第79話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「なるほど……貴様が儲けたいだけの話では?」
結論、どうやら大輔が儲けたいから手伝えと言う事らしい。
実際には色々俺の為を考えた計画を話していたが、その話の向こう側にお金の気配がちらつく。江戸川大地下道内での戦闘動画をネットに上げる事による中途半端に発生した知名度の向上と周知、それによる影響力で有象無象の嘘を黙らせようと言う事の様だ。
俺の影響力と動画編集主の大輔が影響力を持てば、こっちに対する擁護の声が嘘を凌駕するだろうと言う回りくどい手だが、効果のほど云々より発生する動画収入が目当てなのは明らかであろう。
「そそそ、そんなこと無いえ?」
よって貴様の言葉には嘘がある。
「ライアー」
「仕方ないんや! ニートのおっさんの日常をアップしても誰もみぃひんのや!」
認めるのもゲロるのも早いんだよお前は、テレ電に切り替えた所為で必死な大輔の顔面がスマホの画面いっぱいに映ってちょっと気持ち悪い。
何でも仕事を辞めてから動画投稿を始めたらしいんだが、今の世の中おっさんの日常に興味を持ってくれる人はいないのか、視聴されたことを示すカウンターの回りが悪い様だ。まぁ確かに俺も大輔の日常を見てくれと言われても、見ないだろうな。
そこで目をつけたのが最近熱いハンターによる異界の中の動画、自分で行って撮ってみようかとも考えたらしいが、怖いから俺に動画撮影を頼もうと思っていたところで炎上を見つけたのだそうだ。元からこの提案の為の電話だったと言うことだな。
「……一緒に遊んでたハーレムの娘たちは?」
しかしいつの時代もおっさんより人気が出るのは女の子、俺より圧倒的に女の子の知り合いや親戚が多そうな大輔である。そっちには頼めないのだろうか。
「はーれむ? ……餓鬼はだめやろ」
「それはそう」
どうやら出演させては駄目な年齢の子ばかりらしい。確かに電話の向こうから聞こえて来た声は、子供らしい高く良く響く声だった気がする。そうか、そんな幼女をたくさん侍らせていたと言う事か、事案ですね。
「悪いようにはせん! 頼む羅糸! 俺にはもうお前しか頼れるやつが居ない!」
「ダウト」
その言葉、実に疑わしい。
「……何故か聞いても?」
一瞬で表情が強張ったな。その顔は嘘がバレた者の顔ぞ。
「顔色?」
「くっ! 顔色まで作る事が出来なかったか……でもマジなんだよな」
うん、今は何となく嘘言っていない気がする。
と言うか、頼ろうと思えば頼れるけどそこに頼ると精神的ダメージがマッハで死にそうな顔をしている。お前、家族に頼りたくないだけだろ。
「言ってる意味は分かるが、動画撮影以外出来ないし、撮影も余裕ないから自転車に括り付けてになるぞ?」
別に頼まれればやらんことも無い。こちとら借金漬けだが暇や自由だけならたっぷりあるのだ。ただまぁ凝った事はまったく出来ないだろう。人生で動画を取った事なんてほぼ無い俺に複雑な事を求めてもらっては困る。
俺のスマホに入ってる動画なんて、親に昔連れていかれた発掘現場で見つけたフンコロガシくらいしか入っていない。スカラベと言って縁起が良いと言われたから機種変更してもずっと入れている。
効果は感じられない。
「むしろ良い! 臨場感がある。欲を言えばボディカメラが欲しいが、そっちはすぐに用意できない」
大丈夫らしい。まぁそれなら、今更顔が出ようが出まいが手遅れなので気にしない。何か問題があっても異界に引きこもれば良い、ここまで来る人間はそう多くはないだろう。
にしてもやけに元気になって、そんなに異界の動画は人気なのだろうか?臨場感。あるかなぁ。
「ボディカメラって、動きを阻害しなくて壊してもいいなら良いけど」
「……そんなに激しいのか?」
「最近はそうだな」
ちょっと前までは交換してダッシュの繰り返しだったので、正直動画にしてもつまらないだろうな。最近の骨との取っ組み合いはまぁ、まだ動くので戦ってる感はあるだろうけど、体にカメラつけてあれは、自分で言うのもあれだけど結構動きが早いから見ていて酔うと思う。
「大丈夫なのか?」
「…………」
視線を逸らす。ねーちゃん曰く、俺の顔は正直者らしいのですぐ嘘が分かるそうだ。だから俺は誤魔化す時は顔を見せないようにしているのだが、スマホの画面からじっとりとした視線を感じる。
今の状況はとても大丈夫とは言えない。
「おい何があった? キリキリ話せ?」
「……また十万程治療費と言う借金がね」
「また大怪我したんか!?」
音割れ叫び声うるさい。
まったくどいつもこいつも心配性だな、嫌な気持ちにはならないけどあまり大声で叫ばれても困る。音割れが耳に痛い。ちなみに、ねーちゃんだと誤魔化しが失敗した瞬間耳を摘まんで引っ張られるので別の意味で耳が痛くなる。
「いや、まぁ、そうね。ちょっとお腹に三つ穴が開いたくらいで怪我自体はそんなにひどくなかったんだけど、血がね?」
「マジで気を付けてくれよ、同僚の葬式とか行きたくねぇぞ」
クソデカ溜息がスマホから聞こえ得て来たが、これでも色々気を付けているつもりなのだ。大体にして俺が怪我するのはどれも不慮の事故すぎる。なので俺は悪くない、悪いのは異界、ひいてはこんな世界にしたあの白い空間の誰かが悪いのだ。
「あーじゃ来ない方向で」
「おい!」
そんな呆れた表情で睨まれても困る。しかし、考えてみれば俺が死んだ場合葬式とか上げてもらえるのだろうか? 異界で不慮の事故、しかもまだほとんど人が到達してない場所で死んだとして、果たして遺体は無事に見つかるものなのか。
そう考えると姉ちゃんに苦労を掛けそうなので、もうちょっと慎重に行動する必要がありそうだ。父さんと母さんはどっかで生きてるだろうし、最初に死ぬのは家族の中で一番若い身としては申し訳なくなる。
「まぁあれに関してはたぶんレアとかユニークな奴だから、普段は大丈夫、ちょっと激しめの喧嘩くらい?」
「マジか、やっぱやろう! 明日機材持ってくから、江戸川大地下道でいいんだよな?」
「本当にやるの?」
さっきまでのジト目はどこに行ったのか、目を輝かせて叫ぶと何やら部屋の中を駆け回りながら話す大輔。
大輔の家は結構デカい。ちょっと郊外の方にあるとは言え、部屋の中でアクション系のVRゲームをしてもどこにもぶつからないで終われるくらいには広い部屋が自室なのだから家も相当でかいのだろう。
実際に家を見た事は無いけど、広い庭もあるらしいので良いとこの坊ちゃんと言うやつなのではないだろうか、羨ましい限りだ。
そんな部屋を駆け回っている大輔がまたスマホの画面に現れるが、その手には色々抱えている。もしかしてそれが撮影機材とか言わないよな? なんだその黒くて太いポールは、ダンスとか出来そうな太さだぞ、そんな物持って撮影とかしないからな。
「上手く行けば働かなくても生きていけるぞ?」
「うーん、悩ましい。まぁ動画撮るだけ撮るから問題ないようにしてくれよ?」
何と言う殺し文句、所謂それは不労所得と言うやつじゃないだろうか? 社畜を辞めたにもかかわらず、今も体を酷使する事で食っている身としてはあまりに魅力的な言葉だ。提案を受ける以外の選択肢が無い。
そんな甘くはないのは分かっているけどね。
「任せろ、ビジコンは持っている」
ビジコン、ビジネスコンプライアンス検定の事であるが、大輔は上級を持っている。自分で奇跡が起きたと言っていたが、動画投稿にも役に立つのだろうか、まぁお金を稼ぐ目的なのだからビジネスと言えばビジネスである。
役に立たないことは、ないだろう。
「今までの仕事で活かせたことは?」
「無い!!」
「うちコンプライアンスって美味しいの? って会社だったからなぁ」
持っていても給料がすこーし増えるだけで、特別何かの役に立ったわけではない。何せ会社が率先してコンプライアンスを守らず何か問題があれば揉消していたのだから、そんな検定を持っていても役に立てる場面が無い。
あるとしたら、事前に問題のある部分を先んじて揉消すための準備ができると言う点だろうか? あとは法律守ってますよと言うパフォーマンスに使えるくらいだろう。
「とる意味あったのか謎まである」
「わかる」
言われたから一応検定を受けた大輔もこんな感じである。資格や検定は持ってるだけで意味があると上司は言っていたが、今の俺達にもその言葉は適応されるのだろうか、とてもビジコンがこの異界で役に立つとは思えない。
いかがでしたでしょうか?
コンプライアンスは大事です。ええ、本当は大事なんです。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




