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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第90話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「よし! 片付いた」


 予定は未定! おっさん出汁を飲んで吐いたらもう何もする気力がわかなかったので昨日は何もしていない。そして今日は朝から頑張ってガソリン狩り、午後は往復運搬であっという間に17時、帰って来てから休憩しながらお片付け、充実した一日なんだけどなんだかやるせない気持ちになるのは、たぶん昨日のおっさん汁を思い出すからだろう。


 早く忘れよう。狸が躍りながらおっさん汁飲んだと楽しそうに笑っている悪夢を見るくらいにはトラウマになったようだ。狸許せない。


 まぁそれはそれとして、すごく素晴らしい発見が出来た。


「まさかダイナマイトの保存にコミック用の袋が役に立つとは思わなかった」


 ガソリンを売ったお金で百均豪遊だと意気込んだら運命的に出会ったのだ。サンプルを手に取った瞬間天啓が下りたのを感じたのだが、漫画本を入れる袋がダイナマイトの保存に丁度良く程よい袋の固さで持ち運びも大変楽になった。


 ダイナマイトの表面は結構つるつるしているのでそのまま持ち運ぶと落とすことが多く、正直心臓に悪いのだ。しかしこのコミックケース、導火線を伸ばしておけるスペースが丁度出来るサイズでダイナマイトは入れると中で動くことも無い。このために誂えられた様なサイズ感、最高である。


「こうしてみると、とんでもない量だな」


 ただ、買って来た十枚の袋いっぱいに入れてもまだ山済みのダイナマイト、どんだけ狩っていたのか、そして複数ドロップが連続していたのか、考えるだけで恐ろしい。灯油なんてほぼ出ないのに、何故こうも偏るのか……。


 でもこの袋、


「このまま導火線を連結して使えばとんでもない爆発力になりそうで怖いな」


 ぴったり入れて28本入るんだけど、12本でビッグスライムオーバーキルなんだから、下手したら地下道が崩落するんじゃないだろうか? オラまだ死にたくない。しっかり梱包して火から遠ざけとかないと、いくらドロップライターでしか火が点かないと言っても、心が休まらない。


「それじゃ次はスライム用のダイナマイト作りだな」


 ビニールテープも買って来たので6束と7束と8束を作ってみる。12束なら確実なんだけど、もう病院はこりごりだ。また艶々笑顔のマッドドクター黒井を見なければならなくなる。


「あっとその前に黒スライムキューブの実験も一緒にしちゃおう」


 もっと大事なのがこっち、ダイナマイトより小型で高威力、これも束ねれば威力が上がるかもしれないし、スライムに複数食べさせればこれでも普通に倒せるかもしれない。扱いも面倒だし、なるべくダイナマイトは使いたくないのだ。でもそれはそれで処理に問題が出そうなので、最終的にはリサイクルタワーに深夜こっそりと捨てる必要がある。


 その場合俺は爆発物の違法所持で犯罪者の仲間入りである。ガソリンだってちょっと問題ありなのに、真っ黒にはなりとうない。


「本当にこれが原因なのか、あとどのくらいの時間で出来るのか」


 祭壇が完成した。


 貰って来た無料の段ボールを3個組み立て、それぞれに黒キューブ、水ペットボトル、アルミの割れキューブ、銅の割れキューブのセットを接触させて置く。


 さらにアルミ割れキューブだけと、銅の割れキューブだけのセットも出来るか試すために段ボールを組み立てているところだ。


「小型高威力の爆弾とか今後使い道はあるだろうからな」


 小型と言うのはそれだけで意味がある。それにダイナマイトより威力があんだから、異界から持ち出さない限り俺にとって有用な武器だ。問題は他の異界に持って行けない事と、もしも異界内での爆発物禁止なんていうピンポイントな法律でも出来た時にただのゴミになってしまう事だろう。


 そうなってからは遅いし、今のうちに色々試そうと思っている。お、テルミットは酸化鉄とアルミニウムの酸化還元反応……てことは鉄でも出来るのか、試してみよう。


「やばいな、いろいろ出来そうでワクワクしてきた」


 あ、でもそうなるとアルミニウムが重要になるのか、銅だけとアルミだけは意味無いな。





「さて、スライム狩りと行こうか」


 準備は万端、いつもならなるべくカーゴを空にして乗ってくる自転車には6束から8束のダイナマイトがいくつも載せられている。これでだめならもう少し本数を増やすつもりだ。


「爆発物の貯蔵は十分だ」


 最悪複数食べさせることになるんだろうけど、その場合は全力で逃げないと駄目だろう。前回のスライム戦でも結構な距離をとってあれだったのだ。最悪伏せるとか考えずに走り続ける必要がある。


 今回は自転車も一緒だから、自転車に乗って逃げた方がいいかもしれない。


 自転車を押す手が湿った気がしたので作業着の胸部分で拭うと、ポケットの中で硬い物がぶつかり合ってカタカタと音を鳴らす。胸ポケットに入れたけどちょっと邪魔である。


「まさか本当に出来るとは思わなかった。しかも1時間くらいで」


 左の胸ポケットに入れているのライターと昨日の実験で本当に出来たテルミット爆弾。半信半疑で試した結果なのだが、それは何とも奇妙な光景だった。


「これから黒スライムのキューブで何ができるか色々組み合わせて行こう」


 最初に起きた現象は黒いスライムキューブの溶解、弾力があって握っても中々型崩れしない不思議なスライムキューブがドロドロと溶け出し、まるで生きているかのように動いてペットボトルと割れメタルを覆い尽くしたのだ。


 例えるなら映像の速度を上げた粘菌、ゲームで言うならドロドロタイプのスライムが餌を捕食する様に完全に包み込む姿だろう。そうして飲み込まれた物は黒くて何も見えないドロドロの中で形をじわじわと変えて行き、最後には黒い塵となって中からテルミット爆弾が1個現れたのだ。


「なんでテルミット爆弾になるかは分からないけど、材料が分かればとりあえずそれでいいや」


 とてもとても不思議な現象だが、一時間ほど放置したらその現象が起きて、用意した全て材料で同じ結果となった。結果が毎回違えば変化の法則と原因を探さないといけないところだが、用意するドロップが一緒なら何の問題も無いので気にしないことにした。


 ただ、使えるのはEマーケットの物とドロップだけ、外のお店で購入した商品には何の反応も示さなかった。異変以降の変化なのだろうから、その辺については多少納得は出来るが、あまりにファンタジーすぎて考える事を止めた。とも言える。


「さぁスライムはどこだ。あれだけデカければ見つけるのもそんなに難しくはないと思うんだけど……」


 ちょっと楽しくなって色々試していたので寝る時間が遅くなったから、今日は1匹狩ったら帰る予定なんだけど、クレーターから先に入っても中々スライムが見当たらない。


 あれだけデカいので気を付けていれば見落とすと言う事はないと思うんだけど、居ない。


「うーん? 居ない……ん? 何か動いたような」


 薄暗い闇の奥で一瞬何かが動いたような気がする。最近はこの薄暗さにもすっかり慣れて来たようで、逆に外の明るさが酷く眩しくもあった。実際季節はまだ夏なので、ただの気のせいで眩しいのは当然なのかもしれない。


「ちょっと怖いけど、ライトを点けるか」


 黒スライムは接近して来た物を問答無用で攻撃するだけだが、光によっても行動が変わるので、安全の為にも本当はライトなんて使いたくない。でもいくら目が慣れて来たとは言っても、地下道の薄暗さは黒いスライムを見つけるにはあまりに環境が悪いので背に腹は替えられない。


 片付けの時に捨てようかとも思ったけど、割と高かった充電式のライトのスイッチを押すと、前方斜め上を照らす。照らしたがなにも居ない様だ。波紋が無ければほとんど光を反射しないので念の為に地面も照らしてみる。地面との境界線がくっきりした闇があればたぶんスライムだろう。


 ん? 今ちょっとおかしい所があったな。


「あれは、黒スライム?」


 地面の上に闇が落ちていた。その闇を光で照らすと闇が波打つ。やはり黒スライムは光に反応するようだけど、これはどういう事だろう。俺が知ってる黒スライムじゃない。


「え? 小さくない? いや大きいけど小さくない?」


 小さいのだ。俺が最初に出会ったスライムより圧倒的に小さい。でも大きい、普通のスライムと比べたら何倍も違う。子供なら2,3人丸呑みに出来る大きさだし、俺だって丸呑みにできる様なサイズだ。


 でも俺の知っている黒スライムとはサイズが明らかに違う。


 別種? いや、そうじゃない。


「……もしかしてあのスライムってレア固体?」


 俺が最初に遭遇した黒スライムがレア固体と言われる奴だったんだ。今日も装備している革帯をくれた強化骨と一緒で普通じゃないんだ。


 そうとしか思えない、確証はまだないけど、どう考えてもこのサイズ感はそうだろう。


「嘘だろ、どんだけ運が悪い……地震?」


 そう言えば地震が、骨の時は結構大きな地震、スライムの前には小さめの地震、どっちも地震があって、突然現れて、こっちも確証はない。無いけど条件が揃いすぎだ。もしそうならあまりに運が悪い。やはりお祓いは必要かもしれない。


「お祓いかぁ」


 でもあれだな、もしこれが憑き物とかそう言うものなら、外の神社や寺じゃなくって、異界の中の神社とかに行かないといけないんじゃないだろうか? 温泉があるんだから、神社があってもいい気がして来た。


「動いてる」


 自分の運の悪さに嘆いているうちにスライムとの距離が縮んでいる。俺は立ち止まったままなのだから、これはスライムが動いているのだろう。速くはない、だが動くのだ、馬鹿みたいに悩んでる暇はない。


「こっちに近付いてきたな」


 光で照らしているからか、それとも何か別の要素か真っ直ぐこちらに近ずく黒スライムの体は忙しなく波紋が行き来している。とてもじゃないが友好的には見えない。


 急いで後退して自転車をホール側に向けて停めると足元の石を拾い上げる。腰に付けていたチョークバッグは革帯と相性が悪いので使わない事にしたので石の供給は足元からである。


「攻撃方法は薙ぎ払い? いや、食べるの方かも……そい!」


 右手で投げた大きめの石は勢いよく回転しながら真っ直ぐスライムへ。最近は石投げの精度も上がって来て外れることはない。何より普通のスライムより大きいのだから外しようがないのだけど、当たらなかった。


「食べる方だな、それは拙い」


 もう少しで当たると思った瞬間スライムは膨れ上がって石を食べてしまったからだ。これは拙い、薙ぎ払われたら逃げることもできるけど、食い付かれたらたぶん逃げるのは難しい。


 もう一度投げる。地面で跳ねて足下に飛んできた石も食べた。攻撃方法は最悪の一択だけの様だ。もしかしたら薙ぎ払いをするには質量が足りないのか、いやそんなことは良いからもう少し後退しよう。


 スライムは遅い、なので早歩きくらいの速さでも十分逃げられる。


「いかんな、このダイナマイトじゃ威力が高すぎる」


 問題はダイナマイト、あのサイズに6本も使えば前回の二の舞、となると持って来ていてよかった秘蔵の爆弾。テルミットの出番の様だ。こいつは2.5ダイナマイトくらいの威力だからダイナマイトを今からバラして1本にするより早い。


「念のために持って来ていてよかった」


 胸ポケットから取り出した直方体の頭のシールを破る。


「食べなかったら退却だな」


 好き嫌いは出来ればしてほしくないところだ。


 カバーを開いて、そのカバーの内側にある窪みに爪先を引っ掛けながら摘まんで引っ張る。小さくしかし小気味よい何かが割れる音が聞こえた。


 爆発まで少し間があるので数秒待つ、落ち着いて振りかぶる。


「それ飯だ!」


 多分起動したであろうテルミット爆弾を投げると、緩い放物線を描いてスライムに落ちて行く。大きさも重さも投げるのに丁度いい。まるでユニバーサルデザインを意識した様な爆弾だ。


 食った。


「おお! やった――――――!?」


 閃光、爆音、衝撃、準備不足による失態。耳が痛くて目がちかちかする。見えなくなったわけじゃないけど、光の残像で少し視界不良を起こしてしまった。


「……おぉ」


 しかめ面で前を見ればあちこちから黒い塵、どうやらスライムは弾け飛んだようだ。と言う事はテルミット爆弾1個はオーバーキルだったと言う事だろう。確実に狩るならこっちの方がいいだろうけど、これを続けたら視力と聴力に問題が出るかもしれない。


「威力高すぎたか、次はダイナマイト2本で試そう」


 一本でもいいかもしれないけど、それで倒せないとスライムがどんな行動に出るか予想できないので二本。ゲームだとHPの減った敵は動きが変化するものだ。人間だって予想以上にフルボッコにされた逃げるか暴れるかするもんだ。


 会社の近所に居た酔っ払いは、迷惑だと咎められたらフラフラ動きから大暴れになっていたので、どんな時も注意が必要である。その所為でうちの会社は正面の自動ドアを割られた。酔っ払いのおっさんであれだ、化物ならもっと危ないだろう。


 地面に置いていたライトの先に何かが見える。なんだろうと思ってライトを拾い上げた先には地獄があった。


「……多くない?」


 犇めく様に向かってくる黒スライムの大群。あれはちょっと無理である。


 光による誘因は確認できたので計画通りと心の中で言い訳しながら自転車に向かう。


 その前に爆散したスライムのドロップを拾う。もうすぐそこまでスライムが来ているので地面を強く蹴って逃げる。後ろで不穏な風切り音、手の中の弾力を感じる暇もの無くカーゴにドロップを放り投げると自転車に飛び乗りスイッチ全開で勢いよくペダルを漕いだ。


 テルミット爆弾はさっきのでネタ切れだ。十匹ぐらいの横隊で迫ってくるデカスライムなんて相手してられるか! 予定通り、そうこれは予定通りであって撤退ではないのだ。



 いかがでしたでしょうか?


 巨大スライムはレア、でも普通の黒スライムも大きいし、動くし、集まってくる。どの道危険な相手の様ですね。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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