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「因習村の黒幕と邪神信者が戦う話」

作者: 結晶蜘蛛



 私、ティアマルは辺境の村レスヴェイルに訪れました。

 そうすると、村人に稀人として歓迎されたのです


「えがった、えがった。今年も稀人さまがきてくだすった。これで村も助かる」

「稀人というだけあってなかなか来ないのか?」

「5年に1度しか霧を抜けて入ってこれませぬ。しかし、5年に1度は必ずこの村、レイスヴィエルを訪れてくだされます」


 私たちは数日の間、もてなされた後、明日はいよいよ村の神事に参加することになっています。

 パーティーメンバーたちもすっかりくつろいでいまして、戦士のウィンフェムなんて村人たちから注がれた酒を上機嫌に飲みつつ、村人にすごい絡んでいる。

 それを斥候のラゼィルが少し距離を取って眺めつつ、ショコゼルはつまらなそうに酒の瓶を揺らしていた。

 私はというと……あんまり慣れない席で落ち着かない。


「そろそろかの」


 ショコゼルが瓶を止めて、穏やかに笑いました。

 なめらかに白い肌と赤い唇が柔らかな曲線を描き、春風のような柔らかさの笑みでした。

 冷たい印象を与えるショコゼルが、そのように笑うと落差がすごく、同性の私でも思わず魅力的に思えてしまいます。


「はて、なにがですか、稀人さま――」


 途端、村人たちの言葉が止まりました。

 彼らは口から泡を吹き、喉をかきむしりながら、体を痙攣させ、のたうちまわっています。

 そのせいで、料理がこぼれ、机は倒れ、部屋の中はさながら地獄絵図となっていました。

 密かに料理に混入した、シビレドクダケの毒が回ってきたのでしょう。

 ショコゼルが調合した解毒剤を飲んでいたので私たちは平気でした。


 

 私たちのパーティーがこのレイスヴェイル村に来た理由は冒険者ギルドの依頼を受けてです。

 『古文書に乗っている村の探索にいった魔法学のミリア教授が帰ってこない。そのうえ、古文書通りに行ってもたどり着けない』という事態が起きており、探索願いが出されておりました。

 ミリア教授は護衛を引き連れていたのですが、それでも帰ってこなかったです。

 古文書の指し示す通りの日時と手順で行く必要があるので、心配している家族が毎年、ギルドに依頼を出し、今年は私たちが受けたのです。

 そうして、私たちはレイスヴェイル村に訪れ、「稀人さま」として手厚い歓迎を受けました。


「……どうなってるんだ、この村? 普通、いきなりきたやつらに豪勢な飯を出したり、ひれ伏したりしないだろ」

「フフフ、陰謀の匂いがするな」

「だいたい罠だったりするがな」

「みなさま、人の好意を疑うのはいけませんよ」

「だが問題もあるぞ、こうも行く先々についていかれたら調査ができんぞ」

「我が簡易ゴレームを作ろり、人数を偽装しよう。その間にラゼィルが透明化の呪文で動くのはどうだ?」

「ふむ、確かにわたしが適任だね」

「ばれないようにしてくださいね」


 稀人として話を聞いていき、その裏で斥候のラゼィルが透明化の魔法を使い探っていきました。

 その結果、レイスヴェイル村の内情がわかっていきました。

 簡単にまとめますと、「すでにミリアたちは死亡している」「やってきた稀人たちを神の生贄にささげている」「5年に1度、加護が解かれて、外から人を呼び寄せる」「村人たちは何世代も同じ人物たちが生き続けている」、ことが判明しました。


「つまり、彼らは稀人を犠牲に生き続けているのだろうね」

「んじゃ、殺そうか」

「賛成よな。ああいうやつらが自らの企みにはまるさまが面白いものだ」

「ええ、……彼らは私たちから奪うつもりのようです、やってしまいましょう、タルゴリス様もそういっております」


 団結と排除の神タルゴリス様曰く、「群れの外から奪ってくるものは敵なので殺していい」のです。

 ほかの方たちも同意していただけました。

 こういうときは意思疎通がスムーズでありがたいものですね。

 私たちは――全員が神官のパーティーです。

 戦士のウィンフェムは「死と殺戮の神シャリヴェス」

 斥候のルィーゼルは「苦痛と戦いの神アゴニス」

 魔法使いのショコゼルは「疫毒と陰謀の神ミラズマ」

 そして、神官の私――ティアマルは「団結と排除の神タルゴリス」から奇跡をもらっています。

 私たちは一般的には邪神と呼ばれる神を信奉しておりまして、それらが見つかると殺される可能性があるので、皆で協力して表向きはまともなパーティーに見せかけるようにしております。

 といっても村人は多く、しかも不死の可能性がありました。なので、話し合いの末、ショコゼルの作成した毒薬で殺すことにしました。


「……一人だけ薬の効きがおかしものがおるの」

「どれだ?」

「エミスリアだ」

「なるほど」


 倒れているもののなか、髪を結い着流した神官服を着た女性――エミスリアさんへルィーゼルが短剣を投げつけました。

 短剣はささったもののルィーゼルさんはふらりと立ち上がりました。


「どうして気づいたのかしら?」

「我の薬での痙攣はそんなな揺れ方はせん。もっと反射的に起きるものでな」

「なるほど……わたくしもまだまですわね」

「なんで死んでないんだ?」

「このぐらいの薬、わたくしには効きませんわ」


 「このぐらい」と言われショコゼルが眉を顰めました。


「いままでずっとこのように旅人を殺していたのですか?」

「ええ、稀人様として我が神ウィーゼルさまへと生贄にさせていただきました」

「じゃあ、油断させるために歓迎してたんだな」

「いいえ、それは違います。これは村人たちを苦しませるためですわ」

「……どういうことだ?」

「私はこの村の人たちをできる限り苦しめ続けたいのです。そのためには私はこの村を永遠に閉じ込め縛り続けたいのですわ。そのためにウィーゼルへの贄をささげる必要があるのです」

「なぜ、そこまでして村人たちを苦しめたいのですか」

「村人たちが何世代も姿が変わってないのはご存じですの?」

「ええ、手に入れたミリアの手記にありましたが」

「それは私の肉の影響ですわ。私は不死身の特異体質で生まれた身、それを知った村人たちが少しずつ肉をそいで食べてその力を手に入れました」

「それは……ひどいですね」

「いいえ、それならまだよかったのです。私はまだ外を知りませんでしたから……、しかし、旅人さんが私を助けてくれようとして、皆で殺したことは許せません」

「旅人さん、のう」

「ええ、私の境遇を知って救おうとしてくれたあの人を皆はわたくしの前で引き裂きました。その瞬間、決めました……そんなに長くいきたいのなら、ずっと生かして苦しめ続けると」

「そして、魔神ウィーゼルと契約して力を得たのだな」

「その通りですわ……そして、時間稼ぎも終わり」


 エミスリアさんの身体が大きく広がり、巨大な蛇へと変化していきます。

 身長は成人男性の三倍ほど。尾が屋敷の一部を弾き飛ばし、外へと延びていきます。

 緑色のうろこをひらめかせ、私たちを睥睨しました。


「さぁ、あなたたちも餌になりなさい」

「あなたの身に起きた悲劇は同情します。しかし、信仰の名の元に人を縛ろうとしたことは許せません。信仰とは道しるべ。人の命を弄ぼうが、信仰を弄ぶことは私たちに対する侮辱です」

「ああ、シャリヴェス様、不届きものに誅罰を下すぜ!」

「いや、結構、参考になったよ。あんな互いに監視する制度で密告性を採用していれば疑心暗鬼に至るというもの」

「よき企みであったな。さぁ、その企みを踏みにじってやろうではないか」


 私たちはそれぞれ武器を構え、大蛇エミスリアへと挑みかかっていった。


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