、そこに一人の侍女が座っていた。
彼女は、王妃様付きのもう一人の侍女、マリア・ウィルソン嬢というらしい。
昨日の件で、俺に話があるということで、やって来たそうだ。
「あの、アンから、捜査をしている方がいると聞いて…」
アンって、ロドリゲス嬢の部屋の前で会った王妃様付きの侍女かな?
「そうですか。わざわざありがとうございます。それで、お話とは?」
「あの、昨日のことですが、きちんと説明をさせていただきたくて。」
そう言って、彼女は一度喉を鳴らして続けた。
「ウェストウッド様との商談の際はいつも私が追加のお茶の準備をしに行きます。その間、アンが控えの間におりますので、何も問題はありません。昨日も同じようにいたしました。」
それは、アンって侍女からも聞いたな。
彼女はさらに言葉を続けた。
「使用人の棟から戻っていた時、旧棟の二階の廊下でウェストウッド様と会い、すぐに王妃様の私室に戻るように言われました。ウェストウッド様はすごく慌てたようすでしたので、私は王妃様に何かあったのかと思い、急いで王妃様の部屋に戻りました。王妃様は、特に問題ないようでしたが、とても動揺されていましたので、隣に座らせていただき、しばらく一緒に過ごしました。アンがぼーっと部屋に立っていましたので、お茶を入れなおすように言いました。」
「ということは、廊下にいた時に悲鳴を聞いたんですか?」
「いいえ。私は悲鳴を聞いていません。王妃様方が悲鳴を聞いたというのも、事件がわかった後、教えていただいたのです。」
え?どいうこと?
「えっと、大事なことなので確認させていただくのですが、あなたは廊下にいて、悲鳴は聞いていない?」
「そうです。」
外には聞こえたのに、廊下には悲鳴が聞こえなかったってこと?
確かにあの部屋のドアは、ドアっていうよりは重厚な扉ってくらい重くて、厚みもあったけど。
「ウェストウッド殿と会った時、彼は悲鳴について何も言及しなかったんですか?」
「はい。特に何も…」
何でだ? そもそも、何でウェストウッド殿が慌てて廊下に出たりしたんだろう?
彼だって貴族階級だし、普通そう言うときって使用人が様子見に行くもんだけど。
うーん。
「他に、棟で何か変わったものなど見ませんでしたか?」
彼女は少し俯いて考えた後、
「そう言えば、廊下でサムに会いました。」
と言った。
「サム? ってフットマンの方ですか?」
「そうです。王宮にサムはたくさんいますけど、あったのはサム・リドルです。」
クレイトンさんに報告しに来たっていう人か。
その人は旧棟で何やってんだろう?
「普段、商談の時にフットマンの方は?」
「いえ、おりません。王妃様のご要望でいつも私とアンがついていますから。」
「そう言えば、王妃様の予定について警備兵団と連携がうまくいっていなかったようですけど、それは…」
俺がそう言うと、それまで机で作業をしていたスタッフォード夫人が顔を上げて答えた。
「それは、確認中です。王妃様の予定は私が作成しますが、そこには昨日の商談の時間も入れておりました。」
「商談は何時からの予定だったんですか?」
この質問には、ウィルソン嬢が答えた。
「午後2時からでしたが、王子殿下のお茶会の時間と被ってしまうと入門が遅れてしまうからということで、1時に変更になったんです。」
「聞いていませんよ?」
「報告する必要もないかと…。もともと、王妃様は早めに行動される方で、2時の予定なら1時間近く前から準備をお済になっている方ですし、予定に影響はありません。」
「そう言うことでは…」
そう言って、スタッフォード夫人は頭を押さえてはぁーーーと深いため息をついた。
責任者って大変そうだな。
予定が変更になったとしても、入り口に誰もいなかったのはおかしいしなぁ。
「あの、王妃様はなぜ、あの棟に部屋を?」
二人のやり取りをさえぎって聞いてみる。
「それは…。それは、王妃様だって、静かに時間を過ごせる場所が必要ですから。ああ言う場所で、気心の知れた使用人と過ごす時間が、必要なんです。お優しい方ですから、いつも気を貼っておられますし。」
ウィルソン嬢はそう答えたけど。
それってどうなの?
スタッフォード夫人は彼女の言葉に顔をしかめているし。
うーん。
王宮って大変そう。




