表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/101

第66話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「……逃げないな」


 まったく逃げない赤スライム、湯船の外に出しても俺が凭れ掛かる湯船の縁に集まってくるしまつ。木桶のスライムは今もくるくるとヒヨコを回して遊んでいるようだ。


「気に入られたんじゃないですか?」


「命の恩人だからな!」


 ここでも命の恩人か、まぁ話によると赤スライムは水に入ると死んでしまうらしいので、間違いではないが、やっぱりこいつら意思とかちゃんとあるんじゃないか? Tとかその他動画サイトに出てくる化物専門家曰く、異界の化物に意思はないらしいけど、絶対嘘だと思うんだよな。


 だいたい、化物学者とか化物専門家とか、自称以外存在しないところが余計に怪しい。テレビで発言している人間なんて色々肩書持ってるらしいけど、言ってることが全然違ったり嘘だったりでTでも良く批判されている。


 この間も化物は全ての人間を恨んでいるとか、スピリチュアル化物専門家が言ってたけど、どう考えてもこれ無害だろ。


「これではスライムと戦えなくなってしまうな」


「江戸川大地下道のスライムも懐くのかな」


「あれは駄目だ。Tにやった奴がいたけど手に火傷を負ってたぞ」


 とは言っても、江戸川大地下道のスライムも自分から攻撃はしてこないわけで、傍で愛でる分には構わないと言える。正直こうも人懐っこいスライムが居たのでは、今後あのスライムを狩ろうとは考えないだろう。


「この子たちはそんなことないですよね?」


「化物の事なんてまだ何も分かってないからなぁ」


 そういえば、この赤スライムは触っても手が溶けたりはしない。


 地下道のスライムは触っただけで爛れるそうだが、この赤スライムはそもそも攻撃方法が違うのかもしれないな。触って観察できる対象が居るとなると色々調べてみたい気もするが、解剖なんかした日には普通に反撃されるだろうから、出来る事は観察日記をつけるくらいか? 連れ帰るのは無理だし、今めいっぱい観察しておくことにしよう。


「わかんない事ばっかりだよなぁ……」


「悩みか?」


「そんなんじゃないですけど、最近特に周りが慌ただしくて」


 そう言うの悩んでるって言わない? 俺は常に悩んでいるから悩みの無い日常なんて知らない。俺は悩んでない夜を知らないのだ。少なくとも、目の前の赤スライム越しに見た二人の表情からは悩みが見て取れる。


「分からなくて当然よ、所詮私たちはただの大学生だもの……大人の事なんてわからないわよ」


 原因は大人か、まぁ他人の時点で大人だろうが何だろうが考えている事は分からん。だがあまり難しく考えるのもどうだろうな、大人と言っても所詮人間だから、そこまで複雑な事は考えていだろう。少なくとも会社の人間は多国籍スパイなんて複雑な事をしていたようだが、その実態は他人より良い生活がしたいと言うだけらしいからな。


「大変そうだな」


「「羅糸のほうがたいへんだろ(でしょ)」」


「お? おう、そうかな?」


 そうかな? 二人にはそんなに俺が大変そうに見えるんだろうか、じっとこっちを見てる目はジト目と言うやつだ。


「そうだろ」


「そうかなぁ?」


「そうでしょ?」


「うーん、そうかも」


 二人からそう言われると、そんな気もしてきたような、しない様な、良く分からん気持ちになる。俺としては少し状況が改善してきたように思えるのだが、二人からしたら絶賛大変中にしか見えないらしい。


「まぁ大変だけど楽しいから良いけどね」


 確かに大変と言えは大変だけど、楽しいからそこまで気にならないの現状。なんだったら会社努めの時の方が辛かったし、大変だし、鬱だった。それに比べれば今はまだ楽しめる余裕がある。


「ふーん?」


「ふふふ」


 首を傾げる陽太郎と楽しそうに笑う円香さん、何が楽しいのか二人して笑い始めるが、悪くない雰囲気だ。異変が起きなければ、この二人と知り合う事も無く、異界なんて場所で温泉に浸かって話す事も無かっただろうから、異変には感謝しないといけない気がした。


 ありがとう異変、でももう少し手心を加えてほしい所である。


「ん?」


 何やら騒がしい声と足音が、


「あー! 居たよ!」


「探したんですよ、急に居なくなって」


 めっちゃうるさい。鼓膜が無くなるかと思った。


 振り返ってみればスタイル抜群なギャルが居た。正義君の彼女の理央ちゃんだったか、その後ろから正義君も付いて来ているが、それより先に薫子ちゃんが不満をぶつけてくる。


 その不満は俺にではなく陽太郎と円香さんに向かっての様で、その眼中に俺は入ってなさそうで安心した。いや、俺にも言っているのかポニーテールを振って俺にも目を向けるが、目を見開いて固まってしまう。


「ん? おう! 羅糸を探してたら凄い音がしてな」


「そしたら探し人も見つけたから暖まってたのよ」


「言ってくれれば、私も、一緒に」


 驚きながらも大学生コンビと話す薫子ちゃんだが、チラチラとこっちに目を向けている。なぜだ? 変わったところと言えばさっきから湯船の縁から俺の肩や頭に乗ろうと奮闘しているらしいスライムしかいない。


 何でこいつらこんなに懐いているんだ? それとも、俺の頭に乗って髪の毛を溶かすつもりか!? 何て恐ろしいスライムなんだ。怖いから頭に乗ろうとしたスライムは回収しておこう。……全く嫌がらないし逃げないな。


「ふふん、大人には大人の話があるのさ」


「むぅ……」


「大人の話か?」


 赤スライムを手に載せて見詰めていると大学生コンビが適当な事を言っている。何か大人っぽい話なんてした記憶はない。高校生たちもキョトンとしている。と言うか薫子ちゃんはそんなにこっちをガン見してどうしたんだい? 赤スライムが気になるのか? とりあえず頭頂部登頂チャレンジャーは全部回収だな。


「先輩私お腹空きました」


「そうね、そろそろ上がりましょうか」


 むむむ、お腹空いたと言う声を聞けば気になって来るのが人と言うものか、お腹に切ない空腹感がやってくる。手に持った赤スライムもちょっと美味しそうに見えてきてしまう……どうしたんだい? そんなにプルプル震えて、真っ赤な餅とか実際にあったら辛そうだよね。


「そうか、お前たちも帰りな」


 食べないから怯えなくていいんだよ。怯えてるんじゃないのか? 湯船の縁に放しても逃げないし、木桶のスライムもほらおかえり。降りないな、一匹ずつ下ろすか。


「うわ!? なんですかそれ?」


「ん? 悪い人たちが投げて来た異界の民だよ」


 可哀そうな異界の民だよ、てかお腹ペコペコギャル子ちゃんは気が付いていなかったのか、視力悪めかな? 結構目立つと思うんだけど、興味が無いと気が付かないものだろうか、それそれ降りろ、木桶電車は終点だよ。


「???」


「くっくっ……く?」


 どうやら目の前の状況が理解出来ないのか、ギャル子ちゃんはお腹を押さえたまま目をパチパチしている。驚いた表情も可愛いね。やっぱこういうグループはみんな可愛いものなのか、赤スライムをみんなで興味深そうに見詰めている。


 あれ? なんだこれ? ……くれるのか? どうやらくれるらしい。最後の赤スライムを手に乗せると、赤スライムが掌の上にお土産を残して飛び跳ねて行った。そのスライムを追いかけるように他のスライムも飛び跳ねていく。





 他人の金で喰う肉はうまい。


「それ酷くないですか? 怒らなかったんですか?」


 そうだね。若干の心苦しさはあるけど、肉の誘惑には勝てないのだよギャル子ちゃん。え? 違う? そうだよね、今さっきまで話していたのは俺にスライムと石を投げてきたおっさんの話だもんね。


「なんで貴女がそんなに怒ているのよ」


「だってむかつくじゃないですか」


「良い子だねぇ」


「え! そ、そうですか? えへへ」


 うん、このギャル子ちゃんはクラストカースト上位感を絵にしたような容姿をしているが実にいい子である。初対面の人の不幸に怒る事が出来るのは良い子の証拠だ。正確には初対面じゃないんだけど、あの時は正義君が彼女達に近寄らせないようにして居たから、実質初対面で問題はない。


 しかしなんで俺ってこう嫌われるんだろうな、何もしてないと思うんだけど、見た目か? 雰囲気か? 良く分からないけど、俺にはどうしようもないので考えないようにしておこう。辛くなる。


「俺だったらやり返してるところだぜ」


「そうですよね! やり返さないなんて弱いですよね!」


 おお、血気盛んだねぇ男の子は、おじさんにはもうそんな元気ないよ。陽太郎とはそんなに歳変わらない筈なんだけど、なんで正義君はこちらにそんなドヤ顔を向けるんだい? この子、実はちょっと痛い子なのだろうか。


「でもそしたら陽太郎は今頃病院で寝てわね」


「あの化物は凄かったな、おっさん二人が何もできず一撃だったから」


「いなくてよかったぜぇ……」


 よかったな。あれは音波兵器的な何かなんだろうけど、人をあんな一瞬で気絶させる音波兵器とか、対処のしようがない。あの二人もたぶんハンターなんだろうけど、反撃する暇もなかったみたいだし、俺みたいな雑魚は心停止してるんじゃないかな。


「けもの……」


 それに一般人の引率なんだから、陽太郎が争いの渦中に入っちゃだめだろう。保護者の責任になるんだから、正義君も険しい表情してるけどその辺は注意してほしいところだ。


 大体がみんな血の気が多いと言うか、何をそんなに怒る必要があるのか分からない。


「それに、野生動物相手にイライラしたってしょうがないだろ?」


「やせい?」


 そう、野生だよ正義君。


「生きてる理が違うんだ。知性ある生き物が野生生物のやり方に合わせる必要はないだろ?」


 ああ言うルールを破る事が正義みたいな、カッコイイみたいな振る舞いをする人なんてただの野生動物なんだから、一々野生動物が粗相をしたからってその度に怒っていても仕方なだろう。そんなんで怒っていたらこっちが疲れるんだから良い事なんてないよ。


「くろっ!?」


 陽太郎は驚いてるけど、社会に出たらそんなのが多いから、今のうちに慣れていった方が良いよ? 人の言葉なんて通じないんだから、野生動物には近づかないのが一番だ。今回は直接攻撃されたから多少対応したけど、ただスライムが温泉に投げ込まれるだけなら隠れて済ましただろうな。


「……なるほど」


「社会の闇を感じるわね」


「くっくっく……」


 ふふふ、この程度のことは真の闇に比べたら大したことはない。元勤め先の闇はもっと深いぞ、なんせ多国籍多重スパイってなんだそりゃって状況らしいからな。と言うか、薫子ちゃん感心してるけど、闇耐性高かったりする? なんだろう……美少女からそんな対応受けたら新しい扉開きそうだよね。



 いかがでしたでしょうか?


 世の闇は今日も深く、汚れっちまった悲しみに……。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ