第70話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ふん!!」
的確な間合い、的確な交換、的確な踏み込み、そして的確なフライパンの振り下ろし、ここ数日で磨き上げた一連の動きは完全に体に刷り込まれ、会敵と同時に勝手に体が動くようになった。
毎日この動きを何十回と繰り返していれば当然の結果だろう。同時に心が枯れて荒んで行っている気もするけど、そう言えば銭湯行ってないな。
「よし」
振り返れば足元には黒い塵となっていく腹マイト缶、そして生み出されるドロップのダイナマイト、あれからこれしか出ないんだけど、未だにその理由は分からない。
「だいぶ数は減ったかな?」
今歩いているのは腹マイト缶と重油缶エリアの壁寄り、合計すると十日は狩っているだろうか? 狩った数は数えるのを止めたけど、あらかた狩り終えたとは思う。
「流石にこれだけ狩れば中央は大丈夫だろうけど」
壁寄りの場所での化物遭遇率も下がって来たし、そろそろ次のエリアに足を延ばせそうである。今日はこのくらいで、次からって事にはなりそうだけど。
なんせもうカーゴがいっぱいになっているのだ。
「カーゴが石炭でいっぱいだよ」
そう、石炭で。
「どういう理由で偏ってるんだか、まぁそれでもダイナマイトが増えていくわけだけど」
灯油缶をドロップしなくなった腹マイトばかり狩っていたと思えば、今度は重油缶しか出なくなっていたのだ。先ほど倒した腹マイト缶はしばらくぶりの腹マイト、それでも体は勝手に動くのだから、それだけでも俺の戦闘経験値が分かると言うものである。
「灯油缶がレア扱いになってしまったな」
化物の出没に偏りは出るわ、初日出ていた灯油缶が全く出なくなってレア扱いになるわ、ダイナマイトはもう箱も足りずに積み上げるしかなくなるわ、異界と言うものが最近余計にわからなくなってきた。
「温泉に行った効果なんだろうかとも思ったけど、そんな話はTにもないし……わからん」
変化があったタイミングでやった事と言えば異界温泉に浸かったことくらい。しかし温泉を関連付けても似たような報告がTに上がっていないところを見ると、これも無関係と言って良いだろうな。
「明日は休みにして、明後日は行ってみるか……」
区切りとしては丁度いいタイミングだろうな、新しい事を始める時はなるべく体調がいい時に始めたい。ボス戦前の回復ポイントみたいなもんだな……あれ? これフラグになりそうだけど、まぁ問題ないやろ。
「予想では骨、その強化型だけど」
予想だと次の化物は骨である。大きさだけで言えばこの異界でも一二を争うが、俺の恩恵とは比較的相性が良い相手だ。だからこそ十全な状態で相手にしたい、余裕だと思い込んでいたところで落とされるのは、精神的なダメージが大きい。
「そうだった場合最後はスライムか、そこが一番厄介かもしれないな」
特に骨が無事に済んでもその先はスライムの可能性が高い。異界の中でも対処方法が少ないのがスライムだ。入り口近くのスライムならもう投石一発で倒せるが、逆に言うとそれ以外の対処方法が無い。
手で殴れない事も無いとは思うけど、負傷する可能性が高いし小さいと殴りにくくて腰を痛めそうである。交換も意味が無いし、強いスライムが出た場合どう対処したらいいか悩むことになるだろう。危険を顧みない方法も選択に入れればもう少し増えそうだけど、正直リターンに見合うとは思えない。
「いや、骨の前に考える事じゃないな」
余計なフラグになって骨が尋常じゃなく強かったりしたら、下手したら詰む。ここまでの狩りで手に入るドロップでも現状は問題なくても、今後を考えると不安しかないのだ。進められるところまでは進まないと、まだちょっと安心はできないかな。
「強化骨か、革鎧とか兜付き程度なら何とかなるんだろうけど」
あまり色々考えても動けなくなるから、今は次出るであろう骨が青山霊園地下大墳墓で見た革鎧スケルトンぐらいであることを願うことぐらいだろうか。
「ふぅ、朝風呂ってなんか贅沢だな」
休みと決めた本日は朝風呂で自分にご褒美、このご褒美は癖になりそうだ。ジャグジーとか言うお洒落設備もあって大変満足である。
そう言えば異界温泉にはジャグジーが無かったが、異界の限界か、それとも歩き回って探せばあったのだろうか? 流れのある大きな温泉もあったし、あそこは広すぎるから何があるか分からない。次行くことがあったら探してみよう。
「……いつか酒飲んでそのまま寝れるぐらい安全安心な日々を、と思っていたんだけどなぁ」
風呂から上がればソファーに沈み混みながら炭酸ジュース、今日はリンゴ味である。本当ならお酒を飲んでぐだぐだしたいところだが、この後自転車に乗ってマイホームテントに帰る事を考えると、とてもじゃないがそんな物飲めない。
飲酒運転にもなるし、異界の中で酔っぱらうとか豪快な事、俺には出来ない。異界に住み始めてから酒飲んでないので非常に健康的だが、狩りと売却往復で体はクタクタ、健康になった感覚は全くない。
「うーむ」
どうしたら良いのやら、自分の身の回りが落ち着いて来たからこれから少しゆっくりできると思ったのに、世の中は俺に休む暇を与えてくれそうにない。
さて、今日は帰って……何やらでかい影が。
「あらしけた顔ね?」
「げっ」
「ああ?」
こっわ!? いつものおばさん、もといお姉さんが居たので思わず悲鳴を洩らしてしまったが、俺は悪くないと思うんだよなぁ。
「なんでございましょうかお姉さん」
でも口答えしたら怖い目にしか合わないと俺の第六感が訴えている。
「貴方が来るタイミングが悪くて詰まらないって言いに来たのよ」
「いや、そんな事言われても」
何の事だかわからん。俺のタイミングは俺が決めるもので他人に左右されるものではない、何故ならば俺はボッチだからだ!! ボッチは他人の行動に左右されることはないのだ。いや、あってはならないのだ……言っていて悲しくなってきた。
尚、異界温泉の誘いは別とする。
「あの子たぶん家に帰っているみたいよ?」
「はぁ?」
あの子、あの子……あぁあの牛乳少女か、最近見てないがちゃんと家に帰ったのか、家出少女だろうとは思っていたけど、変な方向に進まなくて良かった。他人だが、知り合った以上もしもがあれば寝覚めが悪い。
「服装が違ったり学生服だったりしてるし、その割にはここに来るのよね。なんでかしら?」
「さ、さぁ? 銭湯が気に行ったんじゃないですかね? ここは居心地良いですし」
「それは否定しないけど……何か無いの?」
「……な、なんもないですね」
何なのだろう? なんでこのおばさん方は色恋に飢えているのか、畳スペースからこっちを鋭い目で見ているおばさん方も聞き耳立ててるのバレてるからな? 学生服って完全に子供じゃないか、なんでそんな犯罪を願うんだか全くわからん。
確かに俺だって若い子が良いと言う気持ちはあるけど、学生はなぁ? せめて卒業後だよ。会社にも学生に手を出した社員が一人、二人、三人……いっぱいいたけど、いつの間にか消えてたんだよな。俺は消えたくない。
「…………本当っぽいわね」
「ぼくうそつかないです」
そんなにジロジロと頭の先から足の先まで睨まなくても俺は嘘言ってないですよ。
「んーじゃあやっぱり一目惚れ? 今時? でもそうねそれもありよね」
「はぁ?」
何やらぶつぶつ呟き始めたけど、なんなんだろう。畳の方に座ったおばさん方もぶつぶつ会議を始めたし、もう帰りたくなってきた。せっかくリラックスできると思って来たと言うのに、こういう所はこの銭湯の面倒なところだな。
「冴えない社会人と女子高生とか燃えるじゃない?」
「はぁ? ……冴えない?」
「あ、あら?……うふふふ、はいこれ上げる! 頑張ってねー」
……逃げたな。
ふーん? こんなおばさんにも悪いと思う気持ちはあるんだな、気にしない人なんて悪い事言ったとか気付きもしないのに、むかついたけどその辺に関しては評価を上げておくか。
ただ、なんでいつもジュース無料券を渡すんだろう。
「……フルーツ牛乳」
しかも、フルーツ牛乳だし、俺コーヒー牛乳の方がいいんだけど、これなら俺も早く牛乳少女に会いたくなっちまう。ここでの知り合いで無料券を渡せそうなのはあの子ぐらいだろう、他はおばさん共が絡んでくる所為で怖がって近付いてこない。
あのおばさん裏ボスなんじゃなかろうか? 割と強面のあんちゃん達もおばさんの姿を見ると逃げて行くんだよな。
「うーむ、計画停電か……関係ないな」
せっかくのリラックスタイムが台無し、おばさんは来るし、テレビでは暴動の映像が流れてさらにその影響だと言う計画停電の話に続いて行く。ちょっとこの繋げ方は苦しいな、ならその原因は分裂を生んだ国にあるんじゃないだろうか、と言うのは酷かな。
なにせ政治家と言う職業の人数も異変によって半分以下になってるらしいのだ。あれだけ人数が居ても問題があったのに、減ったらそりゃ何も問題ないなんてわけにはいかないよな。
「ガスの供給にも地域制限とか、大丈夫かよ……」
今となっては俺には関係ない電気ガス、ガスは使ってないし電気はガソリン発電、あるとするなら銭湯が閉鎖してしまう可能性だろうか。そうなると困るので、是非とも異界にシャワールームでも生えて来てほしいものだ。
未来の世界ならどこでもシャワールームとか出来て良そうなものだが、その未来が来る前に世界が終わりそうな件について。
いかがでしたでしょうか?
未来の世界の不思議道具、憧れますね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




