第81話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「顔を覚えて貰えて、奴も本望だろう」
手を振った先に居た警備員さんは直ぐに駆けつけ、顔の赤い西野さんと怯える大輔を見比べていたが、二人を見る目は対照的で大輔は顔を蒼くしていた。
ちなみにその後は施設内での軽率な行為を注意されて解放されていたが、女の人の冷たい言葉って怖いね。あまりに怖くて快楽に変換しようとする一部の界隈の気持ちも分からないでもない。
俺はちょっと楽しめないけどね。
「しかし、凄いな? こっちにレンズが自動で向くのか……」
今は異界のマイホームに戻って来て自転車撮影会中。
「ハイテクじゃぁ」
自転車のハンドル部分に固定されたカメラが、自転車の周りを回りながら撮影する俺を追いかけてレンズを向けてくる。これをハイテクと言わず何というのか、確かにこれなら多少激しく動いても問題ないだろう。まぁ自転車の近くで戦う事なんて滅多にないけどね。
ちなみに自転車を撮影するのに使っているのは、アクションカメラと言う小型のビデオカメラに棒が付いたやつ。なんだかこれも高性能らしいけどよくわからん。俺にとっては全部ハイテクである。他にもいろいろ持たされたが、全部使う事はないと思う。物撮り用セットとか言われたけどよくわからん。
「とりあえずテストでスケルトン撮って来るか」
当然相手は強化スケルトンで普通のスケルトンじゃない。浅い所で撮影とかする勇気はありません。絶対また盗撮されて晒されるのが目に見えている。
一斗缶とか缶バッタでも良いと言えば良いのだが、狩ってる姿を思い浮かべてあまりに動きがしょぼくて諦めた。どうせなら多少なり動きがある方が良いと思うんだよね。やるからには真面目に考えると言うものだ。
それに、手の内をあまり明かすのも嫌である。交換は悪用しようと思えば出来る恩恵だから余計に知られたくはない。悪用しようと思えばどの恩恵も出来るわけだけど、わかりやすい恩恵はあらぬ想像もしやすいからなぁ……。
「シュールストレミングバッタが撮れたけど、これは無しだな。缶詰がバレるのは困る」
缶詰バレはダメゼッタイ。
真っ直ぐ骨エリアまで行くつもりが途中でシュール缶バッタに遭遇、特に問題なく狩れたがこの部分はカットである。しかし、一応カメラにはランプとか点いてるんだけど、それには反応しない様だ。
これはいい意味で想定外、光に反応するバッタの特性上何か手を打たないといけないかと思っていたのだが、変わらずバッタは俺の胸めがけて飛んできたので、いつも通り打ち落として異臭を放っていた。
「炎上ドラム缶も撮っておくかな」
代わりのネタとしてはインパクト十分だろうけど、やっぱり一部はカットしないとな。交換シーンとか悶え苦しむシーンはこっちで削れるなら削っておきたい。
「ん? 来たか」
そうこうしていれば前方から音が聞こえる。骨エリアに入ってからはゆっくり自転車を漕いでいたのでそろそろだとは思っていたけど案の定、盾を槍で鳴らしながら歩いてきやがった。
自転車を止めれば槍と盾を捨てて暗闇からゆっくり姿を現し始める骨、演出凝ってませんかね? まだカメラには映ってませんよスケルトンさん。もう構えて待ってるし、俺が向かってくると予想でも出来てるような素振りでちょっとむかつく。
「この辺で良いな」
自転車を程よい距離に停めている間も動かず、いやちょっと待ちきれないのかジリジリ近付いてきている。
よかろう。ならば期待に沿えるよう激しく行こうじゃないか。
「さあやるぞ!」
慣らしは昨日で十分、体を動かした時の感触も朝に確認済み、ならばあとは拳を揮って感触を確かめていくのみ。いや、手刀の練習もさせてもらおう。
「……いくぞおらあ!!」
「クカカカカ!!」
俺の気合に反応する様に歯を打ち鳴らしながら重心を前に傾ける骨。
駆け出せば骨も同時に動く、駆ける速さは同じ程度、骨の動きは日に日に良くなっている気がするが関係ない。何故なら俺も成長しているからだ。
「おらおらおらおら!!」
「クカカカカカカッ!!」
打ち合った瞬間硬い音が鳴り響き、そして連続してパンチや蹴りが押し寄せてくるが、その全てを手で薙ぎ払う。
恐れることはない、ただ右からの攻撃に左手を合わせ、捻り上げられた体の反動で右手を振って左の攻撃打ち落とし、苦し紛れか下からの蹴り上げを左の手刀で突く。
常人なら不可能な攻撃も俺の手に備わった恩恵ならなん問題も無い。当たったのは左の指先と骨の膝、普通なら付き指なり爪が割れて血だらけになっているところだが、ぶつかり合った瞬間、甲高い音が鳴り響く。
体勢を崩された骨の懐へと、反動のまま体を捩じる様に回して飛び込むと、飛び込んだ勢いのまま右手の背を胸骨に叩き込み、立っていられなく骨へと体全体で引っ張り上げる様に振り上げた左の手刀を叩き込む。砕き切ったのは交差された骨の腕。跳ね飛ばされ立ち上がるスケルトンであるが遅い、踏み込み突き出した右手で勝負は決まりである。
「ふぅぅ……今日はこんなところにしとくか」
それから二時間ほど、骨と格闘戦を行っては自転車移動を繰り返したが、不思議と体の調子がいい。腰に巻いた革帯の重さも馴染んだのか気にならず、結局カーゴに置いておくことにしたバックパックが無い事で、昨日より上半身の動きが楽になった気がする。
「……うん、あれは出ないな」
右にふらふら左にふらふら、骨となるべく戦えるように移動しながら狩りを続けたが。今のところあの豪華な強化骨が出て来ることはない。お礼の一つでも言いたかったのだが、レアなのかユニークなのか、どちらかは分からないがそう簡単に出会える相手ではなさそうだ。
会わない方がいいんだけど、再戦したいと言う気持ちも無くはないのはどんな心情の変化なのか、次はお腹に穴を開けられないよう頑張りたい。
「今日の戦利品は骨キューブ多めか、まぁ今ならそれなりにお金になるから良いか」
各種買取品の値段は日々更新され続けており、それに伴ってハンター資格の取得人数も増えているが、独立を宣言した一部地域においてはその制度が機能しておらず、大量の野良ハンターが生まれているとか。
しかもその野良ハンターの一部は、独立宣言地域の外でも同様の活動をしているとかで、無免許ハンターが問題になっているとは大輔談である。そう言ったハンター達の中には大輔のライバル、要は動画勢や配信者がいるらしい。だから俺も資格証明書を動画の最初で見せる必要があるらしく、すでに大輔のカメラで撮られた。
そんな話を思い出しながら戻ったマイホームは凄く散らかっている。一応、それなりに片付けてはいるんだけど、寄せ集めただけと言った感じだ。石ころも適当にどけただけなので、今度箒でも買ってきてちゃんと清掃した方がいいかもしれない。
「そう言えば、ドロップに関して何か新しい情報は出てないかな?」
今日の収穫を段ボール箱に入れて椅子に腰掛けるとスマホを取り出す。狩りの間はスマホを見ないので一応の確認、何時もそこからダラダラと時間が過ぎてしまうが、テーマを決めれば少しは有意義かもしれない。
とその前に動画データを送ってしまおう。たぶんダラダラタイムに突入したら忘れる自信がある。
「データはちゃんと送れたみたいだし、後は大輔が何とかしてくれるだろう」
一応動画の中身を確認して要らない部分は削除してデータを軽くして大輔指定の方法で送る。あまり大きなデータはメールで送るとか普通の方法では送れないから仕方がない。
「うーん、ドロップ報告は結構あるけどあまり面白いのは無いな」
サクッとデータを送ってダラダラと調べ物をしていたが、面白い話はなかった。
少し消毒液臭くなった椅子を軋ませながら流し見たハンター系のTアカウントには、有用な情報は少なく、大半が自慢だったり収益動画の紹介、あとは集え若人と言う謳い文句のハンターパーティー勧誘の怪しいアカウントくらいだ。
「金ドロップ報告、食べ物ドロップ報告、宝石のドロップもあるのか」
中でも多かったのが高額取引ドロップの報告、どこどこで何が出たと言ったものがメインで、場所は伏せてこんなすごいものが出たと言う自慢がちらほら、中には本当にドロップなのか怪しいものまである。
「気になるのは食べ物系くらいかな? お金のことを考えると宝石とか金なんだろうけど、今は価値的にどうなんだろうねぇ?」
今の俺としては食べ物のドロップ報告が一番気になるところ、特に美味しい物なら是非詳しい情報を知りたいが、気のせいか地方の方が東京周辺より食べ物ドロップが多い様だ。これは余計に食糧事情に地域で差が出てしまうかもしれない。
「ん? この人は天然資源とドロップの品質評価してるな」
天然と言うかドロップと非ドロップの検証の様だが、非ドロップ品の事をこの人は天然資源と呼んでいるようだ。言い得て妙であるが、言いたい事もわからないでもない。お外の化物の残骸もドロップと同じように扱っているけど、どこから持ってきたんだろう。
「全体的に高品質であると考えて良いと言う事か」
検証している物を見るとドロップの方が全体的に品質が良い、物によっては用意した天然品の方がいい結果が出ている物もあるけど、全体の品質ではやはりドロップの方が良質の様だ。
割れメタルも何だかんだ安く買われているが、純金属は純度の高いスーパーメタルと言う物の可能性が高いそうだ。今の値段で売るのはあまりに勿体ないと言って嘆いている。……確かに鉄の割れメタル普通の鉄より銀色で綺麗なんだよな。
リサイクルタワーに入れるの、勿体なかったか。
「スライムキューブは特定のドロップを溶かす効果がある……こんなこと書いて大丈夫なのか?」
これってかなり重要な情報なんじゃないだろうか? 今の買取価格値上がりランキングは骨キューブとスライムキューブだ。この二つにさらに何か組み合わせることで話題の植物成長促進剤になるのでは? それだけとは限らないけど、スライムキューブは何かしらの中間材料になるって事だろ? もう色々試してる人が多いのか、関連動画が多くある。
惜しむらくはどれも核心部分は動画にしてないところか、みんな秘密主義だな。悪い事じゃないけど、もどかしい。
「鍵はスライムにあると言う事だな」
ただ、今から集めるのは、中々に至難の業である。なにせスライム狩りの人間が今は多い、これから集めるとなると必ず面倒事の一つ二つくらい出て来るし、投石とか絶対晒されるよな。
いかがでしたでしょうか?
スライムは思った以上に重要な化物の様ですね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




