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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第93話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「んあー……肩が痛い」


 左肩だけ凝って痛い。この痛みの原因は姉ちゃんである。


「一晩中抱き着いてるとは思わなかった」


 本当なら異界のマイホームに帰るつもりでいたけど、姉ちゃんがごねて結局泊まる事になった。


 久しぶりに入った自分の部屋は綺麗に片付いていて、ベッドの布団もふかふかだった。どうやら俺がいない間ちょこちょこ姉ちゃんが帰って来て掃除していたそうだ。それだけならよかったのだが、姉ちゃんが一緒に寝ると言い出したのが運の尽き。


 最初は寝るまでとか言う話だったのに、腕に絡みついた姉ちゃんは先に寝てしまい。そっと離れてソファで寝ようかと思ったけど、完全に絡めとられた腕から姉ちゃんの体を引き離すことは不可能になっていた。


 そう全ては我が姉の計画通り、そもそもいくら恩恵があるとは言っても俺の力は手だけであって腕はただの人、技とほんの少しの力だけで人の腕を圧し折れる姉に決められた腕を救出する事など、凡人には不可能なのである。


 怪我もさせられないし。


「姉ちゃんの話はほとんど聞けなかったな」


 役得と言えば役得だが、秘密主義の姉ちゃんからは何をしているかなんてほとんど聞くことが出来ず、ただ姉ちゃんに振り回されただけ。その辺は父さんと母さんの血をしっかり受け継いでいると思う。


 ただ、仕事については少し聞けた。


「まさか外務省職員だったとは思わなかったけど」


 秘密主義の姉ちゃんから聞けたと言う事は、もう話しても構わない情報と言う事だ。


 外務省の職員として海外で働いていた姉ちゃんは、異変の日に起きた不思議現象で強制帰国したらしく、そのあと色々あって外務省を退職して今はまったく新しい仕事に就いているそうだ。


「転職先までは教えてくれなかったんだよなぁ」


 その先はやはり秘密主義の姉ちゃんらしく、就職先がどんな仕事なのかは説明してくれなかったし、退職する事になった理由とか、どういう風な事があったかは全く話してくれなかった。


「秘密主義極まれり」


 昔っからそんな感じだ。元々そんなに自分から話すタイプじゃないし、口数も少ないので今回の事は珍しく話したくらいである。俺のことは全部話せと言う割にこれなのだからうちの姉ちゃんはずいぶんと我儘だと思った。


 ただ、海外生活中のどうでもいい話は寝ながら随分と語ってくれた。あそこで食べたあれが美味しかったや、あそこで食べたあれは人類が食べる必要の無い物だとか、こんな人が居たあんな人が居たとか、色々話してそのうち寝入ってしまった姉はずいぶん楽しそうな寝顔だったことを覚えている。


「今日はどうしよう」


 寡黙であまり感情を表に出さない姉だが、今回の事は精神的に辛かったのだろう。なのでこの肩の痛みも甘んじて受けることにしたのだ。決して朝になっても解けてなくて諦めたわけではない。


「軽めにバッタでも狩るか」


 もっと強くなろう。せめて姉が関節を決めた腕を丁寧に解けるくらいに……とりあえず栄養を付けよう。





「ガソリン屋でーす」


 肩の痛みが治った。完治まで三日もかかったので良い子の皆は、寝ていても小まめに体は動かそう。寝がえりとかマジ重要、羅糸学んだ。


「おう! ちょっとまってろ」


「はいはい」


 もう何度となく繰り返したやり取りである。いつもと変わらず奥から店長の声が聞こえると店員さんがすっ飛んできた。実にいつも通りである。


「今日も満載っすね!」


「往復が面倒になるくらいには狩れてるよ」


 最近では往復纏めて支払いになっているので、自転車のカーゴから下ろすだけ。下ろしてもらったらまた異界のマイホームへとんぼ返りするので、店長が奥から出てこないこともあるが、今日は直ぐに出てきた。


「そらいいこった! ほれ飲んでけ」


「おっと? お茶か」


 出て来るなりペットボトルのお茶を投げてくる店長だけど、ずいぶん質素なデザインのお茶である。色から見て緑茶であることは分かるが、どういう風の吹き回しだろうか。


「Eマーケット産のノーマル品だけどな」


「ノーマルか、当たりとか引いたこと無いからよくわからん。あ、量が多いやつなら出るけど」


 量が多いのが当たりかどうかわからないけど、シンプルな製品のことをEガチャ界隈ではノーマル、少し豪華な見た目をレア、名前付きの商品なんかはSSレアなどと呼んで楽しんでいるらしい。


「あーたまに出るっすね!」


 店員さんも大容量な飲み物を出したことがあるらしく苦笑い顔である。実際求めてないときに大量の飲み物を渡されても嬉しさより驚きと言うか、どこかの餌出され過ぎ猫のような心境だ。


「いいじゃねぇか、俺なんて茶が売り出し始めたの昨日だぞ」


「そうなんだ」


「なんか売ってる物が個人個人色々違うらしいっすよ? 俺はお茶最初からありました」


 どういう理屈で売っている物が違うのか、理由は不明だがそう言う話はちらほら聞くし、商品が増える話も聞く。会社で諸々の処理に追われている時に大輔と話したがお互い商品のラインナップはそんなに変わらなかったと思う。


 詳しく調べてみたわけではないけど、お互いに話す内容の品はあったので、違うのはレアが出る確率くらいなんじゃないだろうか、圧倒的に大輔の方がレアを出してから間違いない。


 いや、試行回数の差もあるから……どのみちよくわからないEマーケットの機能だ。


「俺は水とお茶とお握りしかないな」


「なに!? 俺はパンだけだたんだぞ! やっと茶が出るようになったっつぅのに……」


 店長のEマーケットラインナップはパンだけなのか、増えただけ良いとも言えるし、生きるために必要な水がないと言うのは恩恵としてどうなのだろうか? パンが食べれても、喉も身体も乾いて死にそうだ。


「パンはないな」


「無いっすか?」


「うん、あと何かが増えた事もないかな」


 口ぶりから店員さんのEマーケットにはパンがある様だ。勤め先で変わるのだろうか? それはそれで変な感じがするし、ランダムの可能性が高いのかも。


「一説じゃ有用な物をリサイクルタワーに捧げると良いとか聞くぞ? 俺も色々あそこに入れてやっとだ」


「ここで買い取って売れなかったやつ入れてるっすよ、ゴミ箱扱いっす」


「有用か……」


 そんな法則があると言うのは都市伝説レベルでなら聞いたことがあるけど、実践してお茶が増えたのなら事実なのだろう。俺も色々リサイクルタワーには突っ込んでるけど、有用なものかと言えば何とも言えない。


 大体が生活ゴミか粗大ごみ一歩手前な物とかだし、排泄物や猫砂はとても有用とは言えないだろう。と言うかこの物資不足の世の中で有用な物なんて捨てるのだろうか。


「あと売って欲しいものをいっぱい入れても良いとか聞くっす! コンビニ店員の知り合いが売れない物入れたら増えたらしいっす」


「なんと!」


 それだとうまく行けば魚の缶詰めがEマーケットで購入可能になる可能性もあると言う事じゃないか! ……でも入れたのは大半食った後のゴミ、いくら高額Eマネーが手に入るとは言え普通においしい缶詰めを大量に投入するのは憚れると言うもの。


 ……憚れるが、試したいと思ってしまう俺もいるんだけど、これは課金の時の感覚に少し似ている。


「ただ、増えたのが不良在庫の激辛商品だった所為か、激辛食品が増えたらしくて……そいつガチの甘党で辛いのは一切食べないんすよ」


 それは、普通に可愛そうだな。と言うか、この品不足のご時世でも売れない激辛商品とか少し気になる。災害時も辛い食べ物は残るからな、あれと同じ理論だのだろう。辛い物が得意な人でも水を大量消費する食べ物なんて、今の状況で好まれるわけも無いか。水道料金も値上げし続けているらしいし。


 それにしても、そうなると好きな物が欲しいなら、その好きな物を大量投入しないといけないな。


「ふつう自分が欲しいもの捨てるわけないからなぁ……」


「なるほどねぇ」


 店長の言うとおりである。あとで買えるようになるとは言え、あまりに不確定要素が多い状況で出来る冒険じゃない。


「欲しい物や好きな物を捨てる酔狂しか買えないってのは嫌らしいシステムだぜ」


「でも店長は何で?」


 お茶とか水もほいほいと大量投入できるほど安くはないだろうに、もしかして水道の水でも大量投入したのだろうか? いやそれならやっとなんて言わないか? 水道水を汲んでは入れを繰り返すのも、それはそれで大変そうではあるけどね。


「それが、非常用の水とかお茶とか、賞味期限が切れたやつ間違って買い取ったっすよ。あれ捨てたのが一番大きいんじゃないかって」


「ああ」


「一緒の不覚だぜ……」


 賞味期限切れか、もしかしたら投入する製品の質も関係しているのだろうか? あの手の飲料水の賞味期限とかちょっと切れたくらいなら問題なく飲めるし、飲めるなら普通に有用な品と言う判定でもおかしくはない。


 店長が複雑な表情でお茶を飲んでいる。普通に緑茶だけど、心なしか薄い気もするペットボトルのお茶、ノーマルならこんなものだろう。でも俺が買えるお茶とはまた風味が違う気もする。


「まぁそれでお茶買えるようになったなら良いじゃん」


「まぁな?」


 慰めても尚、店長は複雑な表情だ。


「でも嬉しいからってずっとガチャしてるっす」


「うっせ!」


「なるほど……」


 だからお茶と言う事か、ハズレ消費に使ってくれるとは良い度胸じゃないか、俺が本当のお茶と言う物を見せてやる。


 尚、俺が出してあげたお茶は好評だった。やっぱり味が違うらしい。上げて落とすと言うのか、俺が出した1.5リットルのお茶の味に店長は肩を落としていた。



 いかがでしたでしょうか?


 大輔は高品質傾向、羅糸は増量傾向の様ですね。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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