消沈
ノエルは馬車に揺られながらぼんやりと外を眺めていた。
その顔は酷く暗い。夜にほとんど眠れていないから目の下に濃い隈があり、食事も摂る量が極端に減ったものだからやつれて、全体的にくたびれた雰囲気を放っていた。
フタバの消息不明の報せを聞いた後、ノギリアからすぐさま捜索隊を派遣した。しかし、結果は芳しくなく、それどころか彼らが持ち帰った話に寄ると、フタバは王を慕っており嫁ぐ日を心待ちにしていたと聞いたという。なんでも、フタバが自ら滝に身を投げたのではないかというもっぱらの噂だったらしい。
結果的に自分が想いを寄せていた娘を追い詰めたと知って、ノエルは酷い罪悪感に苛まれていた。
笑っていてほしかった。幸せにしてやりたかった。
その気持ちに嘘はなかったのに、自分が先走ったせいで彼女の望む未来はなくなってしまったのだ。
悔やんでも悔やみきれるものではない。
そんな、今や病弱な末の姫よりもずっと病人らしくなってしまったノエルを見かねた兄がしばらく城を離れて田舎で療養するように勧めてきたのである。ノエルにはもうそれを断るような気力も無く、流されるままに頷いていた。
行先は海辺の町、シーザリア。ノエルの母の生家である男爵家が領主を務めている町だ。町には質のいい薬を売る店があり、これまでも月に何度か妹の薬を買うために訪れていた。
しかし、まさか自分がその薬の世話になるかもしれないことになるだなんて。おかしくてノエルは久しぶりに笑った。
そうして窓から目を離すと、正面に顔を向ける。馬車の中には同乗者がいた。
「……レオン、すまないな。こんなところまでついてこさせて」
「気にすんなよ、給金はちゃんともらってるからよ。むしろ旅行できてラッキーって感じ?」
「そうならいいが」
「おう。俺、海の料理が好きだからありがたいよ。帰る頃には太ってるかもしれないな」
乳兄弟のレオンだ。彼は冗談交じりに笑って言って、ノエルが気に病まないようにしてくれる。
その心遣いが辛くて、形だけ笑ってみせるとまた窓の外へ視線を移した。
ノエルの周りの人間はとても優しい。
しかし、今のノエルにはそれが苦しかった。いっそ、お前の軽はずみな行動のせいでこんなことになったのだと責め立ててくれればいくらかこの罪悪感も晴れたのに……、なんて恩知らずにも憎らしく思ってしまう。
それがまた自分を罪深いものへと落とす気がして、眠れるはずもないのにノエルは目を閉じた。
いっそ、これが全部夢だったらいいのにと思いながら。