第3章 癒光教団って、やばい組織なんじゃ……
村を出たのは、翌朝だった。
日が昇る頃、ラズは荷をまとめ、俺に一振りの短剣と旅装を渡してくれた。村の人々はまだ家の中から出てこなかったが、窓の隙間からこっそりと、何人かが俺たちを見送っていた。
「ほんとうに行くのかい、癒し手さま……」
「どうか……ご武運を……」
声にならない祈りのような囁きが、背中を押してくる。
目的地は、癒光教団の出張院がある《ティラ村》。この地方では数少ない、癒しの技を正式に教えてくれる場所だという。
「癒光教団って、つまり……ヒーラー養成機関、みたいなもんか?」
「……まぁ、そう言えなくもないわ。でも、組織としては……かなり特殊」
ラズの言葉は歯切れが悪い。明らかに何かを隠している雰囲気だった。
「特殊って?」
「……表向きは“癒しによって民を救う”聖なる教団。けど実際は、その力を得た者の中には、信仰じゃなく“利”のために動く者も多いわ。癒しの技は、この世界じゃ武力に等しいの。下手をすれば、それだけで一国の軍を黙らせられるほどに」
「ヒーラーって……戦えるのか?」
「癒しとは、命を“活性化”させる技術。細胞の再生、神経の回復、筋力の補助……それを自分に施せばどうなると思う?」
「……バフ系チートじゃねーか」
思わずこぼれた言葉に、ラズが吹き出す。
「ふふ、あなたって面白いわね。けど、事実よ。だからこそ、教団の癒し手は各地の国や軍、王族からも常に監視されてる。力の使い方を誤れば、たちまち“穢れ”と変わらぬ存在として追われることになる」
「……つまり“異端者”か」
「ええ。“穢れ”と“癒し”は、表裏一体」
言葉に、重さがあった。
——癒と否を重ねし者よ。
あの石碑の文字が脳裏をよぎる。
俺の力は、果たして“癒し”なのか? それとも、もっと別の……“否定の力”なのか。
そんなことを考えているうちに、俺たちはティラ村に到着した。
木造の門を抜けると、そこは静かな修道院のような場所だった。中庭には修行僧のような若者たちが黙々と体術や気功のような動きを繰り返しており、奥の建物からは淡い光と読経のような祈りの声が聞こえてくる。
「……レン殿だな?」
突如、鋭い声がかけられる。
現れたのは、50代前後と思しき男。黒の修道服に銀の刺繍、瞳は鋭く、全身から張り詰めた気配が漂っている。
「こちら、教団騎士隊・教導官、カラム=レーヴァン。これより、お前の“力”を試させてもらう」
「試す……って?」
「“癒し”の資質が本物かどうか。訓練を受けるには、それを証明しなくてはならん。さもなくば、立ち去ってもらう」
ラズが小さく首を振るが、カラムは一歩も譲らない。
「……わかったよ。試されるのには慣れてる」
俺は一歩前に出た。
「いいぜ。証明してやるよ。俺の“癒し”が、ただの思い込みなんかじゃないってな」
——この瞬間から、“癒し手”としての地獄の訓練が始まるとも知らずに。