第84話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ふふふ、完成だ」
見よこのフォルム! この耐久性! この圧倒的脱臭性能! ……これぞ文化だ。
「猫砂トイレ! これで小便くらいなら問題ないやろ」
ただの非常用トイレなんだけどね。しかもちょっと耐久性の良いバケツときれいに磨いたつるつるの板を使っただけの、でも文化なのだよ。つるつるに磨いたけどビニールで包むと言う暴挙を行いつつ着席! ……一応材料だけは購入しておいてよかった。
「……人が居ないと分かっていても、こうも広い空間で用を足すのは落ち着かないな」
ジャストフィットする座り心地で開放的、たぶん人はいないと思うけど念の為に周囲を囲う様にブルーシートを広げている。だがあまりに天井が高い、完全に目隠ししてしまうのも異界とあって少し不安だから、顔の辺りはとても開放的で遠くまで見える。
「狭さって、大事だな」
いくら地下とは言えこの広さ、まったく落ち着いて用を足せない。
「さて来ました真っ黒スライム」
限界を超えた尿意によって、集中のし過ぎは体に良くないと学んだ昨晩から目が覚め翌日、起きてすぐにトイレを使えると言う文化的な生活により解放感に満ち溢れ訪れたのは黒スライムの目の前、今日も変わらずそこに居座るスライムはやっぱり攻撃してこない。
ちなみに手はちゃんとアルコール消毒している。と言うか水の乏しい異界に住むとなって最初に確保したのがアルコール除菌製品だ。流行り病とかもあって品切れになるのが早い品目の一つとなっている。
人によってはEマーケットで買えるとかで、Tに流れて来た品揃えを見てとても羨ましかった。
「動かないな」
割と近くまで来たけど動かない。
今日は戦わないので自転車は直ぐ近くまで持って来ているので、カーゴから割と強力なライトを取り出し照らしてみるがやっぱり動かない。
「それなりの一軒家2個分くらいかな?」
小さめの分譲住宅なら二つくらい飲み込めそうな大きさだが、果たしてダイナマイトで倒せるだろうか? 大丈夫だと思いつつもこの大きさを見るとちょっと不安になる。
それにしても、いくら照らしたところでうんともすんとも言わないスライム。時折表面を波紋が広がっているが、あんな強力な攻撃を突然してきたと思えない静かさだ。
「先ずは鈴だな」
ここまで慎重に持ってきた鈴を全力で三つ纏めて投擲! 拡散した鈴が音を鳴らし飛んでくるも特に反応は無し、あ! ……食べられた。
「近くなら反応するな」
地面に落ちた鈴に反応してるのかぶっとい触手がのびて行き、
「エグい」
地面ごと薙ぎ払われる。鈴は、これはたぶんひき潰されたな……石や土とまとめて吹き飛ばされた鈴の音は聞こえない。小さすぎてスライムの体に飲み込まれた可能性もあるか。
「竿で試してみるか」
竿を持って行かれるのは困るので糸はすぐ切れる裁縫用の糸を用意してみたけど、めっちゃ切られた。重りをつけて上から落とせば食べられ、戻って来た糸の先はチリチリにけば立っていて、足元に落とせば鈴同様に横薙ぎの一撃によって引きちぎられた。重りは夜空の星になったのだ……。
あのぶっとい触手、車に撥ねられるか轢かれるのと変わらないくらいの威力だと思う。太さが俺の身長より高いじゃん、そらボロボロになるわな。
「あまり反応は良くないけど、足元はやっぱ薙ぎ払ってくるな」
どうにも上も下も反応距離は短く、高さで攻撃方法を変えているみたいだ。
「なら光はどうよ」
次に取り出したのがハロウィンライトの詰め合わせ、我が分身達である。
一個摘まんで点灯させたらそのまま投擲。
「そら行ってこい!!」
キラキラと輝くジャックオランタンはその笑顔を崩さぬままスライムの頭上へ、そしてぱくりと食われて闇に消える。
「……わぁ」
音も無く飛び出した太いスライムの一部は一瞬光に照らされ、取り込まれたジャックは暗闇の中、あの黒いスライムは光を一切外に漏らさないらしい。スモークブラックではなく完全な黒の様だ。波紋は見えていると言う事は光を完全に吸収するわけでは無い様だ。
「もういっちょ!」
念のためにもう一回繰り返すが、結果は変わらず。ジャック2号機はあっと言う間に取り込まれ闇に消える。本当に一瞬で音も無く闇の中に消えてしまう為、気が付かなければいつの間にか仲間が食われて行方不明、ソロじゃなければそんな事もありえそうだ。
「まとめて!」
不思議な事が起きた。
「光は食べる……良いじゃないか」
纏めて投げたジャック3号からジャック8号は、光りながらあちこちに散らばり黒スライムを照らしたのだが、これまでと違って地面に落ちた物も食べられてしまった。
どうやら光る物はどこに居ても食べられてしまうようだ。もしかしたらこのスライムは光る虫でも食料にしているのかもしれない。ちょっと化物の不思議に触れた様で興味深い。
「飲み込まれた後どうなってるかがちょっと不安だな」
問題は飲み込まれた後だ。爆発物を効率よく使うには表面で爆破させるより内部で爆破する方がいいのは知っている。しかしアレに飲み込まれた瞬間溶けてしまっては意味が無いし、導火線の火が消えても意味がない。
こればっかりは実際に試してみないと分からないだろうな。
「この距離なら攻撃してこないって事は分かった。この距離以上離れると目視出来ないからここが限界……」
正確な距離は分からないし、スライムが大きすぎて遠近感も狂う気がするけど、攻撃可能限界と言えば良いのか、今の距離ならダイナマイトを投げても十分届くと思う。最悪床に転がってもテープでガチガチに纏めているので、食われる前にばらける事もないだろ。
「投げたら逃げる。投げたら逃げる」
イメージトレーニングは大事、今回は置いてきたけど、おまとめダイナマイトを投げたつもりで踵を返す……投げたつもりで踵を返す。はっきり言おう、たぶんダイナマイトの爆発実験をしたときの距離より近いのだ。急いで逃げないと割と危ない。
投げたらすぐにスライムが良く見えなくなるところまで逃げなくてはならない、それでもどうなるか解らないので実に不安である。
「遮蔽物が無いから伏せる。確か爆発物に対して足を向けてうつ伏せに伏せるんだったよな?」
これは大輔が残業中に教えてくれた爆発物からの身の守り方だ。
「大輔は何と戦うつもりでこの知識を手に入れたのだろうか?」
あの時は何の話だったか、よく覚えてないけど爆発する時に一番守らないといけないのは頭だから云々と色々話していた。ほんと何と戦うつもりだったのだろう。
「とりあえず帰ろう」
調べることは調べたのであとは実戦だけだ。実戦を考えただけで心臓が高鳴るが、これは恋ではない。ただ吊り橋効果には効果がありそうな感じはする。
「よし、完成だな」
マイホームテントに戻る間にちょこっと荷物が増えたけど特に問題も無く、すぐに取り掛かったのは強いダイナマイトの改造。と言うか、ただ単にジャック9号をちょっとやそっとじゃ外れないように取り付けただけだ。
「問題は威力か」
後はこれが爆発したときに発生する被害、多少爆風で怪我する程度なら良いけど効かなかったら手詰まりだな。爆発力が足りないならまだいいけど……消化されないことを祈ろう。
「爆発しなかった場合は、別の方法か……ガソリンを投げて足下から燃やすか」
安定的に売却できる物であるガソリンを使うのはあんまり気が乗らないけど、あのスライムを狩れるかどうかで今後の人生が変わる。そんな気がするのだ。その為なら多少の出費は目を瞑ろう。
今のところガソリンが狩れないと言う日はないからな、一番良いのはドラム缶の安定的な狩猟になるんだろうけど、もう一つ二つ奥の手がないとあれは今後もホール狩り一択しかない。
「スライムって火は効くのかな?」
水の塊みたいなスライムに火が効くのか、一応恩恵の火でもスライムは倒せるらしいから効かないわけではないと思う。
「試してみようか……」
うん、考えても仕方ないしちょっと調べてみよう。また動画撮られて晒されないか心配だけど、背に腹は替えられん。
「異界なら大丈夫だと思うけど」
持って行く物は燃料の他に水だな。勿体ないけどEマーケットで何本かペットボトルの水を買っておこう。土しかない地下だけど変に飛散して延焼しても迷惑かけそうだし、流石にスプリンクラーなんてないだろうしな。
そう言えば、いい物があった。
「これで試すか」
持ってきたのは手頃な水筒サイズの金属ボトル、中身は割と貴重な灯油である。最初に出たっきり腹マイトからでなくなった灯油、その代わりに溜まっているのがダイナマイト。本当なんでこんなことになっているのか、訳が分からない。
これがレアドロップってどう考えても割に合ってない気がする。
「1リットルなら零しても被害は少ないだろうし、これで行こう」
ガソリンは結構重いからな。
「なにこれ?」
おかしい? 俺は別の地下道に入ってしまったんだろうか? いやそんなわけない、ちゃんと東側とこっそり地面に書いていた道から入ったはずだ。
「スライムだらけだな」
全然スライムが居ないから入り口近くまで来てしまったけど、入り口が出入りできないほどにスライムで塞がれている。
とんでもない事になっているが、遠くから見ているとちょっと和む。
なんでかと言えばスライムは坂が登れない様なのだ。飛び跳ねて積み重なる様にして外へ外へと向かっているスライムだが、坂道の途中で力尽きてゴムボールの様に坂道を下っている。しかもそう言ったスライムは必死に坂道を登るスライムたちにぶつかり、巻き込み大きな雪崩となって落ちていく。
見てる分には可愛い。
「てか出られないぞこれ」
問題は出られないと言う事、そして出られないと言う事は、トイレに行けないと言う事だ。緊急用トイレは天啓であったか……困ったな。
まぁ今は良いか。
「……君は犠牲になるのだ」
坂道チャレンジスライム以外にもいつも通りのスライムも居るらしく、すぐ近くをころころと自由に転がっているスライムを見付ける。
「……灯油を掛けられても嫌がらないな」
スライムと言ってもドロドロ系ではなく割と弾力がある江戸川大地下道のスライム。灯油を掛けられたのは攻撃判定にならないのか、動きは止めても攻撃はしてこない。
すまないスライム、赤スライムの件があってからなんだか戦い辛くなってしまったが、私の知の糧となってくれ。
「燃えたなっと!?」
おっと!? 流石にこれは攻撃判定……なんだろうけど、なんでだ? 一瞬暴れた後は大人しい。ちょっと軍手が溶けてしまった。
「効かない? ……いや、少し動きが鈍くなってる?」
動かないって事は効いてないのかと思ったけど、小さく震えてるし効いてないわけではなさそうだ。ダメージがじわじわと少ないから攻撃判定になって無いと言う事か? しかし、違和感があるな。
あ、黒い塵になり始めた。
「うーん、倒せるけど時間が掛かるなぁ」
完全に塵になる前に火が消えたけど、復活はしなかったな。
「普通のスライムでこれじゃちょっと……あぁ重油とか石炭とかも使えそうではあるのか? でも現実的な倒し方じゃないよなー」
普通に石投げた方が早い。あぁでも目の前の大群相手なら登っても来ないし一方的に狩れる。と言うか虐殺みたいになりそうだな、まぁ危なくって使える手ではないな。特に行政も会社もちょっとでも危ないと、やれ責任の所在がどうとかでやれないだろう。
「あと、スライムって温度感知なのか?」
燃えて熱源探知が出来なくて混乱してたとか? バッタとかも熱源探知の可能性があるしな。あとやっぱり意志あるだろ化物、もし専門家の言う様に機械のようなもので意思のない生き物なら困惑した様に震えたりしないよ。
あと分かったのは、これだな。
「手の加護、温度にも適応してることがわかった。この実験は有意義だったな」
左手の軍手が半分くらいドロドロに溶けたけど、痛くもかゆくもない。酸によるダメージは分からないけど、とりあえず燃えても大丈夫な事は分かった。
でも待てよ? 両手が火に耐性があるって事は良い事だけど、もし全身燃えたりしたら……両手だけ燃えずに残るって事か? え……グロ!? 恩恵をしだいじゃ真面な形で死ねなくなるんじゃないか? いやだなそれ。
いかがでしたでしょうか?
最悪の未来に震える羅糸、彼の最期は手だけ残るのか五体満足か……。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




