第61話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「そんなことが」
Tの中でドロップの有用性については議論が交わされているけど、その議論は思っていたよりずっと大きな問題となっているようだ。
要は、個人でドロップや外の化物の残骸を生活に役立てようと言うレベルの話ではなく、企業や国が本格的な研究に乗り出し始めたと言う事である。どうやら俺が新鮮な情報だと思っていた物は少し古かったようだ。
「ああ、そんなもんで今の買取価格も見直されるだろうな」
「ふむ」
だがこれはハンターにとっては良い話である。なにせ良く分からない物扱いのドロップにも利用法が増えれば需要が生まれ、それは価格に反映されるからだ。
中には秘密を独占して安いコストで買い叩く企業なんかも生まれそうだけど、ドロップ自体は今のところ国しか独占していないので、難しいだろう。国が危険だと言う理由から独占している異界のドロップもあるけど、それは元からハンターには関係ないのでどうでもいい話である。
「ほら、骨の買取が一時期上がっただろ? あれから他のドロップ品を再調査した結果だ」
あれで研究者に火が付いたのか、確かにあの特需は美味しかった。
「政府の人間が考えていた以上にファンタジーな世界になっちまったってあちこちで笑いものさ、今までドロップ売っぱらってた連中は馬鹿とか罵り合って、SNSとか見ないか?」
「異界とかについては知らべているけど、そうか……ファンタジーか」
ファンタジー、わざわざ煽る理由は分からんが、ファンタジーと言う言葉は良い響きである。もしかしたら俺でもゲーム世界に出てくる様な不思議アイテムを手に入れる方法があるかもしれないと思うと、ワクワクが止まらない。
「羅糸も変わった物持ってたりしないか? 投資価格で高く売れるかもしれないぞ」
「それじゃこれとかどう?」
「ん? ガラス……ってわけじゃないよな? ドロップか?」
持って来ていた透明な石を渡すと店長が摘まんで光にかざす。滑らかな丸みのある石はガラスのようであるが、たぶん触った感じは水晶に近いと思う。
実家の部屋にいくつか水晶を飾っているので、その触り心地に関しては分かっているつもりだ。
「うん、腹マイトが出した」
「そうなると、余計にタダのガラス玉じゃないだろうなぁ」
出したのはジュース缶の上位種だと思われる腹マイト缶、あの危険な化物がわざわざドロップしたのが何の変哲もないガラス玉だったらどれだけハズレなのか、もしガラス玉だったら俺は一日ふて寝する自信がある。
しかし使い方や利用方法が分からなければただのゴミと変わらないので、何か情報があるなら少しでも知りたい。
「でしょ? でも今出したら二束三文だよね」
「だろうな、一部じゃ政府はその事を知っていて安く買い叩いていたって話だ。まぁ陰謀論ってやつだな」
「陰謀ねぇ?ちょっと俺も色々試してみようかなぁ」
しかし思っていた以上にファンタジーな要素がドロップにあると言うなら、売るより何か自分で試す方がいくらかマシである。ちょっと気になっている事もあるので、今後の事も考えてこれを売るのはやめておく。
ただし店長が諭吉を数人出してくれるなら話は違う。
「いいな、なんせ羅糸は江戸川最前線ハンターだからな! どんな発見するか楽しみだぜ!」
出してはくれなさそうだが、なんだそのダサい二つ名は、どうせつけるならもっとかっこいい……いや中二病ぽくて何かやだな。
「なにそれ?」
「知らねぇのか? 各異界の一番深い所で活躍するハンターの称号だよ、両国最前線とか渋谷最前線とか……カッコ悪いからってんで今は暫定だけどな、お前さんも最前線組だろ?」
え? 異界って称号システム実装したの? それって特殊効果あります? 特殊効果のない称号ってなんだか自己満っぽくてあまり好きじゃないんだよ。どうせなら力が上がったり特殊スキルが付くタイプの称号が良いです。
しかし最前線組か、讃えられたりしても何か恩恵が有ったりするわけじゃないから、正直なところ実感は薄いんだよね。あぁでも、異界の安全な場所を独占して寝泊まりできるのは、良い事だな。
「まぁ、確かにそう言う事になるのかな? でも奴はその中でも最弱枠だよ? C級だし」
あとC級で最弱枠な俺にそんな事言っても、あまりうれしくないと言うか喜んでいいのか分からないと言う気持ちもある。
「むしろ熱いじゃないか、頑張れよ若人」
「……おっさん臭いっす」
「んだとぉ!?」
店員さんの言う通り確かにおっさん臭かった。店長っていくつなんだろうか、Tシャツ革ジャンに手入れが面倒そうな前髪をしたオールバック、明らかにやんちゃしてました感のある格好だけど、年齢はまるで分らん。
口喧嘩が始まりそうだったのでさっさとお金を受け取って、今は丁度江戸川大地下道に到着したところ。いつもより少し人が多いく感じたので自転車は降りて押している。
散々事故で問題になっているのに歩きスマホが無くならない今日この頃、そのくせ自分の非を認めない人間が多いのでぶつかると面倒なのだ。
「ドロップは思った以上にファンタジーか……」
あれかな、魔女なお婆さんが釜に入れてイッヒッヒ言いながら混ぜると中から瓶に中に入った薬が出てくる様な。そんな感じのファンタジーなんだろうか、その瓶はどこから出て来たとよく突っ込まれるような、そんな便利仕様なら是非も無い。
だが、いくらイッヒッヒ仕様だとしても、今集めたものじゃ特に何も作れそうにないな。
「うーん、骨でも役に立つんだから、割れメタルも何か変わった利用方法があるのかも」
割れメタルは種類が豊富だから、組み合わせで何かになりそうな感じはしている。だから集めてくっつけたり離したり、パズルっぽくも見えるので組み合わせてみたが特に何か起きることはなかった。
やはり魔女の大釜が必要だろうか……。
「ただ、あれってガチャ枠だからなぁ? 正直期待できないのも否めない」
そう、ガチャ枠、ガチャ枠なのだ。ガチャのハズレアイテムにあまり多く求められる要素はないだろう。ハズレなわけだし、それでも何か起きるとしたら、俺はこの変った世界に大きな希望を持てる気がする。
まてよ? 缶詰、お前まさか……。
「おーい! らいとー!」
「ん?」
何かが走って近付いてくるが、その後ろを怒りながら走ってくる人影も見えた。
「おーい!」
「ちょっとまちなさいって!」
「……ドッグランの犬かな?」
うん、近所にドッグランがあるから俺は知っているんだ。あれは燥ぎまくって周りが見えていないゴールデン、いやあの感じだとハスキー犬だろうか? 後ろから追いかけてくる黒髪美女はさしづめ躾係の黒柴と言ったところだろう。
うむ、日の光に照らされ駆ける美男と美女、切り抜けばまるで名画、名前はそうだな『駄犬と名犬』かな。
そんな二頭、もとい二人は直ぐにその距離を詰め、鈍い風切り音を鳴らす。
「あんたねぇ、もうちょっと人の目を気にしなさいよね」
「ゴベンナサイ」
「……公共の場での武器利用に関する法令」
手で掴むのも面倒だったのか、薙刀美女が袋に入れたままの得物を振り抜き、ハスキー犬の横っ面をぶっ叩いたのだ。
B級ハンター以上は公共の場で武器を携帯することが認められているが、利用は禁止されているので、使っているところを見つかれば即逮捕である。
「ちゃんと袋に入れてますから!」
「……せやな」
グレーなんだよなぁ。
まぁお嬢さんのお顔がとても怖いので、俺の口からはもうそれ以上の言葉はない。少し汗を流し怒る魅力的な女性から視線を逸らせば、しょぼくれるハスキー犬こと陽太郎、よくあの一撃喰らって無傷で済むものだ。
痛がっているけどね。
「それで何か用?」
「久しぶりに見かけたから声かけた!」
「犬かな?」
やっぱり陽太郎は犬だな、見かけたからっていきなり大声で呼びかけながら走って来るなんて陽キャでもそんないないだろ。
しょぼくれていた顔をパッと明るくしてニコニコ顔で行ってくるものだからつい本音が漏れてしまうが、陽太郎はキョトンして理解していない様だ。
「違います。馬鹿犬です」
「なるほど」
なるほど。駄犬ではなく馬鹿犬の方だったか、やはり幼馴染だけあって理解度が違うのだろう。
「ひどくない?」
またも犬が二匹騒がしく吠え合い始めるが、なぜこんなにキラキラした陽キャが陰キャの俺の前に現れるのか、俺には理解が出来ない。
とりあえずもうそろそろ落ち着いてもらえないだろうか? 君らのキラキラした青春オーラで僕は焼け死にそうなのに、周囲から集まる奇異の視線で俺の精神力どころかライフまでゼロになりそうだ。
なんならそのまま灰になりそう。
いかがでしたでしょうか?
もうやめて! 羅糸のライフポイントはもうゼロよ!
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに! さようならー




