第99話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「3割アンチだったな……俺の運はどこに行ってしまったのか」
朝からテンションが真っ逆さまである。
いったいなぜあんなに暴言が吐けるのか、どうして何の確証も無く犯罪者と決めつけられるのか、これが有名人の辿る道と言うものなのだろうか。いやまて、有名人でもない俺が非難されてるって、それってただ損なだけでは? と言うか、Tでの俺の評価って今どうなってるんだろう。
調べるのは、ちょっとこわいな。
「なんであんなに嫌われてるんだろう」
訳が分からん。最初はあれが原因かとも思ったけど、そっから火が飛び火した感じだろうか? それにしてもここまでずっと燃え続けるものかね? みんなカルシウム足りてなさそう。
「話によると未だにTでも火が治まらないらしいし、やっぱ本格的にお祓いを考えるべきかっ!」
今日も良い放物線である。特にダイナマイトと違って細長くも無く投げやすい形なので、テルミット爆弾は狙った場所に投げやすい。
「ナイスエクスプロージョン!」
そして爆発力、圧倒的爆発力、飛び散るスライムの破片、もしも近くで爆発しようものなら全身にスライムの破片が降りかかること請け合いの衝撃映像。なので遠くに綺麗に投げられることは重要である。
降りかかると言っても黒スライムはスライムと違って特に害はなく、感触がただ気持ち悪いだけだ。すぐ塵に還るので汚れも付かない。でも食べたものは、返って来ないのでたぶん消化はされているんだと思う。
「そろそろ切り替えポイントだろうか?」
ナイスエクスプロージョンからさらに奥へと歩いているが、スライムが見当たらない。すでに切り替えもポイントを過ぎて歩いてるかもしれないと思うと、少し緊張が込み上げてくる。
「ボス部屋か、延長戦か、出来ればトイレ風呂完備の新しいホール来い」
自転車と歩く音だけだと寂しくなるので自然と口から声が出てくる。これって割と大事で、何もしゃべらずこの薄暗い中を延々歩いていると体力より先に心の方が駄目になって来るのだ。
一人暮らしと仕事の所為か増えた独り言を何とかしようと思った時に感じたんだけど、この独り言はストレスの発散になんているみたいで、今はその事を更に実感している。なので願望を口にしていこう。
「安全地帯が続けばグレードが上がってもなんら不思議ではない。声に出して行こう! なんでも引き寄せの法則と言う魔法のような何かがあるらしい」
ダンジョンものゲームでも飲み水が湧き出る回復エリアがあったりするので、そんなに非現実的な話ではないと思う。……うーん、異変以降の世界で現実とか言っても妙な気持になるな、でも恩恵なんて魔法があるんだからマジで引き寄せてくれないかなぁ。
「俺の未来は明るい! 俺の未来は明るい! すごく……あかるい?」
ん? ちょっと明るくなった気がする。もしかしたら俺は光の魔法に目覚めたのかもしれない。伸びしろしかない俺の運が仕事をしたのだろうか、やるじゃないか俺。
「明るくなってきたな……」
やっぱり明るくなって来ている。光の魔法云々は良いとして、これはホールが近いかもしれない。
「ん? あれは」
は? ……いやまさか、そんなわけないよな。方角間違ってるわけじゃないし、あれは、アレだよな。
「これは、階段だ」
間違いない。
入り口と同じタイプの坂と階段が見える。滑り止めの溝が細かく付けられているスロープと数人が横並びで降りられる階段、でも何か違和感があるな。
「ちょっと、汚れてる?」
いつも使っている階段やスロープと違って汚れてる様な、苔が目立つ感じと言うか古臭い感じだ。
「出口? どこに?」
人が使ってないから汚れてると言う事だろうか? 近付いて見ればはっきりとわかる違い。これは入り口とは違う階段だ。
しかし、どこに繋がってるんだろう? 江戸川大地下道は東向き、と言う事は千葉辺りに出そうなものだけど、中は直接つながっているわけではないと言うから、全然違う場所に出てもおかしくはないな。
入り口と同じで長い階段、こっちは苔が生えていても特に滑る事はないけど、スロープ側の自転車はアシストが無かったら上げられなかったかもしれない。
「よいしょっと、異界の中と外は関連性が無いって話だから、必ず千葉に出るわけじゃないと思うけど」
外に出れば薄く雲が空を流れているがまだ晴れと言っていい天気、確か今日の天気予報は晴れだったので近所だろうか? しかし周りはちらほら草が大きく伸びた砂利の地面。鬱蒼としてないので問題なく進めるけど、伸びた草の背は高く、あちこちに切り株が見える。
「もし千葉に出るなら、まだ見ぬ新しい異界ってことかな?」
遠くには良く育った樹が緑の葉を揺らしているけど、妙に涼しい。千葉でも山の方なのか、確か千葉には三つ異界があったはずだけど、どこも協会の施設があると聞いたので、千葉なら新しい異界と言う事になりそうだけど、スマホがあっても地図が機能してないから調べようがない。
「バリケードだ。と言う事はもう発見済みってこと?」
しばらく自転車を押しながら歩いているとバリケードが見えてくる。近付いて見ればしっかりとした頑丈そうなコンクリート製の壁だ。こんなしっかりとした壁を作るくらいだからも発見済みなんだろう。そうなると千葉の線は薄いか。
「車二台分ってところかな」
車も楽に出入りできそうなゲートは開いたままだけど、人が出入りしている気配は感じられない。これはちょっと、草がすごいので刈らないと外に出れそうにない。小学生の頃なら気にせず草の中にも飛び込めたかもしれないけど、流石に何があるか分からない草の中に入っていく気にはならないな。
これが歳をとると言う事か……。
「まったく違う地方だったらどうしようか」
そんな不安が全身をなぞっていく。それはゲートの向こうから流れ込んできた風、妙に涼しいのである。
太陽は高いのに、協会のトイレを早朝に使う時くらいには涼しい。いくらそろそろ残暑の時期とは言っても、この時間にこの涼しさは可笑しい、となると、東京より北か高地の可能性が高いわけだけど。
「黒スライムなんてネットで調べても出てこなかったし、そうなると一般公開してない異界か本当に未発見異界かな?」
未公開だと大体自衛隊の管理下が多い、未発見となるとバリケードの様子から元々何かの施設があった場所に発生した異界だから、そうなるとここは私有地と言うわけになって、俺って今、不法侵入になるって事か。
怒られる前に戻った方が良いのか、報告した方がいいのか悩むとこだ。
「しかしこれは、ワープと言ってもいいのでは?」
今のところ異界同士が繋がっているなんて話は知らない。自衛隊や国が隠している可能性もあるけど、一般には知られてないよな? もし一般に公開されてたら絶対話題の一つにもなると思う。ワープだよ? いくら異界内の距離が結構あるからって、今の物流難の状況では革命と言っても良いんじゃないだろうか。
建物がある。
ゲートから伸びる壁を横目に歩いていたら草に覆われた建物が見えてきた。目線より少し低い草が黄色い花を咲かせている。結構な量が群生しているので圧巻と言うか、廃墟を包む黄色い花畑と言うのも絵になると思った。
「…………荒れてるな」
そう、廃墟だ。窓が割れて入り口の引き戸も外れてしまっている。流石に自転車は中に入れるわけにもいかないのでここに停めて、舗装されて草の生えていない入り口へのアプローチを歩く。
舗装されたと言うよりは、踏み固められた感じだろうか、よく見ると地面から土嚢袋のような物がはみ出ているので、舗装はされているのだろうが随分と凸凹だ。
「あ、リサイクルタワーだ」
そうだ! 不味いぞ、階段登る時に邪魔だと思って出したテルミット爆弾、自転車のカーゴに入れたままだ。もし見つかったら通報されて逮捕コースになっちまう。急いであそこに放り込んでおかないと。
「これでよし……すげぇ1500Eになった」
建物の脇にあったリサイクルタワーにテルミット爆弾3つ放り込んだら1500Eになったんだけど、割に合うか分からない。でも、これで帰りは全力で漕いで帰らないと、爆弾無しじゃスライム相手に何もできないわ。
「ツタだらけだなぁ」
見上げるリサイクルタワーは蔦に覆われていて自然と同化してしまっている。離れてみると、こちらもツタだらけの建物と同化して気が付かなかったようだ。こういう蔦って建物が痛むとか痛まないとか言うけど、リサイクルタワーも壊れたりするのだろうか? 特に問題なく使えたから良いけど、これ無くなったら今のご時世は結構不便だよな。
「さて、これで落ち着いて中を調べられるな」
何か住所がわかるものでもあれば良いんだけど、廃墟だからか物がずいぶんと少ない。壊れた玄関からそっと入って見渡しても割れたガラスや窓枠、家具か何かの残骸だろうか? 木材が山になっていたりするだけだ。
「協会施設じゃなさそうだな」
ハンター協会の施設なら官民うんたらかんたらと書かれた金属のプレートが入り口の壁に掛けられているはず。と言うか、ここまで古い廃墟なら協会が出来る前の施設だろうから当然だろう。
「結構広いけど、これは本格的に廃墟だな。なんの施設だったんだろう」
入ってすぐに広いホール、奥に入る廊下の幅は結構広くまるで病院のような印象を受ける。俺は詳しいんだ、最近良く総合病院と言う大きな病院に行くことが多いから、まったく自慢にならない。
特に誰とも会わないと大胆になって来るもので、入り口から入る時は背中が丸まって腰が引けていたけど、十分とかからないうちにいつも通り、異界を探索する時くらいの心持と言ったところだ。
行き止まり、では無いみたいだ。
「扉が無い」
大きな通路の脇に細い通路が続いていた。暗くて気が付くのに遅れたけど、通路を覗くと先に部屋が見える。どうやら奥は明るいようで、壊れた扉の跡だけが壁に残っている。
奥に進めば少し広めの部屋が広がっている。不思議な間取りだけど、離れの部屋と言った感じで、部屋が四角では無い様だ。八角形だろうか? 微妙に生活し辛そうだ。
「ここは、壊れた家具が多いけど、朽ちて何が何だかわからないな」
色々あるけど、窓が割れた所為で草や枯葉が入り込んでほとんど朽ちている。でも中央の机周りだけは綺麗だ。社長とかの執務室にありそうな横に広い机だけど、金属製だから朽ちてないのだろうか? 場所がよかったのだろうか。
ちなみに元勤め先の社長デスクの方が高そうである。会社に出社した最期の日に見に行ったけど、中身は全て押収されていて無残な姿を晒していた。
「ノート?」
きれいに整理された机の上にはノートが一冊だけ置かれていた。よく見るシンプルなピンクのノートだけど、表面が少し色あせているだけで朽ちた様子はない。
そっとノートを手に取ってみると、裏面は元の濃いピンク色のままで、机もノートの部分だけ色褪せずきれいなままだ。
ノートの埃を払って開いてみると何か書いてある。半分も使ってないみたいだけど、そこには大きめの文字で日付が書かれていた。
いかがでしたでしょうか?
羅糸は怪しいノートを見つけた!
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




