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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第83話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「……20万、オーバー」


 借金が増えました。


「それにしても黒井さんか」


 治療費を肩代わりするぐらいに治験をしてもらいたいらしい奇特な人物である。見た目は何か怪しい研究をしていそうな高身長ガリガリ色白、と言うより青白いお医者さんだった。ご飯ちゃんと食べてるのだろうか。


「なんか変な人だったな」


 そんな変な人が俺に治験してほしい理由の一つが、短い間隔での連続使用についてのデータが欲しかったようだ。黒井さんはドロップ薬品を用いた治験薬の中でも連続使用可能な薬を担当しているらしく、普通ならそんな担当を用意しないらしいけど、人手が足りないらしい。


 さらに連続使用を想定していない担当が、短期間の連続使用で健康被害を出している影響で、彼の治験に問題を起こしているそうだ。その健康被害で連続使用を拒否する人が居ると言うが、そう言う事は初めに言って欲しかった。


「まぁいいや、スライムをどうにかする方を優先しよう」


 怪我は治ったし特に健康被害も出て無いから良いと言う事にしよう。お腹の傷は残ったままだし、懐は寒々しいが動かないと凍えてしまう。可及的速やかにあのスライムを攻略して先に進まねばならない。


「……なんだろう? 俺も何か変だな、こんなに負けん気あったかな?」


 自分の感情に思わず首を傾げてしまう。


「変わって来ているって、ことかな?」


 事なかれ主義の長い物には巻かれることに楽さを感じて、ずっと変わらないぬるま湯に浸かって居たいとか思っていたのに、変われば変わるものだ。


「百均で色々買って確かめて、最良の方法を探そう」


 現在は自転車の上で曇り空の生ぬるい空気の流れに身を任せて気が晴れない。キンキンに冷えた百円均一の店にそろそろ到着するので、少し長居させてもらおう。ただ、気をつけないと最近の百均は平気で500円の物も売ってある。


 若干高くなった治験薬は肩代わりしてもらったけど、それ以外の代金はしっかり財布から飛んで行ったのだ。早くガソリンを売って金を作らないと……死ぬ。


「お金はまぁ、ガソリン狩れば良いとして……特別何か効率的な攻略法は思い浮かばなかったら、当初の予定通りごり押しになるけど」


 ごり押し、まさに火力、火力は全てを解決してくれるのだ。自爆しないかがちょっと不安ではあるけど、まぁなんとかなるやろ。


「しかしなぁ? あの大きさのスライムが今後出るとなると、ここで足止めになるか? いや、倒せれば良いわけなんだけど」


 倒せれば何の問題もない。むしろ動かないのなら良い的でしかないのだが、気が付かずに接触したら一撃で10万以上の損害で最悪は死ぬ。ハンター過酷すぎだな。





「うーん、ハンター活動規制法案とな……」


 マイホームテントに戻ればまったりと、椅子に座って世の中のことに目を通し始めた瞬間これである。あちこちで問題になっているハンターの活動に規制を増やしたいらしいけど、どう考えても悪手。一般ハンターは何の問題も起こしてないわけで、問題はハンターじゃない人間がハンター活動を始めている事なのだ。


 俺なんも悪い事してないのに、C級が一番割食う規制とか勘弁してほしい。


「厄介だなぁ」


 厄介極まりないが、まぁ今はまだ考える事ではないだろう。その辺の事は協会とか偉い人が考えるだろうし、自分たちの足元をぐらつかせてまでアホな事は、しないと良いな。


「まぁいいや、今はこっちの方が厄介なわけだし」


 石の床に敷いた布製のシート、その上には百均から買ってきた物を並べていく。


「百均もこれだけ買うと高かったな」


 色々反応を見るために買ってきた百均グッズ、物流がうまくいかない状況でもハロウィングッズを並べているのは商魂たくましいと言うのか、どっから仕入れて来てるんだろう。


「光か振動かそれともまた違うものか」


 ハロウィンの定番カボチャ頭、中身がライトになっていて光るのだがLEDなので割と明るい。あと振動や音に反応するかなと思って鈴もいくつか買ってきている。関係ない化物が誘引されそうで少し不安なのでバッグに厳重保管しておく。


「ただ、攻撃が来たタイミングがかなり近い場所だったからな」


 あの絶対その場から動かないぞと言う姿、近接迎撃が基本スタイルなのかもしれない。化物の存在理由が分からないけど、あれって想像通りならアウトレンジから狙い放題だよね。


「とりあえず全部試すしかない」


 化物のことなんて何もわからないのだから何でも調べるしかない。最悪それで動き始めても逃げられるよう準備はしておこう。あの図体だ、普通に押しつぶされただけでも死ぬだろうし、スライムだから溶かされると言う可能性もある。


 てか、食われたら窒息か溶解のどっちか何だろうな……。


「そして秘密兵器? も作っておくか、ダイナマイトの導火線が長くて良かったな」


 今回のメイン火力である。その名も『ダイナマイト束ねたやつ』……そのままだな。


「一応導火線も作れないことはないけど、面倒だし危ないし、もしもがあったらここはガソリンの山があるからなぁ」


 万が一ここで火薬の加工して引火しようものなら大惨事である。大量のガソリンに大量のダイナマイト、下手したらホールが崩落するんじゃないだろうか? たぶんダイナマイトは200本は越えてると思うんだよね。


 あれ複数ドロップする時あるし、俺は何匹の腹マイトを狩ったんだろう。


「とりあえずこれで良いか……」


 六本分の導火線の先端を合わせてビニールテープでぐるぐると巻いて行き、そのままダイナマイトの本体もある程度揃えてビニールテープで巻いて一つにまとめてだけの物が出来上がった。


 導火線の先端を合わせているから大体同じタイミングで爆発すると思う。万が一爆発のタイミングがずれたりしたら、あっちこっちに飛散した後に爆発が起きそうで怖い。


「これ一個で倒せるかな?」


 六本束ねたから爆発力は6倍以上になるんじゃないだろうか、しかしあの巨体である。輪郭は見えなかったけど、たぶん家一軒くらい平気で飲み込むくらいの大きさはある。それを六本で爆破出来るだろうか……不安だ。


「もう少し本数増やすか」


 もっと増やそう。


 それからさらに十数分、新しく作り直したメイン火力が床の上に立っている。


「……できたは出来たが、これ爆発したらどんな威力になるんだ?」


 全然予想できない。


 一本でも土の床に浅いクレーターを作ったダイナマイトをこれでもかと束ねた、対巨大スライム用紐付き爆弾。あまりに大量に束ねた事で綺麗にまとめられて無いので球体の一部を引っこ抜いたような形になっている。これを更に束ねたら最終的に大きな球体になりそうだ。


「事前に? いやいや、いやいやうーん……」


 これを? 12本分だよ? スライムに飲み込まれたらスライムの体を爆発させるのにエネルギー持ってかれそうだけど、何も抵抗がない場所で爆発させたら俺が死にそうである。隠れても衝撃とかあるだろうし、いやでもそう考えると使うのが怖くなってくるな。


「何とかなるやろ」


 あれをどうにかしないと先に進めないし、うだうだ考えていてもしょうがない。為せば成る!為さねば成らぬの精神で行こう。意味はあまり解ってないけど、宝くじも買わないと当たらないって言うしな、やってみないと何も分からん。


「よし、明日の準備はいいな」


 準備は完了した。明日は先ず偵察と実験で、本番は明後日だ。しかし、ダイナマイトをこんなに束ねて爆破させた人って今迄に居るのだろうか? ノーベルさんはやったことあるんだろうけど、まぁそもそもこれって化物のドロップなんだよな。


 もしかしたら普通のダイナマイトとは何か違うのかもしれない。


「ちょっと早いけど寝るか、腕折っててなんだけど今日は疲れたな」


 考え始めたらすぐに不安が顔を出すな、弱気まで顔を出す前に寝てしまおう。


 あいた!? 痛いけどなに? ああ、シートの重しに使ってた割れメタルか。


「ちょっと散らかってるから、一段落したら片付けないと」


 もう疲れたし色々面倒事が終わったら片付けよう。とりあえずお前はテーブルに乗せておくか。


「割れメタル踏んだら絶対怪我する」


 寝る時は素足だし、寝惚けて踏んだら痛いだろうなぁ……。





 羅糸が明日の為に早めの眠りに着いている頃、勤務時間を越えても手を止めることなく書類の確認をしていた西野の下に、とある異常についての報告が届いていた。


「スライムが異常に増えている? この異常に増えているってどれくらい増えているの?」


「えっと、そうですね。壁際の地面の半分以上がスライムみたいな感じです」


 実に曖昧な報告に思わず眉を顰める西野であるが、警備担当の女性による補足説明を聞いて思わず目を見開いた。


 これまでのスライムは見渡せば何匹か揺れたり跳ねたり転がったりしているのを見かける程度、最近ではスライム狩りが流行っているのか取り合いが起きるくらいには少なくなっていた。


 江戸川大地下道の統括責任者と言う役職に就いたばかりである西野も、同様の認識であった為、予想を大きく超えた状況を耳にして声より先に表情が動いたようだ。


「そんなに? ……騒がしいわね?」


 努めて冷静に振る舞うが、彼女の中では不安が勝手に膨れ上がる。


 そんな彼女の耳にも届いた騒がしさ、何を言っているか解らないが外からは叫び声、また部屋に近付いてくる大きな足音に気が付くと、自然と警備の女性と目を合わせ首を傾げ合う。


「失礼します!」


「何かあったの?」


 明らかに緊急事態、入室マナーであるノックをしなかったことについて咎めるより先に用件を問う西野、彼女を見詰める職員女性は息を切らせ額には大粒汗を流している。


「それが、スライムを狩っていたハンターが、多数怪我、しまして!」


 第一報は多数のハンターの怪我、しかしその相手はスライム。これまでにもスライムによる怪我の報告は出ていたが、今の様に職員が慌てる事など無かった。


 しかしそれがまるで新人の様に顔を蒼くしている。普通ではない。


「え?」


「火傷を負ったハンターが逃げ帰って来たんですが、それに誘引されたスライムが階段付近に溜まってしまい警備も身動きが出来ない状況です。他のハンターがスライムを狩って避難の道を作ってくれてますが今も集まって来ていて……」


「……協会のハンターに呼びかけて駆除しましょう」


 スライムの大量発生、これまでに報告が無かった事態に対して西野は冷静に呟く。


 羅糸と話す時は優しい笑顔や少し自信なさげな姿を見せている彼女も、役職が付くだけの能力を持ち合わせている様で、職員に明確な指示を出しながら机に備え付けられた電話の受話器を手に取る。


 羅糸が強力なスライムに挑む準備を進めている一方で、江戸川大地下道ではスライムによる異常事態、関係があるのか無いのか、しかし確実に異界の深淵は人々にその姿を見せ始めていた。



 いかがでしたでしょうか?


 異界はその深淵見せ始めたが、果たしてそれは深淵なのか浅瀬なのか。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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