第69話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「あっと言う間に変わったな」
本日は日曜日、自分で休日を設定しないと休むタイミングを見失いそうなので今日は休みにした。というよりショッキングな話を大輔から聞いてから数日、ずっと腹マイトを狩り続けて流石に疲れが出て来たので今日は寝てすごすつもりだ。
朝一銭湯と言う贅沢もしてきたのであとはゴロゴロするだけである。最近は朝なら多少涼しくなって来たので、朝に銭湯を利用すると言うのは正解かもしれない。
「まさか、こんなことになるとは思わないだろ」
俺のささやかな日常の変化と違ってスマホの中の世界はずいぶんと急変している。スマホの中と言うか現実の社会、この異界のホールの中にいるとあまりに静かで、現実社会から切り離されてしまうかの様な感覚がある。
「独立国家沖縄、独立国家北海道、独立国家四国」
あっと言う間に日本が四つに分かれようとしているし、もっと細分化される可能性もあって批判合戦が始まっている。でも大体の原因は現政権の圧政の影響らしいと言うのがTで流れてくる理由だ。
沖縄は完全に独立国家化しており、反対する人間は島から追い出されているし、結構死人も出てるいらしい。
北海道と四国は準備中と言ったところだが、後戻りはできないところまで進んでいるそうで、物流は完全に停止、こちらも国の役人を追い出しているとかで、Tにもいくつかやばい動画が上がっていた。
「あっちこっちで自治権を求めて小競り合い、疎開、急激な人口移動による化物の増加と被害増加」
関連記事をTで探せば出るは出るは崩壊して行く日本。
人が少ない場所には化物が現れやすいと言うのが広まった事で、人口が都市部に集中、さらに都市部内でも少しでも中央に近い場所が安全と言う謎理論で地価が高騰し暴動まで起きる始末。
一方で人の居なくなった郊外では不法占拠する集団による違法な化物狩りが頻発、これによる二次災害三次災害が発生し、隣接した県同士の物流も寸断され始めたらしい。それでも死者数が爆発的に広がらないのは、EマネーとEマーケットの存在が大きいだろう。
下手するとこの恩恵のおかげで、今まで貧困により真面なご飯が食べられなかった人間が食べられる様になって居るのだから、なんとも皮肉な話である
「北海道は独立して大丈夫なのか? 一番化物被害が多そうだけど」
北海道はまだ完全に独立していない。広いのもあるのか意思統一にまだ時間がかかり、国も食料の問題があるのでどうしても物流を維持しておきたい様だが、T民曰く、それも時間の問題だろうと言う状況だそうだ。
無理して化物と対峙しなくても食っていけると言うのが、道民の中でも偉い人の考えらしく、それに従えない人は次々と引っ越しを始めているとか、関東や東京にも一部流入してきているらしい。
「異界を中心としたコミュニティ、ホームレスが異界を占拠、米軍基地への進入窃盗」
そんな東京に流入してきている人の目当てが安全な異界、東京周辺は特に異界の数が多く、また異界に入るハンターも多いと言う事で異界中心のコミュニティが生まれ始めているそうだ。と言っても安全な異界は都心から離れた周辺の県に多いそうなので、今後どうなっていくかは分からない。
「急に荒れすぎだろ……いや、あの日からすでに火種は生まれてたのか」
異変が発生した日からずっとたまり続けていたフラストレーションが爆発した結果だと思った。でもそう考えてすぐにそれは違うと自分で否定してしまう。
何十年と生活が楽にならない中で、国や利権者に対する不満が溜まり続けていたんだ。そこに来て地震のような直接的被害ではないけれど、大きな問題に何の対処も出来ない国に、みんな諦めてしまったんだろうな。異変が起きてなくても、何時か似たようなことが起きていたのかもしれない。
そんなことをT民が話していて、納得してしまう自分が居た。あの白い世界で誰かが言っていた。滅びの未来の決定、それを救済するための恩恵、その恩恵があっても荒れる世界、どうしたもんかね。
「ここに居ればある程度安全だろうけど、もう少し何か安心できる要素が欲しいな」
もし今東京で暴動でも起きてもここならすぐに何か被害を受けることはないだろう。でも俺はまだ完全に異界だけで生活できているわけじゃない。今後急変する世界を生き抜くには、もっと異界の環境を良くするほかない。
「トイレと風呂かな? それが揃えば、外で暴動やら紛争が起きても引き籠ってられるんだけど」
風呂はまだしも、トイレの問題は切実だな。ある日外に出たら暴動でトイレが壊されていたとかになったらどうしようもない。それどころか真面なトイレ清掃が出来ない状況になるだけでも、結構詰むと思う。
かと言って、ホームセンターもいくつか閉店してしまったようだし、八方塞がりだ。というか問題はそれだけじゃない。
「貯まっていくのはあの日からこればかり……どうするよ?」
顔を少し離れた場所に向ければ積み上げられた赤い筒、全部ダイナマイトである。近所の商店やスーパーから貰って来た段ボールのほとんどはダイナマイト入れになってしまうくらいにはあつまっているが、百本から先は数えてない。
「そう言えば、まだテストしてないな」
何かあった時に使い勝手が分からないのは良くない。最悪あれを人に使う事になるのだろうか、今はそうならない事を願うしかないな。
「ふぅぅぅ……よし」
手には一本のダイナマイト、いざ使ってみようと思って持つと緊張感が違う。
導火線は長く着火しても爆発するまでには結構間があると思うが、導火線を摘まむ指先とチャッカメンを持つ手が震える。
「火をつけて、投げて、隠れる。火をつけて、投げて、隠れる」
場所は東側地下道入り口、一斗缶は狩りすぎてしまったのかホール近くでは最近姿を見ていない。イメトレ、素振りを繰り返し、うまくホールの壁に隠れられない状況や、足元に落とすと言った最悪の場合は全力でホールの奥に逃げる。
「よし、行けるな」
素振りは十分、後は気合と根性……こんなことしててなんだけど、爆弾なんて扱った人間、日本にどれだけいるんだろう。一般的な日本人のつもりが、ハンターになってからと言うもの転げ落ちるみたいに環境が変わったもんだ。
「……ん?」
あれ? 火が点かない。
「んん?」
チャッカメンの火で炙っても導火線に火が点かない。あれ? ダイナマイトの導火線、火で点かないのか? いやでも説明書きは火なんだよな。
「点かない」
だめだ。ちょこっと煤けた感じがするけど火が点かない。
「導火線だよな? 腹マイトもライター持ってた……あれか!」
あれだ! てかアレが出なかったらこの時点で積んでるじゃないか、なんと言う不親切仕様、これってもしこのダイナマイトが有用な武器になるなら、レアが出るまで一斗缶を狩り尽くす必要があるってことか。
自転車に乗って往復、持ってきたのは以前一斗缶から出たレアドロップのライター。あれ以降はまだ出てない貴重なライターだ。記念に取っておいてよかった。まぁこれで点かなかったらダイナマイトはもう完全なゴミになるわけだけど。
「確か、こうやって? 点いた!」
頭の蓋のような部分を横に捩じる様にスライドさせれば、スライドして開いた場所から火が噴き出る。使い方が下手だと自分の手を焦がしそうだ。手を放せば勝手に蓋が閉まって火が消える。
ただこれ燃料がどこにあるか分からない。少しゴツイ見た目の金属ライターの中に透明な石が収まっている。取り出し方も良くわからないが、二個目を手に入れたら分解してみようと思う。
「これで点かなかったら産廃だぞ?」
点いてくれよ? まさか電気式とか言わないよな。
「……きた! じゃなくて投げる!」
投げた! 変に力んだ所為でちょっと近いが問題ないだろ。
「隠れる!」
後ろを向いて走ればすぐにホール、あとはホールの壁に隠れたら爆発を待つだけ。念のため伏せて耳も抑えておこう。
さあ来い! 爆発カモン…………ん? ばくはつ。
「……? あれ? ふは―――!? …………うるさ!?」
いやいや、タイミング悪い。爆発までの時間がかなり長いし、思った以上に煩いんだけど、これかなりの威力なんじゃないだろうか、思わず屈んだ所為で膝を打っちまった。
「いてて、さてどんな‥‥‥わぁ」
膝が疼くのを我慢しながら歩けば目の前に広がる傷跡、土の床には爆発の影響を示す様にいくつも線が刻まれている。
「周囲の石ころが円形に吹き飛んでる。中央も少し抉れてるし、ダイナマイトってこんなに威力があるのか、こわいな」
爆心地は小さく浅くクレーターのように抉れていた。地面にいくつも刻まれた線は、周囲に落ちていた石が爆発の勢いで吹き飛ばされた際に出来たようで、爆心地周囲からは綺麗に石ころが消えている。よく見るとホールまで飛んで行ったようだ。
隠れて無かったら今頃、体中が打撲で大変なことになっていたんじゃないだろうか、いや最悪当たり所が悪ければ……やばいなこのドロップ。
「使えなくはないけど、交換の最大距離でも危険だな」
正確に測らなくてもこの爆発範囲じゃ交換戦法の武器としてはちょっと使えない。交換の射程範囲はそんなに広くなく、この薄暗い地下道で相手の姿が見えるくらいの距離だ。たぶんその距離でダイナマイトを交換で相手に持たせても、高確率で自爆してしまう。
「使い方考えないと自爆確定だ。それにしても、ダイナマイトの導火線もファンタジーとは」
まさかドロップのライターじゃないと点かないとは思わなかったな。もしかしたらこのダイナマイト、普通に使うより分解して何かに作り替えた方が有用なんじゃないだろうか、試したい気持ち半分、止めとけと言う気持ち半分、若干やめとけの気持ちが多いかな? まだ死にたくない。
「チャッカメンで点火出来ないのはある意味安全なのかもしれない」
これなら、予め説明した上で管理事務所の人立ち合いで持ち出して買い取って貰う事も可能かもしれない。不意の着火が起きないなら、割と安全だと思う。ただ、もしかしたら恩恵の火なら付くかもしれない、世の中恩恵を玩具にしてる人も多いと聞くし、そう考えると結局危ないか。
うん、焦げ臭いし戻ろう。
「たったこれだけの事でどっと疲れたな」
テントの椅子は落ち着くが、置いてたスマホの充電を確認しがてらTを見ればまた新しい暴動の動画が上がっていた。どっかの独立推進派がどこかの橋を封鎖したみたいだ。最悪このまま姉と連絡が取れなくなるかもしれないと考えると、少し不安になってくる。
「……運が良ければ姉ちゃんの返事も来てるかもしれないし」
今日明日と言うわけじゃないけど、落ち着いたらまた家に帰ってみよう。
それほど仲が良かったとも言えない姉でも、実の弟の心配くらいするんじゃないかなと、思いたい。難しいけど、思いたい。
いかがでしたでしょうか?
たまって行く危険物が有効活用される日は来るのか……。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




