表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
総務課長・藤井仁の憂鬱 ― 臨終雇用は日本の縮図  作者: みえない糸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/67

閑話 鳥銀・第三幕 ― 天敵どうしの三たびの夜

鳥銀――。

藤井仁(36歳)にとっては、社内以上にストレス値が跳ね上がる店である。


第1回、社長が店主を怒らせ 出禁。

第2回、店主と運良く和解(ただし「仮免」)。

そして今日の第3回――。


社長が唐突に言った。


「藤井君、今日は“誠意交流3.0”をするために鳥銀に行きます」


(やめましょうよ……2.1の時も“バージョンアップしてくんな”って怒られてたのに……)


藤井の胃が、キリキリと音を立てる。



店に着くと、鳥銀の暖簾の“銀”だけが今日もムダに光っていた。

お局がつぶやく。


「……やっぱり金だけ残るのねぇ」

「お局さん、それ不吉なんでやめてもらえます?」


中に入ると、店主がカウンター越しにこちらを睨んだ。


「……来たか、“騒音装置”」


社長は満面の笑みで深々と頭を下げる。


「前回の“誠意2.1”ではお世話になりました!」


「だからバージョンアップして来んなって言ってんだよ」


藤井(……お願いします、今日は静かに……)


店主は藤井を見ると、少しだけ目つきを緩めた。


「藤井ちゃんはいいよ。問題は“隣”のこいつだ」


隣を見る。

社長だ。


(知ってる、店主の“天敵”です……)



席に着くと、社長がさっそく語り出した。


「皆さん! 本日は“誠意と鶏肉の未来”を語り合う日です!」


店主の眉がピクつく。


「頼むから今日こそ食いに来てくれ」


藤井(店主、心からの叫び……)


飲み物が届く。

乾杯。


10分ほどは平和だった。

焼き鳥の香ばしい煙、静かな店内……。


だが、その静寂は社長がビールを一口飲んだ瞬間に破られた。


「皆さん、昨年は“焼き鳥から誠意を学ぶ”テーマでしたが――

 今年は“串の並びから組織運営を学ぶ”のです!!」


店主、ぴたりと動きを止める。


「……お客さんよ……うちは焼き鳥屋なんだよ……」


社長は嬉々として語る。


「この“ねぎま”を見なさい! 肉とねぎが交互に並ぶ……

 これは“人と数字の調和”ですよ!」


店主:

「……そんな哲学、串に背負わせんな」


藤井(やっぱり始まった……!)



そこに、悪いタイミングで営業課長が酔って参戦。


「社長! 次は“ぼんじり哲学”をお願いします!」


店主:「お前も燃料投下すんな!」


社長はノリノリ。


「ぼんじりの丸みは“組織の柔軟性”です!」


店主がカウンターを叩く。


「誰がケツで組織語れって言った!!!」


藤井(店主、過去イチの本気だ……!)



議論は膨張した。


串→味→仕入れ→経営論→人生論→“社長の武勇伝”


そしてとうとう店主が怒鳴った。


「表出ろ!」


社長も負けずに怒鳴る。


「いいでしょう! しかし私は丁寧に申し上げますが…私は! 一切悪くありません!!!」


(丁寧に怒鳴るな!!)


即外に出そうとする店主。


藤井は慌てて間に入り、両者の胸を押さえる。


「待ってください店主! 社長は悪気がないんです!!

 ただ……ただ……声が大きいだけで!」


店主

「分かってるよ!!そこが一番タチ悪いんだよ!!!」


お局

「まぁまぁ店主さん、うちの社長は“反省しない方の珍獣”だから」


社長

「私は珍獣ではありません!」



そこへ――


社長のスマホが鳴る。


画面を見ると 社長夫人。


藤井(……助かった?)


電話を取る社長。


「はい、私です……ええ……はい……はい……承知しました……」


さっきまで荒ぶっていた声が、びっくりするほど小さくなる。


電話を切った後、社長は無表情で言った。


「……帰ります」


藤井(救世主……! もはや国家公安の介入レベル……!)


店主はポカンとしたあと、


「……奥さん強ぇな……」



社長が姿を消すと、店主は藤井に寄ってきた。


「藤井ちゃん。あんたはな……努力してんの、知ってる」


藤井

「ありがとうございます……本当にすみません……」


店主

「でもよ……あの社長と飲むとよ……なんかこう……“血が沸く”んだよ」


藤井

「…………え?」


店主

「ストレス発散っていうか……

 あの天敵とぶつかると、逆に体が軽くなるんだよ」


(まさかの健康効果……!?)


店員

「大将、この店で一番元気なの、社長さんが来た後ですよ」


(鳥銀の繁栄、社長依存……!?)



帰り道。

藤井は夜風に吹かれながら歩く。


(……なんで毎回、こうなるんだろう)


そのポケットの中には、店主から渡されたメモがあった。


『また来い。

 社長を連れて来るな…とは言わねぇ。

 あいつが来ると、なんかスイッチ入るんだわ。

 人間って不思議だな。』


藤井は笑った。


(……鳥銀だけはうちの“誠意”を利用しきってるな……)


地獄の夜は、なぜか少しだけ温かかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ