第97話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「これ上げて良いのか?」
「派手でしょ?」
タブレットに映った大輔がしかめっ面を浮かべているが、派手な画が欲しいと言ったのは大輔である。だから盛大に爆散するスライムの群れを撮って来たと言うのに、これに不満があるとは、編集しやすいようにとタブレット端末を持って来てくれたくらいでは許さないぞ。何枚持ってるんだろう。
「いや、派手だけどよ? この爆弾なんだよ」
「作りました」
私が一時間で作りました。
こんな風に言うとただの冗談だけど、冗談みたいな現実が目の前で今も起きているんだから列記とした事実である。本日も手刀の切れ味は良く、集めたバッタ産割れメタルが黒スライムキューブに飲み込まれて形を変えている。
同時にいらない割れメタルも溜まっているので、今度適当に使い道がない割れメタルと黒スライムキューブを混ぜて放置してみようと思う。完成した瞬間爆発されたら困るので離れた場所でやるつもりだ。
「犯罪だろ!?」
「異界の中は日本の法律適応されないよ?」
だから僕のことを犯罪者と呼ぶのはやめてくれたまへ大輔君、心臓に悪い。何だかんだ便利に使ってはいるけど、何時逮捕されないかとこっちも不安なんだよ。山本のおっさんあたりが嬉々としてやってきそうだ。
「てことは、ドロップか」
「そこから先は有料コンテンツです」
勘が良い、犯罪を起こさないで爆発物が使えていると言う事はまぁそうなる。あと俺がそんな危険な橋を渡らないと言う信用があるのか、それとも球が小さいと思っているのか詳しく聞きたいところだけど、どうやら俺の話を肯定的に信じてくれているみたいだ。
こういう所は助かる。でもテルミットについては詳しく教えません! 大輔脅されたらすぐ話しちゃいそうだから。
「良いのかこんなの見せて?」
「秘密兵器と言う事にしとけばいいんじゃない?」
「アンチが騒ぐぞ?」
確かに騒ぎそうな気はする。犯罪だとか爆発物使ったから逮捕とか色々言われそう。最近は身に覚えのない罪をいくつもでっちあげられているけど、わかりやすい犯罪の可能性とかすぐ飛びつくと思うんだ。まるでイナゴだな……もしかして缶バッタの親戚だろうか。
まぁそんなもんどうでもいい、どうせ騒ぐだけで何もしてこない。
「知らないよ、俺悪いことしてないし」
「それはまぁそうなんだろうけど」
最後の手段はまだ残してある。暇を持て余した公安おじさんなら何とかしてくれるだろう。忙しかったら無理かもしれないけど、最近は動画のコメントとか見る気も無いので放置である。実に精神衛生上優しい生活だ。
「ダイナマイトがドロップするという情報の方が危険な気がするんだよなぁ」
「言ってたな……ふむ」
「結構ボロボロ出るから……ただなぁ?」
話を聞いた店長も顔を蒼くするような危険物だけど、爆発物と言う事以外にも、本当に俺以外でもドロップするのかと言う不安もあるので公表しづらい。突然ドロップが変わってしまって今も変わらずダイナマイトがドロップするけど、ある日突然灯油に戻る事だってあり得るのだ。
むしろ俺としては灯油に変わって欲しいまである。
「ただなんだ?」
「元は灯油が出てたんだけど急にダイナマイトが出るようになったから、そのうちでなくなる可能性もある」
俺の返事にタブレットの中の大輔が驚いた様に目を見開いて、すぐにしかめっ面で悩む様に唸りだす。見た感じ似たような事例を知らないと言った様子だが、大輔も思い当たる話を知らないとなると、今回の現象はずいぶんと珍しいのか、秘匿される様な状況だったと言う事か? ……余計動画に出来そうじゃないな。
「ドロップが変わったのか? レアとかそう言うんじゃなくて?」
「たぶん違うと思うんだよねぇ」
灯油がレアなドロップと言う可能性もあるけど、これだけ大量に狩っても出ないとなると違うんじゃないかと思う。と言うか1リットルの灯油とダイナマイトって価値的にどっちが上なんだろう? 個人的にはダイナマイトの方が希少な気もするけど、異界のシステムを作った何かの価値観なんてわからん。
「そうか、そう言うのはあまり流布しない方がいいかもな、出なかった場合に嘘情報だと叩かれる」
不安定なドロップと言う話を聞いた大輔も納得した様に頷く。
「どの道叩かれるわけだ」
しかし、黙っていても話していても叩かれるんじゃ逃げ場がないな。
「そこは仕方ないんだよな。アンチが居ない有名配信者なんていないんだから」
「求む野菜生活」
大輔が言う事は尤も、今までいろいろアイドルやらなんやら見て来たけど、叩かれない人間なんて一人も見たことが無い。どんなに素晴らしい人間が素晴らしい結果を成したとしても、必ず悪い評価を下す人間はいる。
事実であろうとそうでなかろうと、他人を叩ければいい人間なんてごまんといるのだから、理想の優しい世界は遥か遠い。
「世の中は厳しいのさ」
「いろんな意味でなぁ」
俺なんていまだに事実無根な情報を元に叩かれるんだから、どこもかしこもこの世の中は俺に厳しすぎると言うものだ。
「ダイナマイトもすっきりしたな」
大輔と世の中の厳しさについて語り合って数日、見上げるほどのダイナマイトはすっかりその嵩を小さくしていた。
「まさかあれだけあったダイナマイトが3ケースまでになるとは思わなかった」
コミックケース3つ分でも結構な量ではあるけど、黒スライムに毎日ぶつけていたらここまで減らす事が出来た。たまに殺し損ねて危ない目にも遭ったけど、ゴミにしかならないと思っていた頃に比べたらその評価は雲泥の差である。
「と言うかスライムの量がえげつない。狩っても狩っても減った気がしない」
しかもそれが一月も掛からずだ。それだけで狩った数が想像できるだろう。いや出来ない。出来るわけがないのだ。実際に狩っていた俺が数えるのを諦めたくらいには多かったからである。
それと言うのも、篝火の様にライトを使って狩りをしていたのが悪かったのか、純粋に物量が多かっただけなのか、今まで複数の遭遇なんて無かった化物の生態が、黒スライムに関しては当てはまらず、不定形なものだから大量に集まって来ると固体の境界線も分からない。
ダイナマイトを大量に投げ込んだり、テルミット爆弾の投入で狩り自体は問題なく勧められたけど、どれだけ狩ったのかなんて解るわけがない。ドロップも複数個出るので当てにならない。
「最近は少し前まで進めるようになっては来たけど、代わりに道中の化物が増え始めてる気もする」
スライムが減った分他の化物が増えている気もするけど、それは考え過ぎだろうか? 単純に狩ってない分増えてるともとれるが、それにしても最近の化物増加速度は増している気がする。
「まるで異界が先に進ませないように化物の量を調整しているようだ」
異界に意思があったとして、俺達のことをどう思っているのか、歓迎しているのか邪魔だと思っているのか、専門家曰くそう言った生物的な反応を示すものではないと言うが、住んでる身としてはそう思えない。
「普通のスライムも大増殖以降大幅に増えてはいないけど、明らかに以前より増えてるらしいからな」
ガソリンを投げ込まれて燃やされても特に変わった反応を示しているわけでもないし、大体歓迎しないなら入り口塞いでしまえば言いわけだ。なら、まだ人が入って来てもらう必要があると考えるのが普通だろう。
異界に意思があると考えるのが異端だと言う意見もあるけど、それ以上に専門家が胡散臭すぎるんだよなぁ。
「あれかな?チュートリアル期間終了で異界が本格始動し始めたってことか?」
ゲームっぽく考えればそれはある。それまで何もいなかったのにチュートリアルが終わると一斉にゾンビで溢れかえるホラーゲームとか、すんなり入って来れたダンジョン、しかし返り道はモンスターだらけとか、嫌らしいゲームあるあるだ。
「化物が増えるのはある意味ありがたいと言えばそうだけど、攻略スピードが落ちるのは困るんだよなぁ」
化物が増えればドロップも増えるので、経済的には良い事なんだろうけど、少しでも前に進みたい俺としてはあまり有り難くない。
それに、まるで等価交換の様に変換されるダイナマイトと黒スライムキューブ。ダイナマイト2本消費でスライムキューブが最低2個、最大6個出るんだから交換率が良すぎて段ボールがすでに足りない。
ダイナマイトは硬いのでしっかり積み上げればそれでよかったけど、スライムキューブはプルンプルンで柔らかいので積み上げられず、今はゴミ袋に入れて積み上げられている。
「早く他の使い道も見つけないと、大量廃棄しないといけなくなってしまう。価値を考えると勿体ないけど、この黒キューブいくらになるんだ?」
まだ一度も廃棄していないけど、最終的にはそうせざるを得ない。
いくらテルミット爆弾の材料になるとは言っても、そのテルミット爆弾もすでに積み上がっている。増産する必要がないほどたまっているし、割れメタルも最近は供給が落ちて来た。スライムより先に先にバッタの方が枯れたのだ。
今ならバッタを狩れない人でもここまで来れそうで少し心配でもある。
いかがでしたでしょうか?
変化はしているけど、困りごとが減ることはなさそうです。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




