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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第86話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「さて、やるか」


 メインターゲット巨大ブラックスライム。名前からして社畜の敵であるが、命名は俺である。


 調べたけど同じような化物の報告はない。それを言ったら格闘戦大好きスケルトンなんて言う発見情報も無いし腹マイトジュース缶も無い。一斗缶に関しては外で発見例があるらしく、しかもその一斗缶はドラム缶の取り巻きとして現れたそうだ。


 地獄である。


「倒せなかったら退却、ライトを点ける、火をつける。全力で投げる、走る、伏せる」


 しかし今からここが地獄になるかもしれない。と言うか死んだら地獄行きな気がするんだよね。ほら、もしここにいる化物が無垢な民だった場合、虐殺してる俺ってどう考えても犯罪者なのだ。


 そんな風に現実逃避していれば、イメージトレーニングも適度に力が抜けて良い感じになる。といいな。


「……よし、イメージ完了」


 これだけイメージトレーニングを口にしてたら問題ないと思う。左手にダイナマイトの束とそれにしっかり繋げられたロープ、これを室〇はんまーなげする予定だ。すでに石で同じような物を作ってホールで練習済みである。


 右手にはドロップライター、安全の為に軍手はつけてない。普通なら安全の為に付けるものだが、俺にとっては今更軍手は必要ないと付けないことを選択した。選択したのは良いんだけど、こんなことならお徳用の軍手なんか用意しなかった。


 めっちゃ余ってる軍手がゴミの様だ。


「うん、変わらず居るな」


 心で軽口を叩いて気が楽になって来たけど、スライムに近付けばやっぱり緊張してくる。動かないけど、これから何が起きるか全くわからない。だからこその一撃必殺のつもりで用意したダイナマイトを床に置く。


「ライトよし!」


 先ずは括り付けたジャックに光を灯す。しっかり光っているし直視すると割と眩しい。


 立ち上がるとロープを強く握って一緒に導火線も摘まむ。ロープと同じくらいの長さでしっかり伸ばせば床から俺の腰辺りまでと結構長い。


「ライターの火は出るな」


 導火線から遠い所で火をつける。ライターの頭を親指で捻る様に押すと蓋が開き火が点き、親指で蓋を保持する限り火が出るが結構な火力だ。


 息を大きく吸う。


「ふぅぅぅぅ……行くぞ。点火」


 そして大きく吐くとともに火を導火線に近付ける。手に感じるのは緊張からくる冷えと、手が冷たくなっていくのに可笑しなほど吹き出る手汗。心臓の音もやけにうるさく聞こえる。


「……点いた! とんで、けえええ!!」


 ゆっくり回し始めて力を強く籠めて三回ほど回せば十分に加速、さらに回せば意識とは関係なく手からロープが離れていた。その軌道は練習通り、スライムの体の真ん中少し上に向かって飛んで行くのが見えた。


 そして、


「よしよしよし!」


 食べた! これで第一段階は終わり! じゃなかった急がないと。


「急げ急げ急げ!!」


 走れ走れ! ライターをポケットにしまうのも忘れて握ったまま走る。予め石で線を作っていた場所まで走ったら急いで伏せる。ダイナマイトの実験より遠くに離れてその場に倒れ込む。


「伏せ、耳塞いで口を開ける!」


 ちょっとこけるように倒れ込んだらしっかり地面にうつ伏せ、顔を少し上げて口を開けてライターをズボンのポケットにしまうと耳を両手で塞ぐ、そしてしっかり目を瞑った。準備は完了、後は爆発を待つだけだ。


「…………」


 あれ? 爆発しない。いやいやいや、ダイナマイト実験の爆発も気を抜いた瞬間に音がしたんだ。まて、待つんだ。もしかしたらスライムが動き出してるかもしれないが待つんだ。


 心臓が痛い、呼吸が荒い……遅い、とても時間が遅い。流石にもう爆発していいんじゃないか? おかしいぞ? 確認するべきじゃないか?もう爆発したんじゃないか? それで全く効果がなかった可能性。


「……? まだ――――――――――――っ」


 可能性はなかった。そして全てが音に支配されて身体がどこを向いているか解らなくなる。


 まるで無重力、いやこれは、飛んでる。


「おぐえ!? ぶえ!?」


 痛い! 痛い! 世界が歪む、壁が左肩にぶつかった。いや違う地面だ。地面が左肩にぶつかって頭が、背中が、腰が、右腕が痛い。何かがいっぱい俺にぶつかってくる。我慢できない。


「いたいいたいいたいい!?」


 全身が痛い、でも声に出せば少し意識がはっきりしてくる。今の態勢はまるでお腹の中に居る赤ちゃんの様に丸くなっているようだ。もう耳から手は離されていて遠くから反響音が聞こえて、いや身体のぶつかる音か? よくわからない。目は、顔を覆った指の隙間から光、目は見える。少し明るく見えるがいつもの薄暗い地下道だ。


「……? ……よ、よかった。耳は何とか聞こえる。聞こえるなら無事だ」


 少し遠い感じがするけど自分の声が聞こえている。口の中がじゃりじゃりして気持ち悪いけど、生きてる証拠だな、でも唾と一緒に吐いて……少し鉄臭い。唾を吐いても気持ち悪いのは変わらない。


「ぺっぺっ! いてて、やば……おでこ切ったか。いっつぅ!? 左腕、またやった?」


 全身ボロボロだ。でも生きてる。額を切ったみたいで血は止まらないけど、頭を切ればこんなものだろう。それよりまた左腕が疼くように痛い。治したばっかりだけど、これは明らかに普通の痛みじゃない。


「あぁあぁこれは、たぶん、罅ぐらい入ってそう」


 力が入りにくいけどあの抜ける様な、外れる様な不安があるわけじゃない様だ。また三角巾で体に固定しよう。ポケットの中身は零れて無いし、ライターも健在だ。……よかった。


「はぁ……ボロボロだ」


 左腕の処置をして立ち上がれば体中から乾いた土が零れ落ちて行く。パラパラとか可愛い感じじゃなくてバッサ! とかドサドサ! と言った可愛げのない音だ。どうやら大量の土砂で半分埋まっていたようだ。


「……スケルトンから貰った帯は汚れたくらいか」


 赤と白と茶の革帯は傷一つなく、足も上半身に比べたら大して痛くもない。嫌味なほど無傷である。感謝と同時にやるせない気持ちになった。


「これ、もう手放せないな」


 俺、これからずっとこの革帯装備し続けるんだ。笑われてもいいから付け続ける。ただもうちょっと色を合わせた服装にするべきか、見た目や汚れとかいろんな意味でかっこ悪い。


「もしかしたらボディアーマーより丈夫かも?」


 胸のボディアーマーはもうボロボロだ。細かい傷もそうだが、今のでいくつか大きな石でも当たったのか大きく抉れている。これつけて無かったら割と致命傷を負っていた可能性があった事に気が付いて血の気が引く。


 色んな意味で運が良かったとしか言えない。


「いかん、とりあえず治療しないと」


 ボディアーマーを見ていたら血がたくさん垂れて来た。慌てて顔を上げた先はスライムが居たと思われる場所、遠くから見ても分かるくらいに大変なことになってそうだけど、今は何も襲ってこないので治療が先だ。


「自転車は無事か?」


 予想外の爆風だったけど、無事だと良いな。





「うわぁ……」


 爆風で吹き飛んだ土砂に少し埋もれていたけど自転車は無事でした。でも問題は山済み。


 カーゴの中の医療品も無事で、頭の怪我もとりあえず消毒して包帯を巻けたけど血は止まっていない。あと一番の問題が目の前に出来た巨大なクレーター、大量のダイナマイトを束ねたものがこんなにすごい物だったとは思わなかった。


「あのダイナマイト、使う時は一本ずつ増やして実験しないと危ないわ」


 確かに、ダイナマイトを複数同時に爆発させると相乗効果があるとはネットを見て知っていたけど、そこにはこんな威力になるなんて書いてなかった。書いてなかったと言う事は、たぶんドロップに原因があるんだと思う。


 危険だけどスライムがいる以上使って行かないといけないわけで、今後は更なるドロップの研究とダイナマイトの研究が必要だ。そうしないと、折角スライムを狩れてもこんな跡形も無く消し飛んで赤字にしかならない。


 俺には金を稼ぐ必要があるんだ。今はお金になるか分からなくても、きっと値段が付く日が来る。ガソリンをメインに売りながら奥地のドロップを集めていればいつか特需で……ところで、何時まで借金待ってもらえるんだろう。


 とりあえず下に降りてみるか、穴の深さは4、5メートルくらいか? 硬くて緩やかな斜面になって無かったら蟻地獄だなこりゃ。


「ん? 何か落ちてる」


 ライトで照らした先で何か反射したけど、もしかして鉱山的な物でも掘り当てたかな? 金か? 金なのか? これは、棚ぼた来たか。


「これは、黒いスライムキューブ?」


 うん、この弾力と触った時に感じるしっとりした手触り、真っ黒だけどたぶんスライムキューブで間違いないだろう。大きさも手の中に丁度納まる大きさで普通のスライムキューブとそこまで変わらない大きさだ。一部界隈では柔らかめのおっぱいと定評のあるスライムキューブより少し固めだろうか、おっぱいなんて上司行きつけのなんとかパブで揉んだことしかないのでよくわからない。


 しかも、揉んだのは偽物で、性別も男だったので完全にノーカウントである。あんな恐ろしい所に連れて行った上司に災いあれと何度呪った事か……おっと、嫌な思い出が蘇ってしまった。


「んー12個か」


 一匹で12個のスライムキューブはすごく多いと思うけど、一軒家2個分の大きさを考えると、ものすごくしょぼく感じる。ポケットの中に入れてるエコバックに全部入れれば結構な重さだが、何とも言えない気分になる俺は悪くないと思う。


「とりあえず持って帰って実験してみよう。売れるか考えるのはそれからでいいや」


 スライムキューブの特性はTでもやっていたし色々試してみるのが今から楽しみだ。特に今まで見たことないドロップ、何が起きるか解らないし分けておくことにしよう。


 さ、帰ろう。家に……いや病院行こう。


「かえるーかえるのー帰って病院……あ」


 骨だ。骨が居る……自転車の近くに、骨が佇んでいる。手にはもう槍と盾を持っていない。地面に転がっていて何故か俺に向かって掌を見せる様に腕を伸ばしている。でもその手にはしっかりと赤い布を巻いている骨だ。


 やる気満々である。


「ええぇ、もう一戦必要?」


 満身創痍の俺が近づけばいつも通りの構えをとる骨、空っぽのはずの頭蓋骨の奥では青い光が揺らめき一瞬強く光った。対戦希望の様だ。





「わぁ……」


 対戦希望者は一名限定で後は自転車の最高スピードで振り切ってきましたが。目の前にはとんでもない光景が広がっています羅糸です。僕は何か悪い事でもしたのでしょうか、教えてだれか……。


「もしかして俺は死んでいた? それでここは地獄かな?」


 いつの間にか死んでいたのか俺は、もしかしたらあの骨もお迎えだったのかもしれない。それなら随分と手痛く倒してしまった。体が痛くて一番楽な動きをしてみれば何ともスムーズに手刀が振れたのだ。思わず肩口から真っ直ぐ下に肋骨を寸断してしまったよ。


 出来れば今後は今日のような綺麗な切断を目指したい。それにしても暑いな、いや熱いな。


「風上だから焼け死んだり窒息することはないと思うけど」


 マイホームで荷物を下ろしてそのまま異界から出ようと思えば、異界の出口は地獄の業火で燃え盛っていた。いつもは薄暗い地下道がとても明るく、今なら中央に居ても地下道の端から端までよく見える。


 良く見えるからこそ火の壁が端から端まで分厚く道を塞いでることが分かった。俺が何をした。


「どうしようかなぁ? いや、しばらく待つしかないかぁ」


 まさかスライムを燃やし尽くす方向で動いていたとは、これなら血止めに専念して休んでおくべきだったか? いやしかし、かなり血を流しているからそのままと言う可能性もあった。


 そう考えるとここまで来たのは悪い選択では無かっ……ん? 何やら後ろから音が聞こえる。


「ん? スケルトン?」


 スライムかと思ったけどスケルトンだったか、しかし何かおかしい。スケルトンの音はもっと不規則な感じで枯れ枝が転がるような音のはずだ。決して一定のリズムで歯を打ち鳴らすような音ではない。


 まさか……。


「……ブルータス、お前もか」


 手に持った短刀を捨てた骨がまるで柔道の様な構えでじりじりと近付いてくる。


 これが異界の意思だと言うのか、異界は俺の心を裏切ったんだ。


「こちとら怪我人だぞ? 怪我人にステゴロ期待するやつが居るかよ」


 俺の言葉を理解しているのかしてないのか、その場で動きを止めた骨はカタカタと歯を噛み鳴らす。引く気はなさそうだ。


「……あぁくそ、やってやらあ!!」


 裏切ったからにはこちらも容赦はしない。見せてもらおう! 強化骨ではない貴様等ノーマル骨の性能とやらを! 今宵の手刀は一味違うぞ。


「赤い目輝かせてんじゃねーぞ!」


 嬉しそうにしやがってムカつく!!





「ええ! 望月さんが!? 容体は?」


 西野は叫んだ。必ずや死者なく問題を解決しようと意気込んで指示を出して二時間後、思わぬ報告が転がり込んできたことで、飛び上がる様に席から立ち上がり叫んだ。


 それは望月緊急搬送の知らせである。


「頭から血を流して、上半身の至るところに切り傷と左腕を布で吊って固定していたそうで、今救急車を呼んでいます」


「私たちの所為?」


 燃料投入からのスライム焼却作戦は順調に進んでいたのだが、念の為にと長めに燃やしたのが災いしたのか、満身創痍で異界に足止めされた羅糸は、気が付いた消防により救出され、現在は消防隊の応急手当を受けていた。


 いったい何が起きたのか、救助後意識を失った羅糸から直接話を聞けなかった西野は蒼い顔で呟く。


「いえ、大物を狩ったそうです。ただ火の壁で出られない間ずっとスケルトンと戦っていたらしく、疲労困憊と言った様子でした」


 しかし救急搬送の主な理由は大物スライムとの戦闘であり、スケルトンとの戦闘は大した問題ではなかった。むしろ集まるスケルトンが可哀そうになるくらいの無双であり、救助隊が到着した時、そこにあったのは羅糸を中心とした無数の骨キューブ。


 その中心で肩を落とし背中を曲げて立ち尽くしながらも、右手の拳を解くことの無いその姿は拳鬼の如く、思わず背筋が震えたとは救助隊の弁である。


「…………ふぅ」


「総括!? 大丈夫ですか!?」


 そんな話を聞かされ西野は、驚き、緊張、緩和、と急激に血圧を変動させた所為か気を失うのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 羅糸はやり遂げた様です。または自爆とも言う。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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