第9話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「と言うわけで、これが調べるものリスト」
高橋さんを見送りそのまま販売部に戻れば、そこには大輔が机に突っ伏しながらスマホを弄っている。人が居ないときは大体こんな感じだ。
「まかせた!」
「おい」
いっぺん死んでみたほうが良いのではないだろうかこの男?
「俺に探せとか無理だろ、ほら電話対応はやっとくからさ? 適材適所だよ、な?」
頭の上に載せた必要書類のリスト、その文字を斜め読みしただけでこれであるが、大輔の言い分も一理ある。普段から必要書類を纏めるのにも一苦労の大輔だ、良く使う書類ですら間違うのに始めて見る書類なんて探し始めたら一種類探すのに何日かかるやら、割とマジで昔倉庫に籠ってたのだ。
あの時は何故か俺まで怒られたのだが……。
「くっ……! なんも言い返せない」
「それはそれで悲しい……だいたい社員リストとかうちの部署にないだろ、人事部とか総務部にならありそうだけど」
「そっち探すしかないな」
社員リストか、総務か人事部になるのかな? まぁ全員の社員リストなら人事部にあるだろ、異動が起きるとあそこから書類が来るわけだし、他に人事部で探せそうな書類はあるかな。
「顧客リストとか取引先に関してはまぁ、ここにもありそうだけど」
顧客リストに関しては部長の棚に全部あるはずだ。廃棄魔の部長でもめんどくさがって触りもしない棚だから無くなってることは無いだろう。基本的に部長が触る書類はキックバックを多く貰える取引相手くらいで、それ以外に興味はない。本当に微塵も無い所がなんとも質が悪いが、今回に関しては良かった。
「とりあえずこっちにありそうなのよろしく」
「そのくらいは、やるか……」
俺が指差すのは乱雑に書類が入れられた書棚、あとは各自の担当書類を見比べれば大輔でも何とかなるだろう。
ほんと、去年から急に断捨離に嵌ったとかで何でも捨てるようになった部長は質が悪すぎる。そのくせパソコンにデータを残すだけじゃ意味がないと何でも紙にして保存しろと言うのだから余計にわけがわからない。
「それで? 今後について何とかしてもらえるように相談出来たか?」
「協議するってさ、こんなにひどいことになってる会社は初めてだって」
協議には時間が必要だと言う事で今日は帰って行った高橋さん、その時の困ったような顔を思い出す。あれは完全に面倒事を前に覚悟を決めた社畜の顔である。本当に申し訳ないが、俺達に頼れるのはもう貴女しかいないんです高橋さん、超がんばって。
「マジか、まぁそうだよな? 社員9割行方不明とかどういう状況だって話だ」
「ほんと、最悪を体感してるよな……」
たぶん大体9割くらいであろう社員が消えてしまった上に残った社員も辞めて行くなんて、誰がそんな最悪の事態を考えるであろうか、たとえ考えたとしても現実に起きるなんてありえない。そんなありえない状況を体感しているんだから何か幸運なことが起きてほしい所だ。
「まぁまだ生きてるから何とかなるって」
「これで死んだら誰を恨むべきか」
だがある意味生きてるだけ儲けもんなのかもしれない。突然神隠しによって居なくなった人たち以外にも、異常が発生してから妙な死に方をしている人が多い。特に田舎ではおかしな野生動物による死傷事故が増えていると聞くし、前向きに恨み節で頑張る事にしよう。
「恨む相手が多過ぎて迷うな」
「大輔もリスト入れとくわ」
「こわ!?」
少なくとも現状で、いや今まで俺の仕事が増えて来た理由は大輔の怠慢である。何だったらリスト入りした後に順位を一番に上げてやってもいいくらいだが、今この場に残っている事が免罪符と言う事で許してやろうと思う。
「なら仕事してくれ」
とりあえず逃げたら一気にトップにランクインは確定なので頑張って働いてもらいたい。大丈夫ちょっと大量の書類を見比べてまとめるだけだから、何だったら必要な書類を抜き取ってファイリングしてくれるだけでも大丈夫だ。
できるよな?
「了解であります! まずは、元気をつけるためにコーヒー買ってくる!」
「カフェイン中毒になってしまえ」
「ひどい!?」
俺の視線に気が付き振り返った瞬間震える大輔、こいつ珈琲よく飲むけどカフェイン中毒なのではなかろうか? 酷いと言うが、口臭について女性社員から不満が出ていた事、俺は知っているのだ。
良い人だけど口臭がねーとか、あの口の臭いはキツイよねーとか、大輔君と食前に話すと食欲がなくなるからダイエットに良いとか、いつもは人当たりの良い女性社員達が話しているのを聞いて、俺は彼女を作ると言う気が無くなった。良いのか悪いのか分からないけど、人って怖いと学んだのは有益だったのかもしれない。
「とりあえずこれで社員リストは問題ないかなぁ?」
人事部での書類捜索を終えて現在は総務部、なぜか社員リストが二種類あると人事部の資料で知った俺はジャングルの奥地へ、じゃなかった総務部の書類棚を漁っていた。無事社員リストは揃ったが中身を詳しく見てるわけでは無いので二種類ある理由は不明である。
「他にも色々出て来たけど、とりあえず全部持って行くか」
書類棚を漁っているうちに他にも必要な書類が出て来たので、総務部の無駄に豪華な応接セットの上に広げて分類しているのだが、応接テーブルが馬鹿みたいに大きいのでまだまだ書類が乗りそうだ。
「最新のデータだけで良いからこの辺、この辺と」
後は総務部長の机から最近の取引についての帳簿やらなんやら、販売部にも来てない新しい取引先リスト、協力会社関係についてはこっちに全く資料無いからな。それにしてもこんな資料を机の上に出していていいのか? 金銭のやり取りに関する書類とか普通は鍵付き引き出しの中だろうに。
「ん? これは報告書か、極秘……極秘と書かれると気になるな」
極秘、極秘かぁ……見ない方が良いんだろうけど出してあったら気になるよな。しかしこれは、もしかして仕事中にふらりと居なくなったのかな総務部長、流石にこれだけ書類を出したまま帰らないと思うんだ。ぺらりぺらりと……。
「ふーん? ……はぁん? これは」
価格改定に関する資料か、そう言えば先々月にいくつかの商品で価格改定があったな、円安によるものだと言っていたが、今はさらに円が安くなっていると聞いていたしまた変わるのか、価格改定前後の資料を作っている途中だったようだ。
「ちょっと調べてみようかな?」
よく見ると付箋紙に【資料請求済みメール確認忘れるな】と書いてある。ちょっと改定価格が気になるし、ついでに価格改定資料が極秘になっているのも気になる。なんせいつも価格改定の資料はクリアファイルに入れる事も無く俺の机にクリップ止めで置いてあるのだ。こんな極秘と書いてある紙製のペーパーファスナーなんか使ってるところ見たことも無い。
「パスか……」
総務部長のパソコンは起動したままだが、流石にパスワードが必要なようだ。だけど相手は総務部長、あの爺が真面にパスワードを覚えているとは思えない。少なくともどこかに控えてるはず、何せ社員の名前も覚えてないんだから……下っ端に興味がないだけかもしれないけどな。
「鍵付き引き出しが開いてるな」
鍵付き引き出しが開いてるって事は、やっぱり仕事中に行方不明になった可能性がある。まぁ今はそんなことどうでも良いとして、パスワードを何に書いて置いてるかな?
「んーあると思うんだけど、お? これだなたぶん。使い込んだ形跡が」
パスワードを忘れたら使っているはずだし、他のパスワードもまとめて管理している……大当たりだ。
「あった、PCのパス」
鍵付き引き出しの奥から出て来た手のひらサイズの手帳、見た目から高そうな革張りの手帳の紙は薄く丈夫で、数ページ捲るとパソコンのパスワードが出てくる。何度か書き直されているが問題はないだろう。
「開いた。次にメールからそれっぽいのを……」
いくつかパスワードが書いてあったが一個目で問題なく開いたのでそのままメールを探す。メールソフトを開けばあの異変が起きた日付以降はメールが届いていないようだ。
「……何故ファイルを添付して文書にパスワード入れるのか、せめて別々にしようぜ」
メールを遡れば毎日大量のメールが届いている。この会社ではよくある話なのだが、パスワード付きのファイルを開くためのパスワードを同じメールの本文に書いて送るのだ。これではパスワードの意味がないだろうと販売部の部長と課長に言ったのだが、総務部長も同じことをしているなら改善されるわけがない。これなら社長も同じなのかもしれないな。
「ふむふむ……ほーん?」
極秘のファイルに入っていたものと同じ様式のデータはいくつかのメールで分けて送られている。似たようなものもあるがどうも作っている人間が違うのか、小さな差がちょこちょこ見つけられる。とりあえず見辛いので印刷してしまおう。
どうせ必要になりそうな気がするし構わないだろう、問題があるならこんなおっぴろげて居なくならなければいいだけだ。そう言う事にしておこう。
「これが正規の価格か……」
やっぱり俺の知っているデータと違うようだ。パッと見ただけでも仕入れ値が随分と安くなっているし、物によっては価格改定で値上がりしたと言われていたけど、これ変わってないんじゃないだろうか?
「これだけじゃまだ分からないな」
いくつかチェックが入ってるし、俺が貰った価格改定表と見比べないと正確なところは分からないけど、これは臭いぞ? ものすごい異臭がしてきたからもっと調べて消臭しないといけないと思いました。
「社長室か、経営戦略室か……」
もっと面白いものが見れるとするならこの二つ、社長室はほとんど入った事が無いが経営戦略室には何度か書類を持って行ったことがある。妙に高性能なパソコンが置いてあったり、机なんかも高級品しか置いてない経営戦略室は、この会社で社長と同じような権限があるらしい、
「叩けば埃だらけだな……」
辞めていった人があそこには楯突くなと言い残していったことがある。総務部の中でもこれだけ色々出てくるんだから、経営戦略室と社長室を探せばもっと面白い埃が出てきそうだ。どうせ仕事は続けられないし、好き勝手やらせてもらおうかな? 別に鬱憤を晴らす目的ではないと言い訳をしておこう。
「ん? おつかれー」
「おつかれ」
販売部の部屋に戻れば珍しい光景、普段はお菓子や良く分からないもので埋まっている大輔の机が書類で埋まっている。年に一回くらいの珍しい光景だが、果たしてお願いした仕事は終わったのだろうか?
「どうだ見つかったか?」
「そっちは?」
俺より先に作業の進捗確認をしてくる大輔だが、俺が押してきた台車の上を見ると全てを理解した様に頷く。それくらい大量の書類が載せられているのだが、一部は余計な資料である。
「良く分からんからそれっぽい書類は全部出した」
「……まぁいいんじゃない?」
大輔の机の上にある書類のラベルをパッと見る限り大体は揃ってそうだがこっちも余計な資料が混ざってそうだ。まぁその辺は突然の事と言う事で諦めてもらおう。たぶん資料の量からして高橋さんが一人でどうこうするんじゃなくて人を増やすか持ち帰るのだろうし、どうせ人が居なくて使いようがない資料だからコピーじゃなくてもいいと思う。
「ん? 元気ないな?」
「色々見つけちゃってさ」
「色々?」
大輔は仕事は出来ないが何かと目敏く、良く人を見ている節がある。その所為か俺の疲れにも気が付いたらしく、なら大輔にも色々共有してしまった方が早い。
「何かね? こっちが聞いてる品物の値段と違う書類があってさ」
「……おま、これ見ちゃいけないやつじゃ?」
不思議そうに首を傾げる大輔に投げ渡したのは総務部長の机に置いてあった極秘資料だ。ついでに経営戦略室に置いてあった別の極秘資料もまとめて投げ渡したが、驚きながら中身を見てもう一度驚いている。そっちは経営戦略室に置いてあったもっと詳しい内容の書類だろう。
「うちの貰った資料、これだこれ……見比べてみ?」
「…………いやいやいや」
もう一つ欲しかった資料を自分の机から拾い上げて渡すと、その内容の差に大輔は何度もその資料と俺を見比べ首を横に振り、再度資料を確認してまた俺へと確認する様に視線を向けてくる。そこに書いてあることはすべて事実である。仕入れ価格が元から聞かされていた金額と違う上に、何の価格改定もされていないのに価格改定がされたと、以前の価格に数割から倍以上のせられた金額を周知する様にと極秘資料に書かれている。
尚、極秘資料の金額に、さらに上乗せされたのが我々の受け取った価格改定表だ。どう考えても不正の香りしかしてこない。
「あと先月の販売部で出した経費の金額も合わないんだよね」
追加で社長室からも書類を拾ってきたので大輔の見る極秘書類の上に載せる。
「合わない?」
「前回俺がまとめたじゃん?」
「お、おう……」
「誰かが逃げたからね?」
「…………」
目線を逸らすぐらいなら逃げなければいいのに、大量にあるレシートを纏めるのは一苦労なのだ。まぁ正直適当でも特に問題は言われないので時系列と金額が合うかの計算をするくらいである。最悪抜けがあっても大輔の分なら気にしない、ついでのように渡される課長と部長の分は抜けがあると糞ほど怒られるのでそっちが面倒なだけだ。
「その値段が5割増しに修正されてるんだよ……へんだよねぇ?」
だが問題はそこじゃない。俺が神経使ってまとめた経費の金額が、社長にまでわたる段階で変わっているのだ。よく確認してみれば知らないすべての金額が何者かによって微増されている。一度総務を通るのでたぶんその時なんだろうけど、社長の机を見たらそこにさらに足す気でいたのか大量の領収書も一緒に置いてあった。
なんでそんな事をしているのか不明だが、思い出してみれば昔辞めた人が経費の不正利用だかで解雇になったはずだ。もしかしたらその下準備だったのかもしれないが、今じゃ調べようもない。
「やってんな……」
資料を確認し終えた大輔は真剣な表情で俺を見詰め呟く。どう考えても不正な行為をやっている。
「この退職届……知ってたんじゃない?」
「全員とは言わないが、知ってたんだろうな」
ほかにも色々水増しと言う言葉が良く似合う資料が出て来たが、バレたらアウトな物がいっぱいだ。俺の机に置いてある退職届の理由はこれなのかもしれない。知らなかったのは俺たちだけなのか、それとも単純に沈み行く泥船から逃げただけなのか、電話を掛けても一切繋がらないのだからこちらも調べようがない。
人生糞食らえである。
いかがでしたでしょうか?
書類を求めてとんでもないものを見つけてしまった彼らの明日はどっち。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー