第62話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
人の集まる場所に自販機有り、多く集まればそれだけ多くの自販機が、多くのメーカーがより良き場所を求めて集まる。
「あー生き返る」
ハスキー犬、じゃなかった。陽太郎はスポドリ派の様で、さっき買ったばかりのペットボトルがもう半分以下まで飲み干されていた。
喉の乾いた時のスポドリって驚くほどすぐ無くなるよね。特に無理やり二次会まで連れてい行かれた飲み会の次の日の朝、温くなった1リットル入りのペットボトルが空になるのまで5分もいらなかった。
「元気だな君らは」
そんな不健康極まりない飲み方と違って健康的に見えるのだから、やはり陽の者と陰の者じゃ住む世界が違う。
「一緒にしないでくださいよ」
こちらは午後にお茶するタイプの紅茶のペットボトルを手にしている、恐怖! 薙刀美女こと、たか……円香殿、勘が良いのか俺のことを不満そうな目で見てくるが、美女は慣れてなくて照れるのであまり見詰めないでほしい。
同じ高橋の名を持つ大人美人さんと接点がなければ、今頃顔が赤くなって声が出なくなるところだ。
「いや、あれだけ走ったら俺は汗だくで動けなくなるよ」
「うそだー?」
「ほんとだよー」
ほんとだよー? 最近少しは動けるようになって来たけど、なって来たけど……そう言えば動けるようになってきたな? もしかしたら今ならあの頃のように走り回っても疲れないかもしれない。
でも暑いし汗かくから試したりはしない、と言うかちょっとした動きで体が動かなくて怪我とかしたくないのだ。孫を会社に連れてきた部長はそれで入院している。一度社会に出て社畜となった者の身体能力低下を甘く見てはいけないのだ。
「連日暑いですよね」
わかる。異界から出るだけで体から体力をごっそり奪われる感覚があるんだよな。学生の頃はよくこんな暑さの中運動できたものだと感心してしまう。なんだろう、ちょっと考え方が老けすぎな気がする。違うぞ違う、俺は若い! 若いのだ! まだ二十代だもん。
「異界の中は涼しいぞ」
「わかります。それで風邪ひきそうです」
「それな」
あーそれも分かる。ちょっと異界から出ただけで噴き出した汗が異界に入るとすぐ冷えるのだ。夜中なんかも普通に熱いのでトイレを利用すると汗かいてしまって異界に戻ると急に冷えてトイレへUターンすることも偶にある。
ずっと同じ気温なら体に負担は無いんだが、会社でも度々体感していたけど、気温差ってホント恐ろしいと思う。
「なぁ羅糸? なんで最近いなかったんだ?」
「ん? いやほぼ毎日来てるぞ?」
何の事だ? 俺は住んでるんだからいないなんてことはないと思うが、そうか……二人の行動範囲と時間が俺と合っていないんだ。それは確かに会わなくてもしょうがない。
「タイミングが悪かっただけか?」
「と言うより住んでいる」
「「え?」」
住んでるんだよ? どうしたんだいそんなハトが豆鉄砲喰らったような顔、って言うけど見たこと無いなそんなハト。まぁでも、目を真ん丸に見開いて動かなくなる姿って傍から見ると面白いな。あと、イケメンと美女だからかちょっとかわいくすらある。
「ちょっと、眩暈が」
「羅糸、そんなに苦労を……」
現状を簡単に説明した結果、円香ちゃんは目を瞑って額を抑えるとすぐ近くのベンチに座ってしまい、陽太郎は何故か涙ぐんで目頭を押さえ始めた。
うん、そのリアクションは想定外なんだよ、賃貸を追い出されて安全な異界で生活しているだけなのにそんな不憫な物を見るような目を、されない事もないか、割と不憫だったは俺。
「苦労をしてないわけでは無いが、住み心地は良いぞ?」
でも住み心地は良いし、そんなに苦労はしてないので、そろそろその生暖かい目を止めてほしい。そんな目で見られたら本当に自分が惨めな人間のように思えてくる。
「住み心地って、化物は?」
「安全エリアを見つけた。なお秘密である」
おっと、安全エリアについて話してなかった。あまり話したくないのだが……この二人なら良いか、悪い人間と言うよりどちらかと言えばお人好しの部類だろう。でなければ初めて会った時も悲鳴一つで助けになんて来ない。
「それって協会には?」
「ある程度は話してるので、安全エリアがあるんだろうなとは思ってると思う。けど、それ以上の問題があるから俺の居る場所まで来るのはもう少し先だろうな」
ちゃんと聞いていれば安全なエリアがあるだろうことは分かるくらいには、西野さんに状況を話している。ただ、あの厄介なドラム缶とかについても話しているので、その衝撃で説明した内容が頭から飛んで行ってないかは保証できないな。
「一斗缶のことか?」
「公式報告見ましたけど、あれは大変そうです」
あ、もう公式発表で一斗缶の情報出てるのか、後で俺も確認しておこうか? 俺の経験と違う情報が乗っているかもしれないし。今のところ江戸川大地下道の公式発表内容と俺の知識に異なる部分は無いが、バッタと一斗缶については何て発表がされているのか少し楽しみである。
「一斗缶の先だな、がんばれ」
でも問題は一斗缶の先なのだ。何も知らずに踏み込んでドラム缶なんて出てきたら、無事で済む人間の方が少ないだろうな。
「一斗缶かぁ、空き缶バッタは盾があればなんとかなるらしいけど、一斗缶はなぁ?」
「遠距離攻撃手段が必須ですね。よくあれを攻略できましたね」
「恩恵頼みだよ」
感心した様に俺を見詰める二人、正直照れるのでやめてほしい。本当にこの恩恵が使えなければ俺は今の場所には居ない。きっと今頃嫌々実家に帰っていて、姉ちゃんに頭下げて助けてもらっていただろう。
……あれ? それはそれで有りの様な気もしないでもないぞ? だって姉ちゃん俺よりだいぶ高給取りだからな、まぁ彼氏とかいたら邪魔者扱いにされるだろうけど、流石に困窮する弟を無下に扱うような人じゃないし、何とかしてくれたんじゃないだろうか。
俺は、道を、選択誤ったかもしれない。いやまぁあの時は姉ちゃんとも連絡が付かなかったから仕方無いと言えば仕方ないのだが……今更考えても仕方ないのがなんとも悩ましい所だ。
「その先でテント暮らしなんだろ? トイレは?」
「それが問題でな、今はあそこ」
それが一番の問題なんだよな。今は何とかなっているけど、緊急時に地下道を爆走するのは出来ない事は無いが何とも危険だ。しかも駐輪場に停めたら金も時間も掛かって、最悪の場合は洩らしかねない。
救いはトイレがびっくりするくらい清潔な事だな。良い金の掛け方だと俺は思う。
「それは、大変ですね……お風呂とかは?」
「近所の銭湯に行っているよ、臭いかな?」
もしかして臭いのだろうか? いやきっと臭いに違いない。この話しの流れでお風呂の話題が出てくるのは一見自然であるが、女の子が男に対してお風呂に入ってるのかと問いかけて来る時は遠回しに臭いと言っているのだと、俺は会社のおばちゃんから教えてもらった。
女性は敏感だから男には解らない臭いが分かるのだと、そのおばちゃん社員は行っていたけど、その割には香水がきついと同僚の若い女性社員に愚痴られた覚えがある。あまり深くは触れなかったが、今も俺が生きてるって事は、きっとあの対応は正解だったのだと思う。
「いえそう言う意味では、ちょっと汗を掻いて想像してしまいました」
違うの? ものすごくほっとしたんだけど、確かに二人は結構な汗を掻いているようだ。それなのにまったく汗のにおいがしてこないのは同じ人類と考えて良いのだろうか? 大輔なら確実に匂っているレベルだが、二人とも臭いはしない。
むしろフローラルな香水の香りがしてくるので一歩下がっておこう。陰キャ童貞には刺激がちょっと強すぎる。
「そう? 近くに良い銭湯があってさ、最新って感じで明るく綺麗で酒も飲めるんだよ」
「え! そんなのあんの!」
「ちょっと気になりますね」
わぁ良い食い付き、そりゃここで暴れてストレス発散したら汗も掻くし汚れもするだろう。その疲れと汚れをすぐに流せる銭湯があると言えば食い付くのも分かる。
「良い銭湯だよ。やっぱり日本人は風呂に入らないと駄目なんだろうな」
日本人と風呂は切っても切り離せないよね。最近はシャワーだけで済ます人も多いみたいだけど、やはり湯船に浸かった時の全身を包み込む暖かさは何にも代えられない。
「そうだ。羅糸も温泉行かね?」
「ああ、いいわね。どうですか? 温泉異界と言うのがあるんですよ」
「温泉異界?」
なにそれぼくしらない。
温泉がある異界があるの? え? 俺そっちに移住したいかも、てか一緒に? この三人で? どうして? そう言うのってもっと、かなり、すごく仲の良い人同士で行くものじゃないか? 俺がおかしいのか? いや、この二人直視できないくらい眩しい陽キャだった。
生きる世界が違うんだから、きっと常識も違うんだ。そうに違いない。
「異界許可証が無いと入れないんだけど、付き添いが居たら一般人でも入れる安全な異界なんだよ」
「そんなのがあるんだ」
ほう、知らなかった。異界ってホント何でもあるな? そこも地下にあるんだろうか? まぁ一般人大丈夫なら安全なんだろう。
「私も興味があって、近々行くことになりまして……どうです?」
「この間のお礼に奢るからさ! 行こうぜ」
「お礼?」
もうほぼ行くこと決まってる顔ですねわかります。と言うかお礼とは? 俺何か二人に恩を売ったかな、売れる時には売っておけと大輔が言っていたが、恩なんて商品俺は取り扱ってないんだが。
「何言ってんだよ。命の恩人じゃねぇか」
命レベルの恩とか最高級品じゃないですか、そんな恩売った覚えはないんだけど、どう言う事? 僕にもわかる様に説明ください。
いかがでしたでしょうか?
羅糸は命の恩人らしいですよ?
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




