第65話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ガンとばしてんじゃねえぞ!! 俺を誰だと思ってやがる!!」
「堅気ではさそうだなぁ」
あれは絶対に薬物やってますね。見えない何かが見えてるもの、隠れてるからあのおっさんに俺の姿が見えるわけないんだ。それでも俺がガン飛ばしてると言うならそれは幻想が見えてるに他ならない。
もしくはスライム相手に言っているかだが、まだスライムが飛んでくる。どんだけ拾い集めてるんだか。
「あ、アニキ!? 化物が!」
「あ? は?」
化物? ん? スピーカーヘッドが動いてる。スピーカーが一方向を向いて金属ボディが撓んでいく。スピーカーの向きは、男達が居るであろう方向だな。
ノイズが強くなる。
「ジジジジッ――――――――――――!!!!!」
「ケヒャ!?」
「クヒッ!?」
おお!? 結構うるさい音がしたけど、それよりなんか変な声が聞こえたな。
「なにごと? サイレン?」
ノイズからサイレンみたいな音に変わったけど、これスピーカヘッドからでてるのかな? 目の前に居たらもっと大きい音が聞こえそうだけど、遠くから反響してるような変な音だ。
一応、男達も無事か確認しておいた方が良いかな。
「あぁ……これが異界内での暴力禁止ペナルティってやつか」
入れ墨男と小柄な男が石の床に転がっている。特に出血も無いので問題はないだろうが、なんか耳を抑えて痙攣していた。
音波攻撃なんだろうか? 化物が襲い掛かってくる条件の一つが暴力行為、異界温泉内で暴力行為を行うと化け物たちの攻撃対象になるらしい。そう言ったペナルティが科せられない限りは安全だが、違反はああなるようだ。
結構安全だと思っていたが、やっぱり異界は危険である。
「ん? おお、大丈夫か赤スライム君、今助けるからな」
男達の救助は俺の仕事じゃないので隠れるように温泉に身を沈めれば手に感じる柔らかい感触、陽太郎情報によると少し小ぶりなおっぱいの感触らしい赤スライム。水の中から救いあげれば手にすっぽり入る丁度いい大きさ、スライムの中でも小さい方じゃないだろうか。
「微妙に濁ってるお湯だからどこにいるか分からないな」
異界温泉の泉質は多種多様、隣り合う温泉でも全く違う色だったりする。
そんな中でここは濁り湯、水着を着ていても肩まで浸かれば水着を付けているかさっぱりわからなくなるくらいには濁っている。なのでスライムを探すのも手探りになってしまう。
別に助けなくても良いとは思うけど、無害な相手が目の前で死んでいくのはあまり気持ちの良いものではない。特に俺の入っているお湯の中で死なれたりしたら、最悪俺の所為にされて俺も音波攻撃を喰らうかもしれないのだ。
そんなとばっちりはごめんこうむりたい。
「何匹くらい入ったのかな?」
乳白色のお湯の中を手探りでスライムを探すが中々これが難しい。一匹、二匹、拾い上げる度、湯に浮かべた木桶に入れていく。ヒヨコと一緒に木桶の中の住人となった赤スライムはぷるぷると揺れるだけで大人しいものだ。
「すみません!」
「え? あぁスタッフさん?」
「はい、お話聞かせてもらって良いですか?」
突然声を掛けられてちょっとびっくりしたけど、振り返った先にはこの異界を管理している管理協会のスタッフさんが少し屈んでこちらを見ている。結構若い女性スタッフさんは少し訝し気な表情を浮かべているが、お話はさっき化物にやられた二人の事だろう。
「アレですか?」
「はいアレです」
女性の後ろからは男性スタッフも現れ、アレの確認をしている俺と女性スタッフに目を向けると、俺の木桶に目を向けて少し驚いた表情を浮かべている。
それはまぁそうだろう。俺の木桶にはすでに5匹の赤スライムが収まっているのだ。この異界では化物に手を出すのは厳禁である為、注意の一つもしようと思っているのか、俺を睨んでいる男性スタッフ。今日は良く睨まれる日だが、むしろ俺は被害者なのでやめてほしいところだ。
「たぶんですけど、スライムでこけてむかついたから足元のスライムをここに投げ込んで、俺に当たって入らなかったのにさらにむかついたのか、俺にスライムと石を投げてきて化物が叫んであんな感じです」
「え?」
「ん?」
そう、あの男石まで投げて来たのだ。危ないったらない。
二人とも目を点にしているけど、今言ったことは事実である。争いごと判定をスピーカーヘッドから受けた大きな理由は石も投げたからじゃないだろうか、まぁそれが無くてもあのままスライムを投げつけていれば、水没したスライムが死んで判定されていた可能性はあるけど。
「本当ですか?」
「ええ、そんな感じです」
女性スタッフが確認してくるが本当である。あまりに頭の悪い行動に疑いたくもなるだろうが、嘘みたいな本当の話なのだ。
「今は何を?」
「投げ込まれたスライムを救出中ですかね?」
「そうですか……」
何故か呆れられたんですが? 無害なスライム、いや無害な異界の民を救ってるだけなのに、妙に疑念が籠った表情で見てくる女性スタッフの後ろで男性スタッフが笑みを浮かべている。
さっきまでしかめっ面だったのに今は凄く優しい表情をしている男性スタッフ、目から生温かい感情が洩れている気がする。僕にそっちの気は無いですよ。
「間違いないと思います。青ですから」
「ほんとだ、ありがとうございました!」
「あ、はい」
青、スピーカーヘッドを見上げると真ん中あたりに着いてるランプが青く点滅している。あれは嘘発見器になっているらしく、周囲で嘘をつくと赤く色が変わるそうだ。正直者の側では青く点滅するらしい、なんでそんな機能が付いてるのか不明だが、ここを管理するスタッフにとってはありがたい化物の様だ。
「あ! お怪我はないですか?」
「はい、大丈夫です」
今になって慌てて怪我の確認をしてくる女性スタッフ。たぶん目の前の状況の原因を俺だと思って問い質していたのだろう、その証拠に気まずそうな感情がその顔から見え隠れしている。
「そうですか、何かあったらスタッフに言ってください」
「あ、はい」
頭に当たったのはスライムだけで石は当たっていない。石までぶつけられていたら流石に俺も怒っているところだ。怒っていないわけじゃないけど、理性を忘れた獣に一々怒っていたら疲れるだけで良い事なんて何もない。せっかく癒しされに温泉まで来たのにそんな事アホがする事だ。
そのためにはとりあえずスライム回収しなくては、間違って踏んずけたらこけてそれこそ怪我してしまう。こいつらけっこう弾力が強いから踏んでもぺちゃんこにはならないで滑りそうなんだよなぁ。
「……ん? これは石か、危ないな」
危ない危ない、こんな尖った石踏んだら白いお風呂が赤く染まるところだ。露天風呂に石を投げ込む様なやつは万死に値するね。
「あ! 羅糸こんなところに居た!」
「見つかった?」
「おや?」
スライム攫いを中断して顔を上げれば目の前にブーメランパンツ……じゃなくて陽太郎。もう少し上に目をやれば不満顔の陽太郎に、その後ろから現れる黒ビキニ、じゃなくて円香さん。
どうしたんだい二人して、温泉なんだからゆっくりしてればいいのに。
「……なにやってんの?」
二人を確認して小首を傾げると手に伝わる柔らかい感触、これは赤スライムの感触と持ち上げて見れば、プルプル震える赤スライムが乳白色の温泉の中から顔を出す。心なしか赤味が増してのぼせている様にも見える。
「話せば長くなるんだけど」
そっと木桶にスライムを載せる俺に、二人は小さく疑問の声を洩らす。見上げればキョトンとしたまま首を傾げており、その全く同じ動きからは仲の良い幼馴染の空気を感じる。
「なんと言うか、災難でしたね」
湯に浸かりながら一通り説明した俺に対する感想はその一言であった。
そんなことが現実に起こるものなのかと言った表情で呆けていた円香んさんが絞り出した感想であり、その隣では陽太郎が呆れた表情でスピーカーヘッドを見上げていた。そこには変わらず青いランプがゆっくりと点滅している。まるで霧の中でも方向を見失わない様に灯る灯台の様だ。
「すげぇ音がしたけどそれだったのか」
「普通に強くないか? ここの化物」
「基本無害ってだけで強さなんてわかんないからな」
確かに、無害だからと弱いわけじゃない。むしろ国も民間も率先して狩らないと言う事は、そう言う事なのかもしれない。役に立つと言うのもあるんだろうけど、単純に勝てない可能性も無くはない。
と言うことは、だ。
「お前らも強いのか?」
手元に触れた柔らかい感触に気が付き引き上げれば赤いスライム、程よい大きさと柔らかな感触、手に乗せても特に攻撃してくる様子も無いスライムだが、実際に戦えば強いのかもしれない。
今はとりあえず木桶に避難させるが、結構溜まって来たな、なぜかスライムの山の天辺にヒヨコが乗ってるが、どうもスライムが自ら移動させている様でくるくると桶が回る方向とは逆に向きを変えているヒヨコ。
「あ、ここにも居ましたよ」
「おお、スライムよ溺れてしまうとは情けない」
「ふふふ、なんですかそれ」
なに? この有名なフレーズを知らないだと? 俺も知らなくて大輔が愕然としていたけどね。
それにしても探さなくなっても手に触れてくると言う事は、水の中でもある程度動けるのかこのスライム。明らかに引き上げた感じ疲弊しているが、意思がなさそうに見えて生きる意思はしっかりとあるのか、良く分からない生物である。いや、そもそも生物と言って良いのかわからんか。
とりあえずお湯から掬い上げれば喜んでいそうなので、水かお湯が天敵なのは事実なんだろう。
「しかし、急ににぎやかになったな」
「いつの間にか居なくなんてるんだからなぁ」
「お前らは人気者みたいだからな」
人気の無い俺はひっそり湯に浸かるに限る。
別に誰かと温泉に入るのが嫌というわけでは無い。銭湯とかでも知らない人と普通に話せていたし、ただまぁ社会でやさぐれた身としては、若い子の中に居ると違和感があると言うか、周りが自分より年齢上の人しかいなかったし、何をどう話せばいいか分からない。
「そう言うわけじゃないんですけど……」
どういうわけじゃないんだろう。
「そうか? あっと言う間に連れ去れたから俺はここでまったりしてただけだぞ?」
あれはもうあっと言うまだろ。唯一こちらに目配せしていた子も目が合うと顔を背けたし、誰も俺が付いて行ってない事に気が付かなかったんだろうな。なんだろう、自分で言っていてちょっと悲しい気持ちになった。
いかがでしたでしょうか?
羅糸は影が薄いのでしょうか?
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




