第94話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ふふ、やってしまった」
調子に乗りました。
でも仕方ないんです。店長にあんな自慢されたら俺もEマーケットをレベルアップさせたくなってしまったんです。往復の度に楽しそうにお茶ガチャの話をする店長、正直羨ましいと思った。
おにぎりでとも思ったけど、違うんだよ。俺は新しいガチャが引きたいんだ。
「今日は、銭湯だな……」
まさか一匹対応している間に横道から二匹目が現れるとは思わなかった。
一匹目はいつも通りフライパンガードを使って離れた場所に跳ね返して倒したけど、二匹目は間に合わなくて左手で振り払ってしまった。当たったのは硬いバッタの前足、まったくのノーダメージで振り払えたのは良いけどそのまま爆発。回転しながら吹き飛ばされたシュールストレミングがその汁を周囲に拡散しながら飛んで行ったのだ。例えるなら拡散臭気砲、避けるのは無理。
圧倒的大惨事、もし一人じゃなくて複数で戦っていれば、仲間からフルボッコにされても甘んじて受けなくてはいけない様な状況。しかし俺はぼっち、ただ臭くて吐いただけで終わった。
悲しいと言うか、ただ辛いだけである。
「ふぅ……臭い消えて来たな」
最近はシュール缶バッタ狩りにも慣れて、銭湯リフレッシュは半々くらいの確率だったけど、今回ほどひどい状況は初めてだ。浮かれるのは良くないと戒める感情がお湯に溶け出し緩んでいく。
気持ちいい。
「……こうして見ると、Eマーケット見てる人ってわりと居るもんだな」
なんとなしに顔を上げて周囲を見渡せば中空を見詰める人や指を虚空に向けて動かす人たち。傍から見たら可笑しな光景だけど、みんなEマネーの確認や恩恵の確認、Eマーケットで何を買うか選んでいる人たちである。
緑の壁は自分にしか見えないから、知らない人が居なくなった今でもちょっと奇妙な光景だ。この違和感はハンズフリーで電話する人が増えた時期に、大声で独り言を言ってる変な人にしか見えないと、上司について女性社員から相談されたのを思い出す。
おじさん達は基本的に電話の声が大きい、その相談を匿名で人事部に出しておいたら次の週にはハンズフリー禁止令が出た。何でも会社周辺でも変な人が居ると警察に通報があったそうだ。
「ん? おうこの間の溺れてた兄ちゃんじゃねぇか、大丈夫だったか?」
そんな昔のことを思い出している頭の上から声がする。誰だろうと思って振り返ったら、タオルを腰に巻いた筋肉マンだった。
「お? ああ、この間はどうも」
「いやいや、しっかしあの時はびっくりしたぜ。まぁ溺れる気持ちも分かるけどな」
「わかるんですか」
わかるらしい。
たまに寝てしまって沈みかける事はあっても溺れたのはアレが初めて、隣に座り湯に肩まで浸かった俺の救世主、日焼け黒光りマッチョメンにとては割とあるあるの様だ。
「クタクタになるまで働いたらああもならぁよ、風呂前に一杯決めった時は特にな」
酒を入れたら確かにそうなりそうだ。見た感じ体を酷使するタイプの仕事をしていそうな人だけど、疲れた体とアルコールにお風呂は絶対やっちゃだめな組み合わせじゃないかな。
「酒飲んで風呂は危険ですね。私はあの日は久しぶりのお風呂だったので」
「久しぶりって、風呂は毎日入った方が良いぞ?」
「入院してたんですよ」
入院してた間は体を拭くくらいだったし、久しぶりのお湯は気持ちよくて、あの時は色々緩みすぎていた気がする。
「おいおい、病み上がりかよ大丈夫なのか?」
「ええ、仕事と言うか異界で怪我しまして」
「なんだ兄ちゃんハンターか!」
少し驚いたような感心した様なそんな笑みを浮かべるマッチョメン、たぶんすごく良い人。小さい頃に通った銭湯にも、こんなタイプの戦闘民族ボディな人は結構多かった。
正直俺よりもずっとハンターと言う肩書が似合いそうである。
「ええ、まぁC級なんですけど、すぐそこの異界で毎日狩りしてますよ」
「はぁ……あんな恐ろしい化物相手にすげぇな?」
感情が良く外に出るタイプなのかコロコロ表情が変わって面白い。姉ちゃんと久しぶりに会った所為か、余計にそう感じる気がする。まぁ姉はあれでちゃんと表情に感情が出ているけど、普通の人には解らないレベルだ。
もしかしたら姉ちゃんで感情鑑定レベルが上がった所為で化物の感情を認識できるのかもしれない。微妙に要らない能力である。
「そうですか? まぁ恩恵のおかげが大きいでしょうね」
これは事実、何とかなると分かっていれば化物相手にもそこまで恐怖は感じなくなるものだ。初めてスケルトンと対峙した時のような恐怖心はすっかりなくなっている。それが良いのか悪いのか、何度も大怪我している身としては判断に困るところだ。
「C級なのに頑張るなぁ?」
「お詳しいんですか?」
「俺もハンター取ったからな、まぁ仕事で仕方なくってところもあるけどよ」
「仕事で……」
ハンター資格を取らせる仕事って何だろう。気のせいかブラック臭が漂ってきた気がする。
もし、今も会社が残っていたらそんなことになっていたのだろうか? ……可能性はあるな、何せ仕入れ先が全滅してるんだから、新しい商材探しに異界へ入れとか平気で言ってきそうだ。
「社長が異界で重機使うかもしれねぇから取れってよ、今のとこ役たってねぇから試しに異界行ってみたけどスライムにスケルトンにおっかねぇぜ」
重機と言う事は土木関係だろうか? 本格的に異界を開発するなら確かに必要そうだけど、俺としてはスケルトンよりムキムキマッチョなこの人の方が怖いけどな。
「スライムは正直相手にしたくないですけど、骨は動き遅いですし殴ればすぐ壊れますよ」
うん、俺のような恩恵が無くても普通に殴り倒せると思う。スライム殴ったら火傷するだろうけど、その点刃物さえ注意しておけばスケルトンは脆い。
「……ここだけの話し、おらぁホラーってのが苦手でよ、どう考えてもおかしいだろ? 骨が勝手に動くんだぞ?」
「それはまぁそうですね」
そっちかぁ……確かに改めて考えてみるとなんで骨が動くのか理解出来ないよな。色々考察系動画主達が検証動画を出しているけど、未だ動く原理は不明なスケルトン、ホラーが苦手なら普通に怖いだろう。
俺も、夜に突然あの骨が現れたら悲鳴を洩らさない自信は、あまりない。
「いやよ、情けねぇとは思うからホラーにも慣れようとは思ってんだがな、ホラー映画見たら余計にな……」
たまに居るよねそう言うホラー耐性付けようとして空回りする人、余計に怖くなって終わると言う。
その点うちの一家は何の問題もない。両親ならいつの時代のどんな骨か調べ始めそうだし、姉はホラー耐性高すぎるし無表情だから、それを見た周囲がビビる。むしろうちの家で一番怖がりは俺だと思うけど、あの家に居たら自然とホラー耐性は身についてしまうのだ。
それでも家にはあまり居たくない。調度品の数々が怖すぎるのだ。勝手に物が動いてるとかは普通なのである。
「あー……それじゃ異界の動画を見ては? 実際に倒せると分かっていれば怖くなくなるんじゃないです?」
それに比べたら異界のスケルトンは可愛い方だ。殴れば倒せる。
「……確かに、殴って倒せると思えばスケルトンも」
「最近はそう言う動画増えてるらしいですよ、私も友人に頼まれて動画撮ったりしてるんですよ」
まだ骨動画しか出てないけど、そこそこ人気があるそうだ。最近確認してないからわからないけどね。コメントとか見るには気合が必要だけど、まだその気合は貯まっていない。
「へぇ、それじゃ兄ちゃんの動画見てみるか、スケルトンとも戦ってたりするのか?」
「むしろスケルトンの動画を上げられたところですね」
でも動画を見てくれる人が増えるのはうれしい。褒めてくれたらなおのこと嬉しいので、営業? はしておいて損しないだろう。一人でもファンが増えてくれたら収入が増えるのだ。顔も出しているから身バレとか今更である。
「丁度いいじゃねぇか! 教えてくれよ」
「ええ」
このあとめっちゃ褒められてコーヒー牛乳を奢って貰えた。大興奮マッチョアニキの勢いには流石のババア共も近寄れない様子だった。あと気のせいか他にも視線を感じた気がしたけど、うんまぁ気のせいだろう。
いかがでしたでしょうか?
マッチョアニキの好感度が上がった! 羅糸に向けられる周りの視線の圧が上がった! 羅糸は首を傾げた。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




