第74話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ちわー」
「おお、久しぶりだな」
久しぶりに店長の声を聞く。相変わらずバチバチに固めた頭をしている。
血の汚れと言うのは中々落ちないし、だからと言って放置していたらいつの間にかあちこち血が付いてしまい、それからはアルコールとタオルを手に格闘することとなり、退院後から数えてもサステナブルマーケットに来るのは数日ぶりだ。
「ガソリン買ってくれー」
「おい頼む」
「はい!」
店員さんも店長も変わりなく、それはまぁ当然だが、最近の治安の悪さを考えるとそれが当たり前とも言い切れない。
あと俺が死ぬ可能性の方が圧倒的に高いと、この間自覚したばかりだ。高いとは言え治験薬が無ければ俺はすでに二回死んでるのである。この世は死にゲーだったらしい。
「……どうした顔色悪いぞ?」
そう考えると血圧が下がった様に感じる。どうやら顔色にも出ていたのか、店長が少し心配そうに声を掛けて来た。基本的には良い人なんだけど、顔面の問題と服装の問題で子供なら睨まれたと思って泣き出すと思う。
「うん、腹に穴が開いたからかまだ血が足りないかも、今日あたりしっかり食べるわ」
「あなぁ!? 何したんだ? 胃潰瘍か?」
確かに腹に穴が開いたと言われたら胃潰瘍を疑うかもしれない。日常で腹に指で穴開けられるなんて経験するわけがない。猛獣ならまだしも人間にはそんな力ないだろうし、相手は骨だからな。
異変で可笑しな世界になってその辺の常識は健在だ。まだまだ穴を開けられたと言って化物にまで思い至る事は少ないと言っていいだろう。だが俺の腹に穴を開けたのはスケルトンである。あと血が足りないと感じるのは事実なので、気持ちが落ち込んでなくて顔色が悪いんじゃないかと思う。
「いや、腹にぶすっと手刀が刺さった。指三本分の穴だったらしい」
ちなみに結構大きな穴が三個、三カ所? 縦に並んでいたらしい。とても人の指が刺さった様なサイズじゃないと聞かされた時、あれってあの骨の必殺技とかそんな感じの技なんじゃないかと思って背筋がぞわっとした。
「おいおい!? 大怪我じゃないか、入院してなくていいのか?」
「…………その治療費を稼がないといけないんだ」
「……ま、まさか。またあの高額治療薬か?」
その答え、イエスだね。
ふふ、店長の勘は冴えてるね。店員君も俺の表情で察してくれたのかな? それとも僕と一緒で血が足りないのかな? 気にせず君は僕の財政の為にもお会計をしてくれたまえ……なに、色を付けてくれても構わないだよ。
むしろ付けろください。
「寝てる間にさっくりと使われたらしい。いやまぁ出血性ショックで全身炎症が窮迫しちゃってたとかでよく解らないけどやばかったらしいから、仕方なかったぽいんだけど……ね」
「おま、それ姐さんには秘密にしとけ?」
「まぁ心配されたくはないから言わんけど」
言わない。絶対言わない。言ったら何かすごく心配されて軟禁されそうな予感がする。それが無くても毎日顔を見せろとか無理難題を言いそう。昔ねーちゃんの目の前でこけて頭から血を出す怪我をしたときは、それから完全に傷が治るまで毎日家に来ては俺の頭を確認していたくらいだ。
小学生の頃の話であって今は大人とは言え、死にかけたなんて言ったらどんな反応するか解らない。そのくらいねーちゃんは俺に甘いんだけど、なんでなんだろう。
「いや、まぁそうだな……」
店長はなんだか歯切れが悪そうに呟くと溜息を洩らしている。
「血が足りないなら肉っすよ!」
どうしたのか聞こうと思った瞬間店員さんが視界にイン、どうやらレジ打ちが終わったらしいけど、視界外から突然現れるのはびっくりするのでやめてほしい。心臓がキュッとなる。
しかし肉か、肉は大事だな。でも今の俺には肉を食べると言う選択は無いので、美味しい魚の缶詰で代用するしかない。
「魚の缶詰があるからそれで補給するよ」
あれはあれで良い物のだから不満は無いが、肉の缶詰を出してくれる化物が居たら俺はその化物を狩りに遠出するのもやぶさかではない……だめだ、遠出する金が無かった。
「ヘルシーっすね? 俺ならやっぱ焼き肉屋っす!」
「あほ、羅糸はその金もねーんだよ」
「ぁ」
その察しましたって顔はやめようか店員さん、地味に心が痛くなる。あとその哀れみに満ちた目も止めてよ店長、元が怖いんだから品定めしている様にしか見えないよ? あんな目で見られたら若い女性とか逃げ出して通報するんじゃないかな。
とりあえず通報するか、罪状はなにがいいか。
「事実陳列罪で訴えて良い?」
「まぁ元気出せって、いい知らせがあるぞ?」
「良い知らせ?」
事実陳列罪と言う罪状は無いので訴えられないけど、いい話とは何だい? 普段は警戒心が高い羅糸君も、今ならほいほいとついて行ってしまうくらいお金に飢えてるからね。あまりに飢えすぎていて危険だから手を噛み千切られない様に注意してほしい。
何その書類? 黒い契約書です?
「ほれ、新規買取表かっこ仮だ」
「仮なんだ……ずいぶん値上がりしたね?」
これは普通においしい話だ。買取価格が最大で10倍とかになってる。骨キューブなんか暫定価格で場合により時価で上乗せって書いてあるんだが、ちょっと怖いくらいの値上がりだ。
ちなみにガソリン価格はほぼ変わってない。なぜだ。
「色々あってあちこちが積極的に購入していてな」
「いろいろ?」
ちょっとその色々は気になるけど、聞くのも怖いな。こんなに価格変動が起きるなんて、原因の中心が良い話とは思えない。
「……北海道が色々あれだろ? それで東京に全く農産物が入って来なくなったんだ」
「うわぁ……」
やっぱり良くない話だった。ただでさえ海外からの輸入食品やらなにやらが無い状態でさらに北海道からの食品まで回って来なくなるって、相当大変な状況なんじゃないだろうか、缶詰のこと教えた方が、いや……教えたらそれはそれで余計に不味い事態になりかねない気がする。黙っておこう。
「それで関東でも農作物の生産に力を入れるってんで骨がまた特需さ。ついでに特殊な利用方法によって作物が急成長するとかで関連ドロップが高騰中だ」
「スライムキューブもこれで暫定?」
骨キューブによる農産物の化物化対策は知っていたけど、特殊な利用法はとても気になる。骨は結構溜まっているのでいくらでも実験できるが、このスライムキューブが暫定と言うのも気になるな、元々全体的に高騰していたけど、さらに上がるって事だよな? これ……。
「かなりの勢いで高騰中だ。まだ上がってる」
やっぱり。これはまた、大変なことになるぞ? 今でも結構浅い所のハンターが増え始めたのに、一時期減ったけど俺が入り始めた時より今増えてるんじゃないかな。
そこにさらにハンターが増えるとして、今の価格を知ったハンターが大人しく売るかな? ましてや管理協会の価格はあれだし、最近は気にして見てないけど果たして買取価格が上がっているのか。
「それって、出し渋るんじゃない?」
これから上がる可能性があるなら、今は売らないよな。この価格表も暫定とか変更の可能性とか書いてあるし、俺なら売らない。と言うか売れるものも少ないわけなんだけど、ダイナマイトとか、ダイナマイトとか、ダイナマイトとか……どうするよ。
「良く分かってるじゃないか、その所為で余計に高騰中だ」
「骨とスライムキューブか、どうやって使うんだろう」
この料金表を見ていれば察することができる。たぶん成長促進用の何かに使うドロップの内二つは骨とスライムキューブだ。全体的に随分と上がったけど値段の上がり方がこの二つだけ異常である。
スライムキューブの価格は10倍になって尚も上がる兆しがあると来た、何かありますと言っているようなものだ。使い方が分かれば、いやもう一部には漏れてるからこその高騰と言う事か、羨ましい。
「色々研究してる奴はいるが、飯の種だろうからな」
「独占かぁ……まぁしょうがないのかな?」
成長促進と言うくらいだし、それに思った以上にファンタジーなドロップだからな、独占しないといけないくらいにやばい性能なのかもしれない。そう言えば俺もやばい性能のドロップ? をゲットしてたんだった。ただ、明るめで少しくすんだ青い色の作業服に合わないんだよな。
「秘密なんてすぐ洩れるもんだからすぐに落ち着くだろうがな」
そう言えばここに書かれてないドロップで売りに出しても問題ないのがあった。あれも結構溜まってるから売れるなら売ってしまいたいんだ。
「石炭は?」
「そっちはまだわからん。んが、なんでも燃焼持続時間と燃焼効率が普通じゃないらしくてな、まとまった量なら火力が買ってくれるだろうだとさ」
「ほう‥‥‥」
重油缶は当初から変化無くずっと石炭を出してくれるので、買い取って貰えるなら是非とも買い取って欲しい。ただ、纏まった量と言うのが問題だな、もし単位がトンなら面倒だしリサイクルタワー行きでも構わないと言う結果になりかねん。
Eマネーがどれくらい貰えるか解らないけど、今は少しでも円が欲しいから、詳しい結果が出るのを楽しみにしておこう。
いかがでしたでしょうか?
羅糸の手札はまだまだガソリンだけになりそうですね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




