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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第87話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「おかしい、彼がこんな早くから行動するはずがない」


 白を基調にした一室で男性は一人呟く。彼の前にはパソコンのモニターに映し出されたカルテ、そこには望月羅糸の名前が書かれている。


「以前は姉の死を経験した後にようやくだった」


 そして小さな声でぶつぶつと呟いているのは、彼の担当医の座を勝ち取った黒井という高身長ひょろがりマッドドクター。イケメンの部類に入るがやつれた顔色で台無しである。が、割と病院の女子に好評な彼は、一人呟き続けていた。


「それに彼はすでに死んでいた。記憶の継承はされない筈だ。生きていた私だって中途半端だと言うのに」


 じっとモニターに映し出される望月と言う名前を見詰めながら呟く言葉は、何の事について言っているのか理解できる内容ではない。


「分からない。解らないが、これは希望か」


 もし同僚の看護師が見たら、過労を疑い即座にベッドに拘束されるくらいには、今の彼は狂気に満ちた表情を浮かべていた。


「何もかもが違う。それは経験が役に立たないと言う事だ」


 大量の薬物をキメて箍が外れた様に極限まで口角を上げて笑う姿は、見る角度によっては凶器の殺人鬼役のオファーが来るくらいには決まっている。


「前世の記憶が全て残っていればこんな回りくどい事……いや、それならもっと早いうちから世界は終わっていたか」


 そんな恐ろしい笑顔もすぐに消え、真面目な表情で呟く彼は、どうやら羅糸が入院する前から彼の事を知っていた様で、何故彼に聞かれて嘘をついたか不明だが、浅からぬ因縁があるようで世界に悪態を洩らす。


「ただ戻ったと、平和になったのだと思っていたかったのだがな」


 目を瞑り目頭を押さえる黒井は、椅子の背凭れに背中を預け天井を静かに見上げる。


 その目には涙だが滲んでいた。


「今回のシステムの内容も判然としない中であまり大きく動いてほしくはないのだが、止められないだろうな」


 そしてそれまでとは違う優しい笑みを口元に浮かべると、困った様に笑いだす。


「羅糸さんは、そう言う人です」


 彼と羅糸の間に何があったのか、しかし彼の表情を見る限りそれほど仲に問題がある関係ではなさそうだ。


 いや、問題なら少しある。





「ぐぬぬぬ……30万超え」


 短期間で三度も治験薬治療を受けるなんて、どうして、どうしてこうなった。しかも俺の担当医になった黒井さんはお肌つやっつやで嬉しそうだし、なんだあの嬉しそうな顔は、やつれ顔が消えた所為で看護婦さん魅了されまくりじゃん。


 あ、看護師だっけ? まぁ看護婦さんって言っても大丈夫と言ってくれたけど。腹立つ。


「プラス入院費か……おまえ生き急ぎすぎだろ」


「そんなつもりは無いんだけど」


 そして目の前には大輔、偶然俺が搬送される時に居合わせたらしく、目が覚めたら大輔が居て思わず嫌そうな声を出してしまった。ちなみにその声を聞いた大輔は泣いた。


「あるだろ、こんな短期間で何度大怪我するつもりだ。怪我は完治したけど血が足りて無いから入院とか聞いたことねぇぞ」


「いやまぁそこは、治験の経過観察も必要らしいから。それに輸血の血も少なくなってるらしいよ」


 そう入院である。治験治療薬を使って尚、血が足りなくて上手く動けないので数日入院だそうだ。


 一応治験治療薬は血も少しは補ってくれるらしいけど、あまりに減り過ぎるとすぐには回復しないらしく、今回は輸血も出来ないとかで入院費までかかってしまう。最悪今回の借金で額が40万に片足かけてしまいかねない。


 早く稼がなくては、踏み倒すつもりは無いのだ。


「らしいな、ヲタクの聖祭献血を批判してたやつらはだんまりだぜ」


「楽しそうだな……」


 顔にざまぁと書かれている大輔、そう言う話好きだよね。でもせっかく献血してくれている人たちを馬鹿にする気持ちは俺には解らないし、ざまぁな気分になるのも分からなくはない。ただ面倒なのでこっちから関係を持とうとも思わない。


 要は対岸の火事、今回は完全に目の前の火事だったわけだけどね。


「ふふん、これを見れば楽しくなるさ」


 楽しくなるものってタブレット? 何かえっちなのでも持ってきたのか? 今は血の気が足りないから意味ないぞ、息子はうんともすんとも言わんのだからな。


「ん? 動画アップしたんだ。どうよ俺の戦いっぷり」


 タブレットに映っているのは動画投稿サイトに投稿された俺の雄姿である。どうやらTの他にもニヨニヨ動画に投稿したらしい。コメントが泳ぐように流れている。


「狂戦士だな」


「誰がバーサーカーだ」


 失敬な、誰が狂人だ。狂っちゃいねぇ、狂ってるのはこの骨の方だろまったく。一体何十匹のスケルトンをあそこで狩ったのか、燃え盛る火をバックに戦う姿とか絵になっただろうが残念、カメラは取り外してたから映せてない。


 あれが撮れていたらそれなりにバスったりしたんじゃないだろうか? てか結構コメント多いな、流れが早くてよくわからんけど、気になるから後で確認しておこう。俺の承認欲求を満たしてくれ。俺だってそれなりに枯渇してるんだ。


「いやいや、いくら何でも化物とステゴロって無いだろ。しかもなんだこの動き、お前格闘技やってたのか?」


「護身術程度なら両親とその知り合いに少し」


 と言っても昔々、親に連れていかれたあっちこっちの国の人に教えて貰ったり、親から教えてもらったのも基礎で流派とかそんなものはない。とりあえず殴って避けて逃げるが基本である。外国は日本ほど安全じゃないんだよね。


「それで体の動きが良いのか、にしてもスケルトンの方も動き良すぎだろ、こんなスケルトン見た事ねぇぞ」


「そうなの?」


 おや、俺よりこういう動画を見ていそうな大輔でも見たことが無いのか、俺もあそこのスケルトン以外で動きの速いスケルトンはお目にかかった事はない。あのスケルトンの宝庫である青山霊園地下大墳墓でも見たことが無いから、珍しいと言えばそうなのだろう。


 ただこの動画の骨以上の骨を経験した身としては、今の強化骨はそれほど脅威と感じない。いやまぁ会う度に動きが良くなってそうな気がするので、そのうち脅威になるかもしれないけど、それはまぁ考えたくない現実だ。


「動画で見るスケルトンは基本鈍い、避けられないような速さで殴って来ることなんてない」


「それはまぁ確かに、俺は強化骨って呼んでるけど、腹に穴開けた骨はこれより速かったし強かったぞ?」


 やっぱり普通のスケルトンはそんなに早くないもんなんだな、今も窓際のテーブルに置かれている帯をくれたスケルトンなんてこの手の恩恵が無ければ、今頃ぼろ雑巾のようにされて異界の肥やしになっているところだ。


 無敵拳があっても腹に三つ穴が開いて死にかけたのに、ほんとギリギリの戦いばかりで困る。だからこそ今回は用心に用心を重ねて火力こそ正義で逝ったと言うのに、自爆とは締まらない。


「どう考えてもボスだろそれ、あと何で武器捨てて殴り掛かって来るんだよ」


「それは俺が聞きたい」


 知らん。きっかけは何だ? 素手で戦い始めたことが原因か? それとも死にかけたあの戦闘が原因か? いやそもそも、江戸川大地下道で武器ナシの殴り合いに持ち込む人間がいない説まである。だがそう考えても、スケルトンが俺に対して格闘戦前提で現れるのはおかしい。


 異界自体に意思があるのか、それともスケルトンが発生する原因に問題があるのか、普通に考えたらあの超強力スケルトンがボスだとして、そこから発生していると考えれば、原因はあの骨か、帯はくれたがだからと言って現状の格闘スケルトン祭りはどうなんだと、小一時間ぐらい説教したいところだ。


「失礼するよ、おや?」


 マッドドクター黒井が現れた。


 失礼な事言ってるけど、俺の魂がこの人にはそのくらい言って大丈夫だと言っているので、今後は心の中ではそう呼ぼうと思う。


 それにしてなんだかすごく驚いて大輔見てるけど、もしかして俺に友人がいて驚いてる? まぁ友人かは微妙なラインではあるけど、心配して救急車に同乗するくらいには良い奴なのでそれなりに大事にしようと思う。


 たとえ病院併設のカフェに可愛い店員が居たからと、俺の治療が終わるまでそこで暇をつぶしていたとしても。


「あ、検診か? それじゃ俺は帰るわ。それでコメントとか見とけよ、コメント返ししても良いぞ」


 どうやらこのタブレットはくれるらしい。え? 上げない? 貸すだけ? ふむ……これで動画の確認をしておけと言う事か、不敬なコメントは削除しておこうか? いや、変に炎上しそうだから質問にだけ答えておけばいいか。


「このアカウントでやればいいんだな? おけおけ」


 アカウントも投稿用とは別に用意したのか? 豆な男である。豆を箸で摘まむのは下手なくせに、妙なところで細かい。


「それじゃなー」


「……彼は?」


「元同僚です」


 やはりこの男、俺に友人がいると言う事が信じられない様だ。そんな何度も大輔と俺を見比べないで貰おうか、俺にだって少しは友人関係にある人間が居るのだ。


「なるほど、良いご友人ですね」


「…………どうなんだろう」


 いいゆうじん? ごゆうじん? ……わからない。一般に良い友人と言えるか本当に微妙なラインである。悪いとは言わないけど、良いのか? 割といろいろ迷惑かけられてるから頷きたくないな。


「えぇ……?」


 俺の返答がお気に召さなかったのか、マッドドクター黒井の胡散臭い笑みが引き攣っている。そんなに大輔が気になるんだろうか? まさか、そっちのタイプか……尻に気つけよう。



 いかがでしたでしょうか?


 黒井はマッドドクターの称号を手に入れた! 羅糸はお尻に力が入った!


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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