第85話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「え? 望月さんが居たんですか? 今はどこに?」
異界、江戸川大地下道の責任者である西野は勢いよく立ち上がっていた。その理由は羅糸が地下道で発見されたからだ。
江戸川大地下道では現在、ハンターと管理協会の職員に対して進入禁止措置が取られており、唯一異界内に残っているのは羅糸だけとなっている。その原因はスライムの大量発生、一時は協会職員や協会所属ハンターが投入され、閉じ込められたハンターの救助作戦が展開されたが、スライム駆除に投入できる戦力の限界によって羅糸の救助は断念されていた。
「それが奥に戻ってしまって、見た感じだとスライムを燃やしていたようです」
「燃やす?」
「はい」
異界内にハンターが取り残される事件事故は現在日本各地で発生しており、通信可能な異界に関しては専用アプリをスマホに入れる事で対処する動きが出ているが、そのアプリ開発も難航しており被害は依然広がり続けている。
そんな遅々として進まないハンターの身を守る安全対策に対して苦々しく思う西野は、今回の事態で最も気にしていた羅糸の行動について考え込む。それは彼がこの異界を最もよく知る人物の一人であることも大きい。
そんな彼が突然現れて意味の無い事をするだろうか、そう疑問を抱いた彼女は鋭く目を細めた顔を上げる。そこに羅糸が良く見る可愛げのある表情はなく、どちらかと言えば近寄りがたい美しさがあった。
「それでその燃やしたスライムは?」
「動かなくなって最後はゆっくり塵になってました」
「動かなく、燃やせば安全に倒せるのですか」
「みたいですね。恩恵でも火の魔法で倒している人が居ますので、火が効かないと言う事はないと思います」
羅糸の行動はスライムの警戒をしていたハンターや職員によって確認されており、一時は救助する為に突入するべきだと言う意見まで上がったが、すぐにまた羅糸が奥に戻った事で、目の前に要救助者がいるにもかかわらず救えなかったと救助の声を上げた者達はお通夜状態である。
そんな羅糸の行動に注目したのは何も西野だけではなく、何か意味があるのではないかと考える者もいた。しかし何か大きな動きを起こす際に必要なのは責任者の許可である。
「試してみましょうか」
「危険では?」
今回はそんな責任者を動かす下からの声より先に、責任者自身が行動を起こすようだ。
「上に伺いは立てておきましょう。どうせ現場任せでしょうけど、あとは消防の立ち合いも必要ですね。風下からですし、火をつけるのは恩恵を持った人にやってもらった方が良いでしょうか?」
「そうですね。なるべく遠くに、弱くても良いので火を投げることができる人と、後は燃料ですか」
羅糸の前で見せるどこか自信なさげな姿とは違い目まぐるしく計画を組み立てていく西野、それが彼女の本質なのか普段の姿なのか、特に驚くこともない警備の女性は西野の考えに賛成なのか一緒に考え始める。
大量の化物であるスライムを燃やし尽くすには、ちょっとやそっとの恩恵では不可能であり、そう言った強力な恩恵持ちは国が確保してしまって協会には数人しか所属していない。
そうなると当然恩恵をメインにした焼却作戦は取れず、燃やすための燃料が必要になってくる。
「望月さんに頼めば売って頂けると思いますけど……」
「望月さんですか?」
「はい、ガソリンのドロップを民間に売却しているそうですから」
異変以降日本が確保できている燃料は非常に少量であり、国もドロップに頼ているのが現状であった。そんな燃料の供給源の一つが羅糸である。協会としては民間に売却してしまっている事に思う所もあるが、そんな事言える立場にもなく、西野は小さく溜息を洩らす。
「なるほど、ガソリンならよく燃えそうですね。何か液体をスライムに掛けてましたけど、あれはガソリンだったんですね」
「受け渡しができない以上頼ることは出来なさそうですけどね」
実際は灯油であるが、羅糸の行動により江戸川大地下道を管理する協会の方針は決定するのだった。
「ふーん、スライムの大量発生で通行止めか」
協会本部のホームページには何も書いてないけどTには続々と情報が上げられている。どうやら大量のスライムが発生したところに新人ハンターが範囲系の恩恵をぶち込んだらしく、その影響を受けたスライムが一斉に動き出し、その動き出したスライムに合わせてあちこちの横穴からスライムが噴き出したそうだ。
江戸川大地下道の協会公式Tアカウントには、今も一時間おきくらいに情報が出されている。なかなか優秀な公式アカウントだが、それより一般からの情報の方が新鮮で、数百匹と言う公式発表は古く、現在は数千匹まで増えたと野鳥の会化物支部とか言うアカウントが詳しい数の計測を諦めたと書いている。
「やばいな……大きい方も猫砂って事か、食事は最低限にしておこう」
一応蓋も付けて対応可能に作ってはいるが、気持ちの問題って大事だと思う。捨てる時はそれを自転車に乗って持って行くんだぞ? 考えただけでテンションが下がる。災害時はそんな事言ってられないんだろうけど、気持ちばかりはしょうがない。
「最悪はガソリン投入からの炎上戦法だな、あんな量のスライムなんか石で倒してらんないよ、最悪こっちに複数のスライムが飛び掛かって来ることになる」
まぁそんな事やったら最悪逮捕されそうだけど、いやまてよ? 人に危害を加えなければいいんだから、事前通告したらいいだけか? その時はそうすることにしよう。
にしても石ころで狩れるスライムもあれだけ集まると凄い脅威だよな。体当たりしてきて酸も吐くし、自衛隊とかなら高火力な兵器を使って殲滅できるんだろうけど、それもスライムじゃなくて一斗缶の大群ともなればまた話が変わってきそうだし、化物は恐ろしいな。
「やっぱ戦いは数なのか、ぼっちでは無理なのか……」
ぼっち悲しい、出来る事なら俺にも仲間が、一人くらいほしかった。
「しかし、なんでスライムがあんなに湧いてるんだろう? 今後変わらず大量湧きなんてことになったら大変だな、出られないぞ?」
スライムキューブも暴落しそうだし困ったものだ。でもまてよ? あんなにスライムが居たら真面にキューブの回収も出来ないだろうし、高火力で焼き払ってもドロップまで焼き尽くしそうだし、こんなことが全国的に起きていたら逆に高騰してスライム長者が生まれるかも。
夢があるな。
「まぁスライムが溜まっていたのは隙間なくても一部だし、足場でも作って跨いで通れば問題は無いのかもな」
その場合少しずつ狩って行くことになるのか、スライムが頭よくて足場を逆に利用されるのか、もっと違う事が起きるかもしれないな。
「スライムの溶解能力も考慮すると、ステンレスとか使うのか? 色んな意味で高い足場になりそうだ」
ステンレス足場とか準備するのも大変そうだし、大繁殖イベントが恒常じゃない事を祈ろう。これがゲームなら一方的に狩り放題でレベルアップイベントなんだろうけど、今のところレベルアップなんていう現象は報告されて無いんだよね。もしかしたらあるかもしれないけど、ある意味副次効果の恩恵はレベルアップと言っていいかもしれない。
それに比べて交換は、今も変わらず限定的な優位しか取れないし、優位が取れたと思えば殴り合いだ。
「あぁ、交換の魔法の無力さよ……」
もっと汎用性に富んでどこでも高火力が出せる恩恵が良かった。ビームとか爆発とか、ちょっと中二が喜びそうな詠唱、は要らないから普通に強いのが良かった。もしレベルアップしたとして、交換ってどんな風に成長するんだ? 距離の延長とか? 持ってなくても交換できるとか? どう考えてもしょぼいし犯罪の匂いしかしてこねえ。
いかがでしたでしょうか?
思わぬ影響を与えた羅糸は悩み溜息を洩らす。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




