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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第68話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「ロマンも良いけど、現実も見ないとな」


 マイホームテントに帰ってからドロップを広げ、何か作れそうにないか悩んでみたが、何の成果も得られずそのまま睡眠。それから何も変わらない散らかった石畳の上で目覚めて今に至る。


 流れる様にEマーケットからおにぎりと水のペットボトルを買って食べながら、異変の使い方にも慣れたものだと少し人と言う生き物に感心してしまう。


「……ジュース缶狩るかぁ」


 目がだいぶ覚め始めたけど、今日の予定を思い出すと若干鬱になる。今日からやらないといけないのは、ジュース缶の上位種と思われる容量詐欺重油缶と腹マイト缶の大量狩りだ。


 これは先に進むうえで必須の狩りである。世間の目がドロップに向き始めた以上、さらに先に進んでより希少価値の高いドロップを手に入れる手段の確保が必要、あわよくば先行して安全地帯もいくつか確保したいところだ。


 流石にここだけとは、思いたくない。


「イメージトレーニング、イメージトレーニング……」


 戦い方は基本の交換戦術で何とかなる。手の恩恵もあるから今までよりずっと狩りやすくなった。


 腹マイトは発見しだい、交換からの飛び掛かって来たところをフライパンで撃墜、あれは多少殴っても爆発はしないだろうし、腹の中の燃料も他と比べたら少ない。ダイナマイトに引火した場合は……考えないことにしよう。


 重油缶、これは今までのジュース缶と同じタイミングの交換で良いだろう。ただし逃げる方向は斜め前方、吹き出す重油の勢いで後ろに飛んで行くから潜れない。それにしても……あれはどう考えても設計のミスだろう、誰があんな生物を生み出したのか分からないが、複数で出た場合は仲間も一緒に殺しそうだ。


「ライター無ければこっちのものだけど、よく考えたらそれ出来なきゃ負けるな」


 全ては交換にかかっていると言っても良い、それが失敗したら死ぬ。


 俺は何時からこんなギャンブラーになったんだろう。安定第一だったんだけど、もう少しなんとこならんもんかな。


 小腹も満たして小一時間、心の整理をしながらぐだぐだしてやって来たのは問題の上位ジュース缶エリア、他のエリアは流石に狩り過ぎたのか静かなものであった。


 うん、缶詰が美味しいのがいけないのであって、俺の欲望が悪いわけじゃない。一応まだまだ缶詰の在庫はあるが、今後の事を考えればそちらの狩りもスケジュールに入れる必要があるな! うん、美味いのが悪い。


 足音が聞こえる。


「ダイナマイト缶かぁ」


 足音、シルエット、その二つで相手が何かわかる。まるでベテランの様だけど、まったく誇れる気がしないままに交換の態勢に入る。


 タイミングはシルエットに少し赤い色が付いた瞬間。


「きた! 交換!」


 そこからは簡単だ。交換の直後に飛び上がるがすぐに慌てて手を振る腹マイト、その手に何も握っていないことに気が付いてももう遅い。


「コレ、爆発したらどのくらいの威力なんだろう?」


 あっと言う間に狩りは終わり、俺の足元には裂けた体から灯油を洩らし、体に巻き付けたダイナマイトが解けて黒い塵に変わる無残な姿、時折動く足や手は台所の黒い悪魔の様で気持ち悪い。


 でも見届けないとドロップを見落とすこともありそうなので見続ける。透明な小石を見落としたライトで照らして探さないといけなくなるけど、江戸川大地下道でそれは命取りだからな。


「……あ」


 あぁ……うぅん、これはあれですね。とても強そうです。


「花火程度ってわけにはいかないよなぁ……」


 拾い上げたドロップは、硬質な肌触りで冷たく、しかし硬すぎない樹脂の様な材質で、赤い塗装の上には黒い文字が書かれている。


 ダイナマイト、そこにはそう書かれていて、裏側には使用方法であろう絵が描かれていた。どう考えても危険物ですありがとうございました。


「売りに行けないぞこれ」


 売りに行けない。何故なら所持している時点で犯罪だからだ。


 ただ、異界の中では所持していても利用しても何の問題も無い。ただこれで誰かを害した場合はその限りじゃないわけだけど、こんなところまで入って来てる人間はまだいないので、何の問題も無い。


 と思う。


「おいおい? どういうことだ?」


 何本目だ? あれから小一時間ほど狩っているけど出てくる化物は腹マイト缶ばかり、しかも今までドロップしていた灯油缶が全く出ないし透明な石ころも出てこないで、今日初対面のダイナマイトばかり出てくる。


 明らかな異常だ。すぐにでも引き返したいところだけど、案の定次から次に化物がやって来てきりが無い。


「前回と何が違う?」


 ドロップが全く違うなんて、前回の狩りが夢か何かだったのかと思えてくる。まぁそんなわけないんだけど、何か違いがあると思うが特に何か周りに変化があるわけでもない。


 ゲームだと分かりやすい変化がどこかにありそうなものだけど、何も見当たらないな。


「と言うか、スチール缶が出てこないな?」


 特に何か異界で変化が起きてるなんて、トイレの度に見ている協会の掲示板にも書いてはいなかった。急に発生している可能性もあるし、いったん戻ってTで確認してみよう。大きな変化なら何かしら呟かれているだろ、せめてドロップの変化についての情報は欲しい。


「今までこんな変化なかったと思うんだけど」


 これまでにもTは利用してきたけど、ドロップの変化なんて話題は見たことが無い、全てを見ているわけではないけど、大規模な変化なら出て来るだろ。出て無かったらここ限定の変化って事になるんだろうな。


「まぁそもそも、二種類混ざって出てくる場所が少ないんだけど……」


 俺の知っている場所だと青山霊園大地下墳墓だけど、あそこの場合はスケルトンという枠で統一されているのでちょっと話が変わって来ると思う。かと言って、異界はまだまだ分からない事ばかりだし、何とも言えないよなぁ。


「他もドロップ変わってたりするのだろうか?」


 別の異界はともかく、江戸川大地下道全体で起きているならそれはまた別の問題に発展しそうだから一度管理事務所に顔出した方がいいだろう。逆に腹マイトだけの問題なら、俺だけの問題だろうし何か言われるまで放置で良いな。


 あまりあそこに近付きたくはない。苦手意識が付いてしまったと言うか、妙に良くしてくれることが逆に不安になると言うか、申し訳なさそうにしてくる姿に申し訳なくなる。


「危険物増えすぎて怖いし、いったん戻ってTするか」


 休憩も挟みつつ時間はもうすぐお昼の時間、マイホームに戻る頃には良い時間だろう。たぶん今火を点けられたら、自転車どころか俺も消し炭になりそうな量のダイナマイトが集まった。まさか一回のドロップで複数のダイナマイトが出るとは思わないだろ、そんなレアいらない。


「一応試した方がいいかな?」


 ダイナマイト、安全に使えるならこれほど便利な攻撃手段はないだろう。まぁノーベルさんにとっては不満が残る使い方なんだろうけど、ここにトンネル掘る必要もないし、採石場でも無いからな、平和な利用方法が思い浮かばない。


 持って出たら逮捕案件の危険物、使うか捨てる以外の方法はどれも面倒になるから、しばらくはちょっと離れた場所に保管かな。


「最悪は、協会か自衛隊に引き取ってもらうしかないのか? 警察でもいいかもしれないけど」


 一番面倒じゃない方法は協会への連絡からどこかに引き取ってもらう方法だけど、そうなると色々話さないといけないことが出てきそうだし、案内とかもしないといけなくなるだろうし、そうなるとここもバレる。そんなことになれば確実にここは俺の憩いの場ではなくなるだろう。


 一人静かに休憩していた空間に流入してくる陽キャ、急激な陽キャ増加による憩いの場の過密、生まれる派閥と場所の占有行為、いつの間にか陽キャの中で定められる謎全体ルール、先住陰キャの排斥、そして憩いの場は奴らに奪われる。くっ! つらい思い出が……俺は詳しいんだ。


 そうなってもすぐ逃げられる様に早く見つけたい安住の地、いっそ海を渡って未知なる大地と言うフロンティアに渡っても面白そうではあるが、フロンティアは日本よりおっかない化物がひしめき合ってるらしいし、望みは薄いな。





「とりあえずTだな」


 今はまだ静かなマイホームのベッド寝転がって、スマホを充電させながらTを開く。今日も色々な声が流れては消えていく、この雑踏感は嫌いじゃないが、知りたい情報をここから探すのはちょっと大変である。


「爆破試験は後回しだ」


 ダイナマイトも試してみたいところだけど、帰って来たばかりではそんな元気も出ない。というか、ボケた状態であんな危険物を扱うのは危険が危ない気がする。


 先ずはTでドロップが変化してないか調べよう。Tの利用者もすごい勢いで増えてる事でハンターの利用者も増えているから、前よりずっとハンターに有用な情報が出回るようになってきた。これもネットのサービスが大量に停止したのが大きいんだろうな。


「ドロップ、変化」


 うーん、目ぼしい情報はないな、異界のドロップ情報は結構増えて来てるみたいだけど、結構ガチャ要素ドロップは多いのか、ガチャドロップ当たり報告とそれに対する祝いと呪いのコメントが続いている。でも突然ドロップが変わったと言う報告は上がってない。


「ないな」


 うん、検索ワードを変えてもそれっぽい情報は出て無い様だ。もしくは非常においしい現象だから隠してるのか、結局自分で検証しないといけないのはめんどくさい。ゲームなんかもスタートダッシュより、ある程度ガチ勢攻略後の情報が出そろった後が楽なのと一緒だな。


「ん? 曜日で変化する異界、月齢で変化する異界」


 面白い異界の情報が増えてる。曜日で変化とか明らかに人を意識して作られたような異界だ。月齢はまだ多少自然寄りだけど、まぁそれを言ったら温泉異界なんてもろに人、というより日本人を意識した異界だよな。


 異界にも意思なんてものがあるのか、もしくは人の意思が異界に影響を与えてるのか、どっちなんだろう。


「……攻略情報が少ないな」


 ドロップ変化異界の情報が少ない。スライムと大蝙蝠、スライムはどこにでもいるとして、この蝙蝠が厄介みたいだな。場所はどっちもお城の近く、ちょっと行って見たいけど兵庫と広島か、遠いなぁ……。


「異界の調査が進まないってのは事実なんだなぁ」


 他の県に出来た異界も気になって検索が横道に逸れて行く自分が憎らしい。


 でもそれで分かった事もある。現状人が真面に入って中を調査している異界は半数も無い。調査が進められている異界でも化物が3種以上確認されている異界はほとんど無い様だ。


 理由は大きく三つ、先ず異界に入って調査をするハンターがそもそも地方は少ない。人口の問題もあるんだろうけど、二つ目のA級ハンターに着いて行った方が儲けられると言うのが大きいだろう。


 人が少ない地方は外に現れる化物が多いらしく、ハンターはそっちに引っ張りだこ、一部地域では条例でA級ハンター一人に着き数人の下級ハンターをお供に付けての狩りが認められているらしい。尚、東京にはそんな決まりはなく、変わらずお外はA級ハンターの独壇場である。


「盛況なのは一部の割が良い異界と人が多い東京とか都心部ってことか」


 三つめは単純に異界にかまける暇が地方には無い。定期的に国道の見回りをしないとすぐに化物で物流が止まるのだ。流石に警察や自衛隊だけでは手が足りないので、そっちでもハンターが活躍、東京より地方の方がハンターの地位は高いらしい。


 羨ましい……ん? なんだこのトレンド。


「独立宣言? 何かゲームの話題かな、最近だとゲームもサービス停止が増えて下火だったけど、なんのゲームだろう」


 トレンドに上がる様な人気ゲームなんて軒並みサービス終了していたと思うけど、飢えたソシャゲ民は何か面白いゲームでも発掘したのだろうか? 独立宣言となると、戦略ものか、ストーリーが国盗りものなのか革命ものなのか、ちょっと気になるじゃないか、お兄さんにも見せて見なさい。


「は?」


 は? どういう事? リアル志向なゲームってことか? ローファンタジー物? 超能力バトル的な展開……じゃぁないな。となると答えは一つ、愉快犯かな。


「デマ……えぇ、がち?」


 ちょっと待って、武装集団による独立宣言? 県政も武装集団を支持? 何もできない無能な内閣に存在意義はなく、日本に所属する意味も無しと独立を宣言。大量の武器弾薬と強力な恩恵を持つハンターを盾に港を封鎖、事実上の独立。


 マジか? マジだな……流石にこれはフェイクじゃないよな。よし、一人で悩んでも仕方ない。こんな時に便利な大輔召喚。


「おう最近よく掛けてくるじゃん」


 電話を掛けてすぐに大輔側からテレデンのリクエストが来るので了承すると、スマホの画面に何か嬉しそうな大輔が映ってスピーカーから声が聞こえてくる。機嫌がよさそうだが、その手に持っているアイスは何だ羨ましい。


 じゃなかった。


「沖縄独立ってマ?」


「あぁ、ガチらしいな……」


 挨拶も無しに問いかけても嫌な顔一つしない大輔は良き同僚である。元だけど。


 そんな大輔は視線を宙に一瞬彷徨わせると頷く、どうやらTのトレンドに出てた沖縄独立は本当の様だ。


「なんでそんなことに」


 いきなりと言うわけではないだろうけど、異変が起きたことがきっかけの様な事がTにも書かれていたが、それにしてもずいぶんと動きが早い独立だと思う。


 俺の呟きに小さく唸りながら大輔が何かやり始める。キーボードのタイピング音とクリック音が聞こえるからパソコンで何か調べてるのだろう。スマホで調べても良いのだが、通信速度が最近遅いのでちょっと億劫である。


「わかんねぇけど、米軍の基地を占拠したらしい」


「は?」


 なんだそれ? 米軍の基地を占拠って沖縄の人間が? 外国の軍とかが出て来るならまだわかるけど、なんで沖縄の民間人が……恩恵か、恩恵があれば出来なくも無いのかな? うーん出来そうだな。


「あと独立宣言した中にアメリカの軍人が複数いるらしい」


「いやいや、軍の基地を占拠って無理だろ……いやまてよ?」


「アメリカの軍人はほとんどあの日に居なくなってるからな」


 そうだ。あの異変の日に起きた異常は外国人の消失と外国在住の日本人の強制帰国、って事は米軍なんてアメリカ人なんだから、みんな強制帰国させられてるって事じゃないか、でも何でアメリカの軍人が沖縄に居るんだろう。その辺の異常について山本のおっさんが何か言ってた様な気がするけど、心で耳を塞いでた所為かあまり覚えてない。


 なんだったかな、帰属意識がどうこうとか、営巣本能の強弱とか、俺の両親が海外から帰って来ないのもその辺が理由だとか言っていた気がする。


 でもそうなると、沖縄にある米軍基地ってもしかしなくても。


「もぬけの殻って事?」


「少しは残ったが、帰れないならって事だろう」


 帰れないなら、日本にアメリカを作ろうって事? いや、アメリカじゃなくても自分たちを守ってくれる独立国を作ろうって事か? それって大丈夫なんだろうか? うまくいくようには思えんのだが……。


 スマホの中の大輔はちょっと真剣な表情で肩を竦めている。予定調和だろと言いたげな表情だけど、何かまだ話し足りない問題がありそうな顔である。



 いかがでしたでしょうか?


 どうやら日本は分裂するようです。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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