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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第72話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「おらあ!!」


「!?」


 突き出された拳に纏わりつく骨片、吹き飛ぶスケルトン、飛び散る糸くず。


 ここ数日で更に草臥れた作業服が俺の戦いの記憶である。買い換えないと……。


「勝ち!」


「……」


 だがその意味は確実にある。何か腕を上げようとしていたがそのまま沈黙して崩れる骨は直ぐに黒い塵を噴き出し始めた。


 スケルトンとの格闘戦にも慣れたもので、今じゃ殴られることも少なくなって大体は拳で打ち返している。


「ふぅぅ……今日はここまでだな」


 慣れたと言っても楽にはなって無い。最初の緊張感が良い感じに抜けて体の動きは良くなっているが、気のせいかこのスケルトンも動きが良くなってきているような気がするのだ。


「ここ数日一気に進むスピードが下がったな」


 最初に会った強化スケルトンはもっとこう、骨らしいぎこちない動きがあったのだが、最近明らかに当初と動きが変わって来ているのだ。その所為で腹マイトエリア以上に進みが悪くなっている。


「てか、こいつら絶対に集団意識的なものあるだろ、じゃなきゃ俺を見た瞬間、盾と槍捨ててステゴロで走って来ねぇよ」


 俺を見つけた瞬間の行動が絶対におかしい。こっちはステゴロ戦法前提で戦いに挑んでいるから何も持ってないのは当然だが、俺の姿に気が付いた強化スケルトンはどいつもこいつも手に持っていた盾と槍を放り投げるのだ。


 しかもただ捨てるのではなく明らかに戦いの際に邪魔にならない遠方へ、さらに腰に下げている予備の槍や、たまにナイフや剣を持ったスケルトンも居るんだけど、そいつらもすぐに全武装解除、その後決まって同じような構えで向かってくる。


「それとも相手が武装してないとこうなのか?」


 会う度、戦う度にその一連の行動がスムーズになり、どの骨も流れる様に格闘戦に移行するので最近は缶シリーズにしか交換を使っていない。


「今日の収穫は赤い布が3枚と骨キューブが4つ、あとダイナマイトが5個と石炭が4個」


 しかも骨を狩った数より道中で遭遇したジュース缶シリーズの方が多い始末、あれだけダイナマイトが山盛りになるまで狩ったと言うのにまだ出るのだ。


「うーん、ジュース缶シリーズが減らないな。異界の化物がどういう生態かなんてわからないけど、ここまで枯れないのはドロップの扱いに困るな……?」


 このままではマイホームより大きな兵器保管庫が必要になってしまう。そんなものまで用意する気にはならない。特にこの先で新たな安全地帯が見つかればそちらに移動するつもりでいるわけで、荷物は増やしたくないが増えていく。


 ある意味、骨は骨キューブ複数と謎の布を出すだけなので良いとすら思えて来た。そう複数の骨キューブ、少し大きめ骨キューブがの確率で2個、偶に1個や3個の時がある。謎の赤い布は分からないが、骨キューブはまた値段が上がり始めたので近々溜まっていたガソリンと一緒に売るつもりだ。


 ん? ……眩暈? 疲れが出たかな。


「なんだ? ……おおっと!?」


 いやこれ地震だ!? 異界でも地震起きるのか、姿勢を低くして頭を守って……天井崩れて来たらひとたまりもないんじゃないかこれ? おおお? まだ揺れる。


「結構デカかったな……ん?」


 震度4くらいありそうな揺れだったけど、あれはなんだ? 視線の先で何か揺れてる。


「クカカカカ……」


「おいおい」


 骨だ。でもあれはただの骨じゃない。明らかに強化スケルトンをさらに強化されたような出で立ちだ。


 ここの強化スケルトンの装備は投げ槍複数に欠けた月の様な丸楯、それに布の服と言った姿だ。腰には帯の様に赤い布を巻いているいるが、目の前に現れたスケルトンはだいぶ厳つい姿である。


 手には身長より長く丈夫そうな金属製の槍、反対の手にはほかのスケルトンより二回りは大きい盾、この楯も欠けた月の様な形をしていて頭には羽飾り付きの兜、服は布製で腰にはどっかの狩猟ゲームに出てきそうな前が開いたスカートの様な腰装備。


 真っ赤な色のそれは革だろうか、全体的にゲームの中盤以降に出てきそうな装備だし、なんだったら火を噴く竜の素材で作りそうな雰囲気だ。


 あ?


「ってお前もかよ! なんでそんな立派な武器と盾持ってるのにすぐ手放すんだよ!」


「……」


 あっと言う間に槍と盾を放り投げて武装解除、流れるようにどこからか取り出した赤い布を拳に撒くスケルトン。知ってる、あれはバンテージだ、殴り合いをするときに拳を保護したりパンチの威力を上げたりする格闘技には必須の装備だ。


 どう考えても殴り合いを所望、しかもまだちゃんと立てていない俺を待つように静かに立って待っている。所謂仁王立ちと言うやつだ。構えすら取ってない。


 ゆっくり立ち上がる。どこか満足そうに頷いて俺を見ているようだが、まだ構えをとっていない。なんだその目は、伽藍洞の奥で輝く青い光には明らかな戦意がある。俺にはそう見えた。


 訳が分からない


「いや、もう……化物って何なんだ」


 どう考えても相手の雰囲気は好敵手と対峙する人のそれだ。俺が好敵手になるかどうかは別として、今時珍しい正々堂々とした戦う者の姿がそこにあった。


 答えないわけには、行かないだろう。


「カッ!」


 今日はもう疲れているので帰還を考えるタイミングだ。万全では無いがだからと言って戦えないわけじゃない。ならばやるのは身軽になる事、腰のバッグを外して放り投げ、靴紐をきつく結び直す。


 その間も目の前のスケルトンは動かない。地下道が異常に静かに感じる。


「今日はもう疲れてるってのに……やったらあああ!!」


「クカカカカ!!」


 嬉しそうに歯を鳴らしやがって! ここのスケルトンはみんな殴り合いが好きすぎだろ。こちとら武装が出来ない身だと言うのに、こいつらは自分たちから武装を捨てるのだから度し難い。


「豪華な兜被りやがって!」


 駆け出せば相手もすぐに駆け出し拳を突き出してくる。拳の背でその鋭利な骨の拳を受け止める様に往なせば、目の前で揺れる白い羽の飾りが付いた兜。目の前で見てわかったけど、革製の兜には布や宝飾品で装飾がされていて、まるで母さんの書斎で見たどっかの戦女神が被ってそうな兜だ。


 まぁあのポスターは考古学とは関係ない母さんの推しのゲームに出てくるキャラクターらしいけど、その辺は夫婦でちょっと違う。


「うぐっ!?」


 くそ、余計なこと考えていた所為で受け損なった。


 拳で受ければ痛くもなんともないけど、それ以外で受ければ普通に痛い。これが槍や剣なんて言うは物なら肩から先が無くなっているところだ。


 それでも動けるって事は、多少なりとも体が頑丈になって来ているのか、それとも単純に手加減されているのか、なんか腹立ってきた。


「他の奴らと違って良いパンチしてんじゃねーか!」


 だが明らかに今までのスケルトンとパワーが違う。強化スケルトンならパンチを受けても痛いだけだが、こいつのパンチはしっかり踏ん張らないと体が跳ね飛ばされそうになる重さがある。


「クカッ!」


「嬉しそうに笑いやがって! ここのとこの殴り合いでお前らの表情が分かる様にっ、なっちまっただろうが!!」


 俺の勘違いなのか分からないけど、骨しかない相手の感情伝わってくるような気がするのは、よくある拳で語り合うと言うものなのか、いや……口を開けて歯を震わせている姿が笑っている様に見えるだけだろう。そうだと思いたい。


 だが何ともむかつくくらい嬉しそうな顔に見える。


「グカッ!?」


「ずいぶんと骨太な野郎だ!」


 チャンスだと思ったのか大振りになったタイミングで右のフックをわき腹に突き込み、大振りで加速が付き切らない腕は反対の掌で受け流す。最近出来るようになった両手の使い方だがうまく決まったのかスケルトンお口から変な声が漏れた。


 どう考えても人のそれだ。人のそれでは無いのは俺の手だろうな、こんな尖った骨しかない腕を手の平で滑らせる様に受け流したら今頃手は切り傷で血だらけになっているところだ。だがそうはならない、まったくの無傷、交換より役に立つのがこの手の恩恵だろうな。


 どうせなら全身がこんなならよかった。なぜなら、


「……!」


「ぐえ!? ……はぁはぁ」


 こうやってボディに膝蹴りを受けても痛くなかっただろうからだ。


 くっそ、骨のくせになんつぅ威力、体が一瞬浮いたぞ。


「なんだ、急に動きが良くなりやがった」


 距離が離れて相手の顔を見上げれば少し怒った様に見える。訳が分からないが本気モードってところだろうか、だがこっちだって負けてられない。何せ命がかかっているのだ。ゲームみたいにセーブロードなんて洒落た機能は人生に無い。


「だが負けるわけにはいかないんだよ!!」


「オラオラオラオラオラオラッ!!」


 手数! 手数こそ勝機! あらゆる面で負けているのだ。速攻以外に勝てる要素が無い、こっちの拳は劣化しないのが取り柄だからな。


 俺の右手の突きを往なして反対の手で殴りかかって来るが、その拳めがけて後ろに引いていた拳を突き入れる。乱暴で良い、受け流された腕も伸びきる前に乱暴な動きで引き戻す。


 格闘経験者なら不格好な攻撃だと言うだろう。しかしそれは人間にとって不合理な動きだからだ。しかし俺の手は人らしい手ではない、傷付かない不思議なおててだ、引き戻すついでに手を広げながら手の背で相手の腕を押し返し動きを阻害、僅かに出来た隙間から拳を突き込んで相手の拳を殺す。


「……クカッ」


「ははっ! 俺の拳は最強だぞ!」


 驚いたような声が聞こえた。どこまでも人間らしい骨だ。


 拳を突き出す度に反対の手を突き出すため力をためる。腰から回して全力で振り回す。もしこれが普通の体なら拳の痛みで動きが鈍るだろうが、俺にそんな恐怖はない。拳で殴り掌で受ける以上痛みはない、攻撃こそ最大の防御、最近理解した戦い方だ。


「!?」


 体を捻れば捻るほどパワーが増す。きっと明日は筋肉痛で起き上がれなくなるだろうが、そんなこと関係ない。今やらなければ痛みを満喫することもできないのだ。


 右足が前、左足が後ろ、右腕は最大まで引き絞られ相手の左腕は大きく上に跳ね上げられている。隙である。それが誘いであれ、偶然であれ、明確な隙、狙うは左鎖骨、そこを狙えば首の骨まで真っ直ぐ突き刺さる。倒せなくて致命傷にはなるはずだ。


 もう何も考えない。


「うおおお!!」


 ただ右腕に全力を籠めて殴るのみ。


「っぅ……刺さるのかよ」


 完璧だった。完璧なタイミングで突き刺さった俺の拳は骨の鎖骨を砕いて背骨にまで達している。そこから骨が更に砕ける様な感触が伝わる。


 同時に左の腹が熱くなった。


 見れば骨の右手が槍の穂先の様に腹に刺さっている。流石に鋭利な指先の骨、良く刺さるようだ。


「……クカカ」


 見上げれば骨が歯を噛み合わせて笑っている。それだけ、左腕は骨が砕けたことでうまく上がらない様だ。あとはこっちが左の手で殴ればいい。


「でもこの距離ならもう……? あ?」


 左の腹から引き抜かれる骨の手、痛いけど痛くない。頭が良い感じに沸騰してるみたいだ。


 上手く左腕に力が入らない。入らないのだが、骨も両腕を下げて戦う様子ではない。しかも腰の帯と言って良いのだろうか、赤い腰装備を外し始めた。


 それから数分、俺はなされるがまま、スケルトンの可笑しな行動を受け入れる。なぜなら相手に戦意はなく、体からは大量の黒い塵が噴き出しているのだ。死体撃ちはマナー違反である。


 と言うか、疲れて立っているのが精一杯だ。スケルトンの手付きもどこか優しい。


「赤い帯? まぁ赤い帯なら血の色も目立たない……いやいやなんで?」


 スケルトンの腰装備は帯と言っていいだろう。前部分が無い革のスカートは、縫い付けられた幅の広い赤い布で腰に巻いて固定、前で結ぶのはまるで柔道の帯の様だ。昔、学校の授業で結んだことがあるが、あれより柔らかく広く薄い布は、しかし結び終えるとお腹を広い範囲で抑えてがっちりと背と腹を押さえる。


 きつく締められた帯は血止めにはちょうどいいけど、治療のつもりなのだろうか。くれるなら貰っておくが、革部分は両サイドだけで後ろは短めの布製、自転車に乗っても問題は無さそうなのはありがたい。


 でも痛いものは痛い、血もずっと出ていて左の足にぬるぬるとした感触が広がっているのが分かる。


「いつつ……」


「…………」


 よろめけばば体を支えてくれる腰装備の無くなった骨、気のせいか少し目の穴の奥に見える光の色が変わっている様に見えるが、その光も黒い塵に飲まれて消えてしまった。


「はぁ……化物って何なんだ?」


 それから十秒ほどですべて消え、後には何も残らない。


 いや、正確には腰に巻かれた革製の腹当て? 帯? は消えてない。普通なら消えるそれがドロップの代わりらしい。よくわからないがそうなんだと言う確信があった。





「はぁはぁ、流石に血が止まってくれないな……この階段登るのか」


 それから小一時間、何とか地下道の入り口付近までやって来れたが、電動自転車じゃなかったらここまで戻って来れなかっただろう。問題は階段だ。


 腹に力が入らなくなってきている。マイホームに戻って軽い治療を考えて椅子に座ったが、血の量を見て帯を外すのを止めた。外したら死ぬと俺の直感が言っていたのだ。


 だがここまで来て階段が問題になるとは、途中で力尽きそうである。


 どうするか……。


「お疲れ様です。どうし……どうしたんですか!?」


 声が聞こえて顔を上げれば血相を変えて走ってくる見知った警備員の女性。ここは外からの明かりも入って来るので、地下道の中でも比較的明るく、たぶんマイホームのあるホールより明るい。


 おかげで俺の血濡れな姿も分かってしまったようだ。大事にはしたくなかったんだけど、無理かな。


「はは、ちょっと強いのとやり合って」


 精一杯強がってみたけど、睨まれただけだった。


「すぐに救急車を呼びます。動かないでください!」


 俺は気が付いていなかったのだが、腹の傷は帯で多少マシでもまったく血が止まってなかったらしく、帯どころか青い作業ズボンが半分だけ黒く見えるほど血で染まっていたらしい。さらに吸収できなかった血が作業着から滴っている姿はどう見ても重症。


 自転車から降りた瞬間、足に力が入らず座り込んでしまった俺は、どこかにスマホで連絡する警備員の女性を見上げ、その声が遠くに行ってしまうような感覚に襲われた先の記憶は残っていない。


 気が付いた時には病院のベッドの上だった。



 いかがでしたでしょうか?


 羅糸は久しぶりの病院に行った様です。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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