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ファーストミッション

依頼人が誠意を見せた以上、依頼人のリクエストに応えるべきよな?


 戦闘服と装具に身を包み、M4A1を携えたガブリエルとアイラの2人が作戦地域とも言える異世界に送られると、夜の静寂を侵す様にスマートフォンが電子音を響かせ始めた。

 ガブリエルがスピーカーホンにして電話に出ると、ジェーンから通達される。


 「地図は紙の物と、そちらの持つスマートフォンを含めたGPS端末にデータを送った。それと、貴方達の脳にこの世界の言語をインストールし、会話と文字が解る様にもしたわ」


 「GPSが使える上に、この世界の言語が解るるのは非常にありがたい」


 感謝の言葉と共に自分が本気で自分達に仕事をして貰いたい事を内心で理解するガブリエルに対し、ジェーンは依頼人としてリクエストを告げた。


 「そちらのGPSに直ぐ近くに居る標的の位置情報をポイントしました。標的の行いを実際に確認。確認後、その場で殺害すれば私は貴方達が依頼を遂行すると判断します」


 そんなジェーンのリクエストに対し、ガブリエルはプロとして反論する。


 「今の時点で殺ったら残りの連中に警戒される可能性が高い。そちらの要望に応えられなくなるかもしれん可能性が増す以上、手を出すのは得策ではない。ソレ以前にアンタは俺達の殺り方で進めても良いと認めてくれたよな?」


 今の段階では標的達をどう狩るべきか?決断する為の情報が皆無に等しい。

 だからこそ、確認はしても手は出さずに泳がせたい事を反論理由も交えて話が違う。

 そうガブリエルは返すが、ジェーンが譲る事は無かった。


 「貴方の考えは理解出来ます。ですが、私としては不愉快極まるが故に速やかに処理して戴きたいのです。貴方達はプロでしょう?」


 雇われている以上は依頼人の言葉は絶対。

 それ故にガブリエルは折れざる獲なかった。


 「解ったよ。アンタのリクエストに応える。その代わり、俺達が要求する支援は確実に提供してくれ」


 「支援は確約致します。なので、始末して下さい」


 ハッキリ告げると、電話は切られた。

 無機質な電子音を響かせるスマートフォンをしまったガブリエルはアイラに告げる。


 「依頼人のリクエストで予定が変わった」


 「聞いてたわよ。良いじゃない、どっちにしろ殺るんだから早いか?遅いか?の違いでしか無いんだからさ?」


 予定変更に対し、異論を挟まぬアイラの言葉にガブリエルはゲンナリとした様子でボヤいてしまう。


 「警戒された状態になるのは勘弁して欲しいんだがな……"踏み絵"の為だけにリスク背負いたくねぇわ」


 依頼人であるジェーンは誠意と支払い能力を見せ、自分達の要求を呑んだ。

 ならば、自分達もプロとしてジェーンの"リクエスト"に応えなければならないのが、雇われの木っ端傭兵の辛い所である。


 「俺が先導するからお前は距離取って後ろ走れ」


 2台あるオフロードバイクの1つに跨り、FASTヘルメットに取り付けられた暗視ゴーグルを装着するガブリエルから後ろを走る様に言われると、ガブリエルと同様に暗視ゴーグルを装着するアイラは「りょーかい」と暢気な様子で返しながらもう1つのオフロードバイクに跨った。

 そして、オフロードバイクに跨る2人はキックスターターを強く蹴飛ばしてエンジンを始動させると、夜の静寂を突き破りながら無灯火で走る。

 マフラー音と共にオフロードバイクを走らせて居ると、アイラからインカム越しに尋ねられた。


 「今もこの仕事に乗り気じゃない訳?」


 アイラから問われたガブリエルはオフロードバイクを走らせながら肯定する。


 「当たり前だ!ジェーンは俺達の事を過去も込みで調べていた。だったら、俺達を雇うのに必要な金額も承知の筈だ!それなのに奴は1億2千万ドル提示してきたのは何故だ!?」


 1トン分の24K(純金)インゴット。

 その価値は日本円にして約173億円。米ドルに換算すればガブリエルの言う通り、約1億2千万と言う膨大な金額だ。

 2人を雇うには少なく見積もっても120分の1(100万ドル)。多くても40分の1(300万ドル)のカネがあれば余裕で事足りる。

 それなのにも関わらず、ジェーンは1トン分の金塊(約1億2千万ドル)を報酬として提示したばかりか、ガブリエルの要求通りに手付けも含めた前金として300キロの金塊と言う日本円にして約52億円のブツをポンと支払いして来た。

 だからこそ、ガブリエルは警戒せざる獲なかった。


 「俺達を雇ってもデカい釣りが来る金額を38人のガキを殺すだけでくれる?そんなんあって溜まるか!!絶対に何か厄介な裏があるに決まってる!!」


 ガブリエルが仕事に気乗りしないばかりか、ジェーンの事を本心では警戒する理由が語られると、アイラは更に問う。


 「アンタが警戒してる理由は解ったわ。それで?どんな裏があると思ってるのよ?」


 「ソレが解れば苦労しねぇ!」


 ジェーンの思惑やジェーン本人を取り巻く情勢に関する情報も皆無に等しいが故に、背後に潜むであろう厄ネタが何か?解らない。

 ガブリエルの予想を反し、相場価格が解らなかったジェーンが1トンの金塊を報酬にしただけなのか?

 それとも、未成年の子供達を38人殺すと言うクソ仕事させる為の"慰謝料"と口止め料も含めた報酬か?

 仕事完了後に始末するが故に、支払い能力提示も含めた前金支払いによって2人を油断させる為の見せ金か?

 他にも汚い仕事をさせる思惑が有って、支払うつもりか?

 何れにしろ、相場の百倍もの報酬を提示する得体の知れない依頼人を警戒しなくて良い理由は存在しない。


 「兎に角だ。用心するに越した事は無い。気を抜くなよ」


 ガブリエルから警戒を怠らない様に言われると、アイラは返す。


 「了解。気を引き締めて仕事するわ」


 「まぁ、向こうが踏み倒して来たら回収する術が無い事に変わり無いんだけどな……」


 身も蓋も無い事実を口にすれば、アイラはゲンナリしてしまう。


 「アンタ、愉しい事を考えた事無い訳?」


 ゲンナリとするアイラにガブリエルは呆れ混じりに返した。


 「お前が楽観視し過ぎてるだけなんだわ……つうか、俺達みたいなロクデナシを雇う連中ってのは大概、報酬踏み倒しも兼ねた口封じを平然とやって来る可能性が濃厚な俺以上のロクデナシばっかだぞ?」


 人殺しを含めた違法極まりない仕事を依頼する者は大概がロクデナシ極まりない。

 だが……


 「えぇ、ソレは嫌ってくらいに知ってるわ。でも、その中にはキチンと契約護る奴だって居るじゃない。ジェーンも護る側って考えたってバチが当たらないんじゃない?精神衛生的にもさ?」


 中にはアイラの言う通り、キチンと契約を護って報酬をシッカリと払う者達も居る。

 ジェーンもキチンと契約を護る側と考えた方が精神衛生的にも良い。

 そう返されると、ガブリエルは返す。


 「だとしても警戒するに越した事は無い。まぁ、向こうが俺達を斬り捨てるとしたら仕事完了後だろうから、ソレまでは向こうの状況が大きく変わらない限りは裏切られる心配しなくても良いかもしれんがな……」


 「アンタの見立てが良い意味でハズレてくれる事を期待するわ」


 「俺だって取越苦労で終わって欲しいわ」


 そうして会話が終われば、夜の平原をオフロードバイクで走り抜けていく。

 暫く走らせて行くと、ガブリエルが停止を指示した。


 「停まれ。此処からは徒歩だ」


 その指示と共にガブリエルがブレーキを掛けて減速させ、オフロードバイクを停止させるとアイラも同様に停止させる。

 それからオフロードバイクから降りると、ガブリエルは次の行動を指示した。


 「先ずはコイツ(オフロードバイク)を其処に見える森の中に隠すぞ」


 ガブリエルの指示と共に2人は森に向かって、未だエンジンに熱を帯びるオフロードバイクを押し歩いて行く。

 3分後。森の中に2台のオフロードバイクを偽装網を用いて隠し終えると、2人はM4A1のチャージングハンドルを引いて薬室に5.56ミリNATO弾を送り込んでから森から静かに立ち去った。

 森を出ると、ガブリエルはGPS端末を一瞥して位置を確認してからコンパスで方角を確認しながらアイラに通知すると共に命じる。


 「指定された標的は此処から東に3キロの地点に居る。ポイントマン(斥候)として先導しろ」


 「了解」


 ガブリエルからポイントマンを命じられたアイラは返事をすると、暗視ゴーグル越しに前方500メートル先まで見廻して安全確認をしてから歩み出した。

 アイラが5メートルほど進むと、ガブリエルも歩み始めた。

 ポイントマンとして500メートル先まで見廻し、安全が確認出来てからその半分である250メートルを進む。

 平原等の様な見通しが利き、木々を始めとした遮蔽物の無い隠れる場所皆無の場所に於ける前進方法で確実かつ安全に歩みを進めて行く内にアイラの視線の先と鼻孔で変化が起きた。

 その変化に気付いたアイラは右の拳を掲げ、無音でガブリエルに停止する様に通知すると、その場で片膝を着いてしゃがんだ。


 「どうした?」


 インカムを介してガブリエルが尋ねると、アイラはポイントマンとして静かな声で通知する。


 「前方に火の手が上がってる村を視認」


 アイラから通知されると、ガブリエルは身を屈めて小走りしてアイラの元へと駆け寄った。

 程無くして隣に立つと、視線の先で火の手が上がる村が見えると共に嗅ぎ慣れた臭いがガブリエルの鼻孔を擽り始める。


 「人の焼ける臭い……こりゃ、虐殺の臭いだな」


 「えぇ、クソダーイシュに焼かれた村と同じ臭いがするわ」


 共に場所は違えど、長年の間ずっと戦場を闊歩して来た兵士でもあるが故に2人は火の手が上がる村から虐殺の臭いを感じ取ると、M4A1のセレクターをフルオートに合わせる。


 「私が先行する。援護お願い」


 アイラが告げると、ガブリエルはM203グレネードランチャーのセイフティ(安全装置)を解除しながら返す。


 「了解」


 短いやり取りが済むと、2人は風向きを確認。

 風向きの確認を済ませると、2人は静かに風下へと移動してから火の手が上がる村へと静かに接近し始めた。

 数分後。村から100メートルほどの距離まで侵入すると、先行していたアイラから通知が来た。


 「敵影視認出来ず。このまま中へ侵入する」


 「気を付けろ」


 ガブリエルがそう返すと、アイラは静かに前進して行く。

 静かに侵入した村の敷地内は幾つもの無残な死体が転がり、村人達の住まう幾つもの家屋が燃えていた。

 だが、村を焼き、村人達を殺害した者達の姿は見当たらなかった。

 既に逃げた後なのか?そう思った矢先。

 聞き慣れてしまった下衆達の下卑た嗤い声がアイラの鼓膜を微かながらに叩いて来た。


 (この嗤い声は女を犯して愉しむクズ共のモノ。炎の臭いに混じって臭ってくるレイプの臭いもセット……ダーイシュのクズ共の同類が未だ居るのは確定ね)


 自分が最も忌み嫌うダーイシュと同類な者達が"お愉しみ"の真っ最中である事に対し、憎悪と憤怒を滾らせるアイラは今直ぐに駆け付けて皆殺しにしたい衝動を理性で抑え込むと、声と臭いを頼りに慎重に接近していく。

 接近していく内に村の奥で裸に剥かれた女と小さな身体の()()()()をレイプし、愉しんでる3人の青年達を見付けた。


 (あの服は高校の制服。つまり、標的達の一部と判断するのが妥当……ジェーンの提供した情報通り、殺しても心が痛まないクズ共である事が確定した)


 アイラが声に出す事無く心の中で非道極まりない行いを繰り広げて愉しむ者達を自分が忌み嫌うダーイシュの同類と認定すると、何時の間にか追いついたガブリエルが脇にやって来て冷徹に告げる。


 「未だ殺すな。連中から色々と聴きたい事がある」


 理由も交えて今直ぐに殺すな。

 そう告げられると、アイラは己の中で激しく滾り続ける憎悪と憤怒を抑え込みながら返した。


 「解ってるわ。でも、お話の際に乱暴な事をしても良いわよね?」


 冷静な口調なれど、怒り狂っているアイラにガブリエルは肯定すると共に1人だけ指定し、殺害する事を認めた。


 「あぁ、良いぞ。その方が捗る。後、ガキを()()()()()()()()()()クズは殺して良い」


 話の分かる相棒にアイラは内心で感謝すると共に自分のM4A1のサプレッサーを外し、代わりに銃身下部に腰の鞘から抜いたOKS3と呼ばれる銃剣を静かに装着していく。

 銃剣を装着して支度するアイラを他所にガブリエルは徐ろにM84と呼ばれるアメリカ製のスタングレネードを手に取ると、安全ピンに指を掛けて告げる。


 「フラッシュバン(M84閃光音響手榴弾)で隙を作ってやるから、2人がかりでレイプしてるクズ共をブチのめせ」


 己の言葉にアイラが猛獣の如き獰猛な笑みを浮かべると、ガブリエルは安全ピンを抜いて未だお愉しみの最中のクズ共目掛けて投げた。

 M84が放物線を描いてクズ共の足下に転がると、流石にクズ共は気付いた様だ。


 「何だコレ?」


 クズ共の1人が間抜けな声を挙げた瞬間。

 耳を劈く轟音と共に目を焼く程の閃光が辺り一面に広がっていく。

 クズ共が轟音と閃光に驚き、混乱する中。

 着剣したM4A1を手にアイラがロケットの如く勢い良く飛び出し、銃剣突撃を断行した。

 瞬時にもう動かなくなった少女と繋がり続けるクズに目と鼻の先まで接近したアイラは躊躇う事無く、そのクズの首に銃剣を突き立てるや、グリッと捻って首を斬り裂いた。

 クズは裂かれた頸動脈から噴水の如く血を夥しく噴き出させながら地面に倒れると、アイラは間髪入れる事無く自分の方に向いて来た2人のクズの下半身にM4A1を向け、引金を引いた。

 2発の銃声と共に2人のクズの膝が粉砕されると、クズの口から大きな悲鳴が挙がる。


 「「ギャァァァァアアア!!?」」


 撃たれた膝を押さえる2人のクズを硝煙立ち昇る銃口と共に注意深く睨むアイラを他所にガブリエルは周囲を警戒。

 周辺が安全である事を確認すると、ガブリエルはアイラと合流し、2人の無残な状態の被害者の容体を確認していく。


 「クソ!子供の方は死んでる」


 ガブリエルの言葉に応える代わりにアイラは2人のクズの残った膝へ銃口を向け、引金を引いた。


 「「ギャァァァァアア!!?」」


 2発の銃声と共に再び悲鳴が挙がると、アイラは2人のクズへ吐き捨てる様に言う。


 「このクズ共が!」


 そんな怒りを滾らせるアイラを他所にガブリエルは無残な状態の女の脈を確認すると、未だ脈がある事に少しだけホッとした。


 「彼女は未だ生きてる。だが、脈が弱い……あまり持たんかもしれん」


 アイラにそう告げると、顔を何度も殴打されて痣だらけの鼻と口から血を流す女は息も絶え絶えな様子で声を挙げる。


 「む、娘は……ぶ、ですか?い……に居た……」


 女は死亡した少女の母親であった。

 そんな彼女にガブリエルは正直に告げる。


 「すまない」


 「そ……ん……」


 ガブリエルの言葉に女は絶望と共に息を引き取ってしまった。

 見慣れた光景とは言え、何時見ても最悪な気分になる。

 だが、ソレでもプロとして任務を遂行する為にガブリエルは痛がりながら傷口を押さえ続けるクズ2人に質問する。


 「おうクズ共。テメェ等はこの世界に勇者として召喚された連中の一部だな?」


 ガブリエルの質問に対し、クズ共が答える事は無かった。


 「痛ぇよ!痛ぇよ!」


 「なぁ!助けてくれよ!!お願いだから!!」


 涙を浮かべながら痛がり、命乞いする2人のクズを目の当たりにしたガブリエルは不愉快そうに溜息を漏らすと、再び質問する。


 「ハァ……もう1度聞くぞ?お前等は召喚された連中の一部か?答えれば治療してやる」


 ガブリエルの2度目の質問に対し、2人のクズは必死な形相で肯定した。


 「そ、そうだ!俺達は勇者として召喚された!!」


 「せ、セルース王国!俺達はセルース王国に勇者として召喚されたんだ!!」


 勇者として召喚された事を認めると共に自分達を召喚した国の名を叫ぶように答えれば、ガブリエルはアイラに命じる。


 「止血してやれ」


 「…………解ったわよ」


 アイラはガブリエルの指示に不満を覚えながらも、ガブリエルの指示通りに地面を自らの血で紅く染めていく2人の両の膝上を止血用のベルトでこれ以上無い程にキツく縛り上げて応急的な止血処置をした。

 縛った際に3度目の悲鳴が上がった。

 だが、ガブリエルは気にする事無く淡々と質問を続けるのであった。


 「さて、次の質問だ……」




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