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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第73話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「どうして……」


 どうしてなんだ……どうしてそんな酷い事を。


「緊急措置です。前回の事もありますので継続治験と言う事で前よりかは安くなりますので……」


「ぐぬぬぬ……」


 またも俺が寝ている間にあの高級治験薬を使うなんて、言っている事は正論すぎてなんも言えね。


「ただ、なぜか今回の傷は治りが遅い様で、何か特別な事はありませんでしたか?」


 何があったかと言うと話は簡単、あの超強化よくわからないスケルトンとの激戦によって穴の開いた腹から垂れ流した血の量は、甘く見積もっても致死量。全身火傷の時にも担ぎ込まれた総合病院に着いた頃には出血性ショックが進行していたとか言われた。


 全身性炎症反応症候群とか、急性呼吸窮迫症候群やら説明されたがよくわからない。とりあえずすぐにでも治験薬を投与しないと死んでいたらしい。しかも治験薬投与後もすぐには症状が改善せず、特に穴に開いた三つの穴の塞がりが悪かったそうだ。


 普通なら逆再生する様に塞がると言われたが、わりと気持ち悪そうな絵面である。


「特別ですか? ……まぁ戦った化物が特殊でしたけど、それが関係あるかどうか」


 特別とか言われても医者ではないのでさっぱりだ。それ以外だとどう考えてもあの骨だろう。ゲームとかだと治療阻害とかデバフは良くあるが、もしかしたら化物にもそう言う特性があるのかもしれない。


 そう説明したところで医者がなるほどとは思わないだろうし、言わないでおこう。白い目で見られたら心が死ぬ。体も治りきっていないのに、心まで死んだらきっと命が危うい。病は気からと言う言葉は割と結構真理である。


「……特殊固体かもしれません。これはオフレコなのですが、自衛隊でも薬品の効果があまり出ない怪我を負った方々が居ます。そう言った場合必ず怪我の原因が特別強力な個体らしいのです」


「うわ、知りたくなかった」


 こいつ山本のおっさんと同じタイプだ! オフレコとかここだけの秘密とか言って聞かせなくても良い事実を教えて悦に浸るタイプだ。俺は山本のおっさんで学んだんだ、こういうタイプは優秀だけど癖が強くて扱い辛い人種だって……。


 でも、その話ならデバフの可能性はあるのだろうか? 実際のところは分からないけど、あとでTでも似たようなことが呟かれていないか調べてみよう。今後の自分の安全の為にも……。


「ただ症例が少ないのでまだ謎が多く、今回の治験は非常に価値あるものですよ!」


 なんで嬉しそうなんだよ。


「……支払いは待ってもらって良いですか?」


 こっちはまた高額支払いで胃まで痛いと言うのに、ちなみに内臓に穴が開いたりしてはいなかったらしい、出血性ショックが進行すると多臓器不全で死ぬらしく、一歩手前だったと言われたけどその辺はちゃんと治療できているはずとのこと……不安である。


「ええ、大丈夫です。私の方で言っておきますので」


「ありがとうございます」


 ちょっと安心である。


 もうそんなに金が無いのだ。いくらガソリンが良い感じに売れているとは言え、それなりに日々出費があって貯められる段階ではない。


 緊急治療とか治験協力とかでなんか色々あって支払いは待ってくれるそうだが、あまり遅いと取り立て屋とか来るんだろうか? ちょっと不安が増した。


「……はぁ」


 顔見知りになってしまった医者は軽い足取りで居なくなったが、こっちはまったく気持ちが楽にならない。


 これからの事を考えれば考えるほど鬱になっていく、最悪ねーちゃんか、もしくは姉ちゃんに泣きつくしかないのだろうか、それは男として越えてはいけないラインな気がする。なので頑張って稼ごうと思う。


「貰った帯、消えないな」


 重症と要観察と言う事で個室を貰ったが、窓辺のテーブルに骨から貰った赤い帯が置かれている。こんな経験は初めてだが、消えないならまぁ儲けものと言っていいんだろうな。ただどうにもただの革と布ではないらしい。


「ハサミでもメスでも切れない帯か、最高じゃないか」


 最高であるが同時に怖くもある。


 作業服は全部切られて修理も着用も出来ないので廃棄してもらったが、帯はハサミだろうがカッターだろうがメスだろうが一切切断できなかったそうだ。その所為で処置が遅れて本当に焦ったと言われた。


 固定する赤い布の帯は作業着の布地より薄く、幅が広いため纏めると道着の帯の様に厚くなるが、それでも柔らかくハサミで切れないようには見えない。


「ふぅ……いろいろな意味で良い戦いだったな」


 それだけ丈夫なら今後は狩りの時に装備していた方がいいだろう。若干呪われて無いか気になるが、脱げると言う事は大丈夫なんじゃなかろうか? そう思うと、死ぬまで脱げなくなる仕様のゲームを思い出して鬱になる。


「……次会うことがあったら、お礼でも言っとくか」


 未だになんで化物の気持ちが分かる様な気がするのか分からないが、そんなに間違いでも勘違いでもないんじゃないかと思う。じゃなければ、あんな優しい手付きで身体を支えてはくれないだろう。


 生前の何かが解消でもされたのか、あの格闘戦好きの骨達も元は人だったのか、考えれば考えるほどよくわからない奴らだけど、また逢えたらと思ってしまった。次は腹に穴開けられないようにしないとな。


「でもドロップが無かったんだよな、この帯がドロップって事なのかな?」


 特殊固体なのかレア固体なのか、ドロップも普通の出方ではないのか、わからない事ばかりだが、とりあえず生きているのでヨシッ! と言う事にしておこうと思う。傷もゆっくりだが普通なら考えられない速度で塞がり始めてるそうだから、入院も長くはならないと思うし、退院したらまたすぐ狩りに出たいと思う。


 喉が渇いた。


「うっ! つぅ……」


 うぐぅ!? 痛い! こんなに痛かったか? 地下道を自転車で走っていた時はこんなに痛くなかったような? アドレナリンのおかげか? しかしこれでは水が飲めない。


「望月さん大人しくしていてください!」


「あ、はい……」


 怒られました。


 何とか水を飲めないか、痛くない態勢を探しつつ水差しが置かれたテーブルに手を伸ばしていたら、最近は看護師と呼ばないと怒られる看護婦さんがやって来て叫ばれ、何のためのナースコールなのかと滾々と怒られてしまった。正論すぎて何も言えないが、水飲むだけでも呼ぶと言うのは、申し訳なくて結構勇気がいる。


 と、心の中でだけ言い訳させてほしい。





「僅か3日、帰って来たが……血だらけじゃないか」


 入院期間三日、替えの作業服を買って来て貰って出費が増えた俺を待っていたのは血だらけのマイホーム。と言うか、東側地下道入り口から点々と続く血痕と血濡れの椅子に、俺があちこち触ったのであろう血の手形。知らない人が見たらホラー以外の何物でもない。


 もしくはパニック映画、あれもホラーか……。


「まぁいいか」


 ちなみに自転車もホラー仕様で汚いけど、全部アルコールで拭けば落ちるだろうから問題はない。血液自体も自分の血なわけで、自分で使う分には別にどうと言う事はない。これが他人の血ならちょっと身構えるけど、ベッドは綺麗だし、洗って乾かす間しばらく椅子を使わなければいいのだ。


 それよりお金だ、財布の中が寒い事になっている。


「治療費と入院費は待ってもらえてるけど、自転車の駐輪代が地味に痛いな」


 緊急時と言う事で自転車は管理事務所の人によって駐輪場に停められていたけどあそこは有料、三日間の金額は結構なお点前でした。


 高性能な駐輪施設なので誤魔化しも効かない。いやまぁ誤魔化しはしませんけどね。


「稼がないと……」


 ガソリンはまだちょっと在庫があるのでこれを売って、他に売れそうなものはそんなにないから、一斗缶とドラム缶を狩りに行かないといけない。


 今ならスライムとかスケルトンでもそれなりに稼げるけど、その分人が増えてそれも難しいのだ。と言うか、人が増えている所為で俺の醜態も結構な人間に見られたと思う……Tを見るのが怖い。また晒されていないか不安になってしまう。


「そう言えば地震」


 Tと言えば地震である。


 最近は地震速報もテレビよりSNSの方が早い時代なわけで、詳細についてもSNSを探せばすぐわかるのだが、思い出して探してみてもあの日はどこも揺れてない。と言うか、異変からこっち日本の地震件数はとても少なく、一部では大地震の前触れではないかと騒がれているとかいないとか。


「どこも揺れてない」


 何度検索してもどこを調べても、あの日あの時感じた震度4以上はありそうな揺れの情報がない。それは同じ江戸川大地下道内においても同様に情報が無い。


 どうやら揺れたのは俺の居たあの場所だけの様だ。


「…………もしかしてあのスケルトンが出たから異界だけ揺れた?」


 その可能性もある。あるにはあるのだが、特殊固体とやらの報告自体非常に少ないので、揺れと特殊固体を紐付ける情報も無かった。


「ユニーク固体、レア固体」


 一応それらしい検索ワードで調べるも、それらしい情報はない。Tの動画で特殊固体やユニーク、レアなどと呼ばれている化物情報が出ているが、それほど変わっているようには思えず、コメントにも否定的な声が多い。


 確かにしっかりした装備を身に着けたスケルトンは珍しいけど、青山霊園地下大墳墓では普通に出て来たからな。動画に出ているスケルトンもあれらとよく似ているし、なんだったらここの強化スケルトンの方が綺麗な装備まである。


 俺を見た瞬間、武器投げ捨てて殴り掛かって来るけど……。いっそここの強化スケルトン全部異常固体と言っても良いんじゃないだろうか。


「しばらくゆっくりするかな」


 ベッドに座ってスマホを置くと疲れが肩に伸し掛かる。


 このあとの掃除やなんやかんやを考えると気が重い、それでなくてもここの所なにか出来ないかとドロップを広げて散らかっている。余計に怠い。


「いや、痛みは引いてきたし、少しは体動かさないといけないな」


 うん、外に出なくても異界内で出来る事はやっておこう。先ずは自転車のカーゴに放り込んだ荷物を出して、折角骨から貰った帯も干しておこう。


 あれだけ血で汚れた筈なのにまったく汚れた形跡がない可笑しな帯だが、今後の俺の狩りには必須の装備。大事に扱わなくてはいけない。


「そして積み上がるダイナマイト……あと石炭。なぜだ。灯油缶も出ているが、圧倒的にダイナマイト」


 あと片づけようと思っていたその他もろもろ、あの日カーゴからとりあえず外に出したドロップは血で汚れてホラーグッズになっているので、それもどうにかしたいところだ。


 しかし、床のあちこちにダイナマイトが転がっていると言う状況は、いくら踏んで爆発しないと言っても怖すぎる。先ずはこれから片付けよう。


「赤い布も溜まって来たな」


 普通のハンカチより少し大きな布、朱色に近い赤色の布には全く値段が付かないので不良在庫である。


 縫い合わせればまぁベッドシーツくらいにはなりそうだけど、裁縫はそれほど得意でもない。苦手でもないのでやろうと思えば何かしら作れそうではあるけど、時間も掛かるし今のところ作る必要がある物も無い。わりかし綺麗だけど、洗濯もしないといけないだろうし、色落ちとか気にし始めたら全てが面倒になって来た。


 駄目だ、動いた方が良いと思ってもやる気が出ない。今日は美味しい缶詰めでも食べて休養する方がいいかもしれない。とりあえずちょっと寝てから考えよう。


 こんな簡易ベッドでも、疲れていれば天国だな。



 いかがでしたでしょうか?


 空腹が最大のスパイスである様に、疲労は最良の睡眠導入剤なのかもしれません。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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